第二十七話 アクティブファンドを擁護しようと思う

今福 啓之
日興アセットマネジメント

ポイント
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インデックスファンド以外のファンドは、ベンチマークを定めてプラスαを目指す「伝統的アクティブ」と、ベンチマークを設定せずに独自のコンセプトにのみ従う「コンセプトファンド」と呼べるようなファンドの2つに分類できる
では少し照れるが早速始めますか。投資信託(投信)の仕事で32年目の僕が、父親の最後のアドバイスとして結婚した娘とその夫2人にこんな話ができるのは、まぁありがたいことだよね。
インデックスファンド以外は認めない?
以前社外の人から「運用会社の人も、自分のお金は結局、皆インデックスファンドに入れてるんでしょ?」と言われてビックリした。
僕は「インデックスファンドはDC以外では持ってないんだけどなー」と思ったけど言わなかった。
最初の頃に軽く触れたけど、投資信託には流派が大きく2つある。
ひとつはずっと話してきたインデックスファンドというカテゴリーだね。
で、インデックスファンド「以外」をひとまとめにしたカテゴリーを「アクティブファンド」と呼ぶ。
アクティブって「積極的」なという意味の英語だよね。
でも「ファンドの中でバンバン積極的に売り買いする」ということではなく、投資する株式とか債券の銘柄を「インデックスファンドのように(指数通りという)受け身ではなく、積極的に選別しようとする」という意味なのね。
例えばS&P500という指数に対して、「私はGAFAMは今や割高だと思うから組み入れませーん。その代わり、この会社は有望なのでS&P500には入ってないけどこの会社を買いまーす」といったファンドだ。
つまりファンドマネージャーに銘柄選定の裁量が与えられているのがアクティブファンドで、S&P500などの指数を再現する以上の裁量が与えられていないのがインデックスファンドってことだね。

話を複雑にしたくないので結論を先に言っておくね。
NISAなどで資産形成の軸に据えるにおいては、何かしらの指数に連動するインデックスファンドにしておけばよろしい。
どの指数のインデックスファンドにするかはとても大事なんだけど、前回の話を参考に決めてくれれば結構。自己責任でよろしく。
その上で、どうか2人には「インデックスファンド以外はゴミだ」なんて思わないようにしてほしい。
具体的にはインデックスファンドを主軸にしながら、それ以外の要素をうまく組み合わせる意義を理解してほしい。この技術論についてはあらためて話すわ。
「ゴミ」だなんて極端な!と思うかもしれないけど、実際そういう過激な言葉遣いで発信するインフルエンサーの影響力もあってか、アクティブファンド全体が一顧だにされない状況は確かにあるんだよね。
ネットを見てると、「ネット証券でオール・カントリーのインデックスファンドを買うこと以外は認めない!」みたいな意見が多くなってるし、社外の人から「運用会社の人も結局コレ一択なんでしょ?」と聞かれたことが象徴するように、ちょっと極端に振り子が振れているようにも感じる。
さっき言ったインフルエンサーは、全てをわかった上で、初心者に対して汎用的で無難なアドバイスをするためにあえてそうした言い方をしてるんだけど、それがまるで「アクティブファンドは情弱な消費者から手数料を騙し取るための悪徳商品であり、我らがオール・カントリーだけが正義だ」みたいに広まっている現在の風潮は、少し怖い。
ウチの会社にもオール・カントリーのインデックスファンドもあるし、知恵をこらしたアクティブファンドもあって両方大事にしてるんだけど、僕としてはヒドい言われようのアクティブファンドの方に肩入れしたくなる。
せめてもう少しフラットに見てほしいと思う。
なので少し、アクティブファンドを「擁護」したい。
まぁ関係者じゃない君たちなんだから、話半分に聞いてくれればいいけどね。
アクティブファンドは2つに分かれる
一般的には「インデックスファンドvs.アクティブファンド」とされるけど、さっき言ったようにインデックスファンド以外がすべてアクティブファンドとされるせいで、実態としてこれはかなり乱暴な分類になっていると思う。
僕は「二択でなく実は三択だ」と言っている。
インデックスファンドと一般的なアクティブファンド、そして「コンセプトファンド」の3つだ。

まずアクティブファンドにおける「ベンチマーク」について説明しないといけないかな。
これはウチのあるファンドの目論見書なんだけど、一般的なアクティブファンドはこういう風に何を「仮想敵」として運用するかを宣言している。

