第二十一話 じゃあどう増やしたら?――投資信託を買う前に考えるリスク水準
今福 啓之
日興アセットマネジメント
ポイント
-
お金を増やす要素には元本×期間×利回りしかなく、元本と期間が固定なら「利回り」に期待するしかない
-
「利回り」水準を把握することで、自分に必要なリスクテイクの度合いが理解できるようになる
では少し照れるが早速始めますか。投資信託(投信)の仕事で32年目の僕が、父親の最後のアドバイスとして結婚した娘とその夫2人にこんな話ができるのは、まぁありがたいことだよね。
投資のスタートは「お金を増やす方程式」の理解から
毎月使っていくお金から考えると、取り崩しスタート時点の目標金額は3,000万円で十分。もし5,000万円に到達していたら最高って感じだ、という話をしたよね。
3,000万円なら月13万8,000円ずつ、5,000万円なら月23万円ずつを20年にわたって取り崩せるっていう計算から逆算した目標金額だったよね。
公的年金で基礎的な生活をまかない、月13万8,000円とか月23万円をプラスアルファの楽しみに、前向きにジャンジャン使って「Die with ZERO」、君たちに一銭も残さずに死ぬよ!って話だった。
さて、それを君たちに当てはめると、今から30年から35年後にその金額を作っているためには何をしたらいいのか?
ずっと、手取りの25%から30%の強制天引きを、できれば投信積立のかたちしなさいって話をしてきたし、その考え方で十分OKなんだけど、より深い納得を自身で持つためには、「目標金額を達成するための条件は何か」という切り口からも理解しておいた方がいいと思う。
ということで、今日は「お金を増やす方程式」の話をします。
これは僕が投信業界に入ってすぐに考えたことで、長年ずっと大事にしているコンセプト。はい、これ。
仰々しく言った割に大したことなくてゴメンなんだけど、この式で色んなことが学べると思ってるんで、今日はこれを使って説明していくわ。
まず「目標金額」とは、さっきの3,000万円や5,000万円のことだね。
さて、それを作るには3つの要素、変数があるってことを意味している。
まず「元本」。
その目標達成のために君たちはいくらのお金を出せるのか。これは一度にまとまったお金を投じる、いわゆる従来型の投資のやり方と、ずっと話してきた少しずつ元本を積み上げていく「積立投資」との2つがあるよね。
ちなみに前者のことを「一括投資」と呼ぶことがあるから覚えておいて。
次に「期間」。
その目標達成のためにいったいどれくらいの時間を充てられるのか。
65歳を目標金額の達成時点とした場合、君たちなら35年以上はあるわけだけど、キリよく35年としておこうか。
さてこの「元本」と「期間」の2つってさ、その人ごとに、個別に決まってしまう数値だよね。
だっていくら「本気の積立で!」なんて言われたところで、無理なく毎月出せる積立金額はその人や家計の事情によって自然と決まってくるし、人によって違うじゃない。
期間だってそうだよね。
今30歳の人なら35年だろうし、50歳の人なら15年ってことになる。
あるいは同じ30歳や50歳でも、その人が70歳まで働くつもりなら、40年や20年にもなるわけだ。
最初にすごくシンプルな算数をしてみようか。
例えば今は一括投資のお金がない、コツコツ積み立てるしかない30歳の人が「期間」として35年かけられる場合だ。
簡単だよね。目標金額の3,000万円を35年で割り算して、それを1年は12ヵ月なので12で割ってやれば、毎月の「元本」は7.14万円と出る。
つまりお金を増やす方程式は、こうなる。
(×0%)としているのは、毎月7万1,400円を銀行で積み立てたり投資信託で積み立てるのではなく、毎月淡々と現金で積んでいくってことを意味してる。
昔は「タンス預金」なんて言葉があったけど知らないかもな。
まぁ比喩的にだけど、タンスに35年入れ続けられれば、65歳になった時には必ず3,000万円が貯まっていると。
単純な算数だけど、具体的に金額が出るとさ、漠然とした3,000万円をどうやって作るかが急に具体的に見えてくるでしょ?
こんな風に自分で計算できるくらいのシンプル化した理解、人に説明してあげられるくらいの腹落ちをしていることって、すっごく大事なんだよね。
投資に期待するのが「利回り」部分
さて、でも「毎月7万は厳しい!」あるいは「私には35年は長すぎます!」という場合はどうしたらいいだろう。
そうだよね。「お金を増やす方程式」の最後の変数である「利回り」に期待するしかないよね。
さっきの割り算では、ただ35年で割って、それを12ヵ月で割っていた。つまり利回りをゼロと置いたわけだ。
それを仮に4%としてみようかね。定期の利息でも投資で信託の利益でも同じなんだけど、引かれる税金は約2割なので、元々5%だったのが8掛けで4%というイメージだ。
僕が作ったエクセルで計算してみると、こうなる。
これはエクセルの関数を使って計算した、目標金額3,000万円のための「積立元本」なわけだけど、答えは3.3万円となった。
毎年固定の4%の運用がずっとできたとしたら、つまり4%の預貯金で積み立てていったとしたら、毎月3.3万円の「積立元本」で35年の「期間」を頑張ることで目標の3,000万円は達成されるということだ。
タンスに入れていく「利回りゼロ」の積立なら毎月7万1,400円も必要だったのが、年4%という「利回りの力」を借りることで、毎月3万3,000円と半分以下で同じ目標が達成出来るという話だ。
どう、付いてきてくれてるかな?
とはいえ投資に「固定利回り」なんてないんだけどね
と言いながらで悪いんだけど、この「毎年固定の利回り〇%」は投資信託においては絶対にないんだよね。
これまで何度も話してきたように、投資信託を買うと、明日か1年後かは別にしてほぼ間違いなく一度は元本割れ、正確には「含み損」を経験することになる。
だって毎日基準価額が上に下にと動くんだからね。毎年の利回りが固定のはずがない。したがって「利回り」という言葉は、本当は投信の話に使われるべきじゃない。
それでもこんな計算をしてみせたのは、これによってすごく大事なことが理解できるから。
「もし固定利回りだったら」というあり得ない仮定を置いてでも計算してみることで、
まず、
「そうか、利回りゼロ、つまり預貯金で3,000万円作るなんて無理なんだな。毎月7万円の積立は無理なんだから」ってことに自分で納得ができる。
預貯金から一歩踏み出す、自分にとっての必要性に気付ける。
そして、
「そうか、固定ではないにしても、平均してこれくらいの「利回り」が必要なんだな。これは裏にある相応のリスクを取らない限り、絶対無理な水準だろうな」ってことに気付ける。
さらには、
「年平均で4%が必要ってことは安全重視の投資信託じゃ無理なんじゃないかな。投資対象としては株式がメインにならざるを得ないな」
といった具合に思考を展開させていくことができる。
つまり具体的な投資対象選び、そしてそれを実現させる具体的な投資信託選びへと進むことができる。
そして、始めた後のことで言うと、
「私が株式100%の投資信託で積立をしているのは、最終的に平均値で4%を取るためなんだから、今年が仮にマイナスだって気にしないでいいわけだ。逆に来年10%になったとしてもそこで売ろうかどうかと悩む必要もないんだ」
——という感じで、達観した考え方にも至れると思う。
って、ちょっと先走ってしまったね。
始めた後のことまで考えろって、ちょっと飛躍が過ぎたかもしれない。
これはまたあらためて詳しく話すから安心して。
今福 啓之
日興アセットマネジメント