このファンドは日本株のアクティブファンドなのでTOPIXをベンチマークとしているね。これはファンド毎に違っていて、世界株のアクティブファンドならオール・カントリー指数だったり、米国株のアクティブファンドならS&P500だったりする。
で、半年とか1年とか3年とかの期間を振り返ってみて、ベンチマークを上回るリターンがあげられていれば優秀だったね、そうでなければダメだったね、と評価されるわけだ。
このタイプのアクティブファンドの場合、もちろんファンドマネージャーの裁量権はあるんだけど、場合によってはまったくの「フリースタイル」がしづらくなる可能性がある。
ベンチマークとの短期的な勝ち負けを強く意識させられる場合、個性を出しにくくなる可能性があるってことだ。
例えば、「GAFAMは割高だから全く組み入れませーん」といった思い切った行動はなかなか難しくて、「GAFAMを入れないとベンチマークに置いていかれてしまう可能性があるから、GAFAMは同じ程度に組み入れておいて、他のところで特徴を出そうかな」みたいな感じ。
これはこれで、「規律ある自由演技」ってことでは決して悪いことではないんだけど、あまりに「ベンチマーク迎合」が行き過ぎると、つまりベンチマークを意識し過ぎて同じような中身になってしまうとそれは非常によろしくない。
そういうファンドは「隠れインデックスファンド」として海外でも結構な問題になってる。
アクティブファンドとしての相対的に高い信託報酬を取りながら、実態はインデックスファンドとあまり変わらない中身になってるじゃないか!とね。
ということで、そうしたファンドたちも含めて平均すれば、そりゃ全アクティブファンドのリターン平均は、信託報酬が高い分だけインデックスファンドに負けそうだよね。
こうした実情を知らずに「アクティブファンドはインデックスファンドに勝てない(と言われている)」、「インデックスファンド以外はとにかく敬遠すべきゴミ(らしい)」と思われているとしたら、それはとても残念だっていうのが、僕の意見。
もちろん、そんな「隠れインデックスファンド」、つまり「なんちゃってアクティブファンド」を選んではいけない。
ゴミとか悪徳商品とまでは思わないけど、単純に「だったらインデックスファンドにしとけばいいじゃん」って思う。その方がスッキリするよね。
そういうファンドを見分ける方法は専門的には色々あるんだけど、一番カンタンなのは運用会社のウエブにある月次報告書(マンスリーレポート)の「先月末の上位10銘柄」の顔ぶれを比較する方法かな。
そのアクティブファンドがベンチマークにしている指数のインデックスファンドを、どの運用会社のでもいいから探してきて、同じ時点の上位10銘柄と比べてみるわけ。
もし、ほとんど同じ顔ぶれが同じような順番で並んでいたら、それは限りなく「なんちゃって」だ。
アクティブファンドではなく「コンセプトファンド」
さて、アクティブファンドには要注意の「なんちゃって」があることを理解してもらった上で、さらに知ってもらいたいのが、第三の選択肢である「コンセプトファンド」だ。
端的に言えば、ベンチマークを「宣言」するのではなく、何をもって銘柄をしぼり込むかの考え方・コンセプトを「宣言」しているファンドってことになる。
さっき話した一般的なアクティブファンドと異なり、仮想敵を決めて勝った負けたをしない、そうしたタイプが「コンセプトファンド」だ。
一般的な指数(ベンチマーク)には縛られずに、ファンド毎に自ら定めた「コンセプトにだけ縛られる」ファンドってことだね。
具体的には、「このファンドは、AIやブロックチェーンなどの進展がもたらす金融関連の地殻変動を、長期で大きなリターンとして獲得することを目的としたファンドです」みたいなことを宣言する。この場合はきっと「何とかフィンテック株式ファンド」みたいな名前が冠されたファンドになるかな。
「世界的な労働人口の減少は確実に予想される未来であり、その裏返しとして必然な自動化ニーズを広範にとらえることで銘柄選定を行ない、長期的な資産増加を目指します」みたいな宣言をしているファンドには多分、「何とかロボティクス株式ファンド」みたいな名前が付くと思う。

いずれにしても、ファンド毎に「このファンドはどんな思想や未来予想をもって銘柄選択に臨むか」ということを宣言するタイプだ。
これは明らかに一般的なアクティブファンドと違うよね。
世の中の「今」を広くとらえるインデックスを基準にして、それに勝とうと努力するのではなく、「今」ではなく「未来予想」から意思決定するっていうんだから。
あるファンドマネージャーの目利き力に期待して、どんな銘柄やどんな業種を重視するかなどは全面的に一任してしまおうという一般的なアクティブファンドに対して、「コンセプトファンド」は一流ファンドマネージャーの腕に頼るというよりは、そのファンドが規定する世界に「共感するかしないか」がポイントとなるファンドってことだ。
英語ではこういうタイプを「ベンチマーク・アグノスティック」と呼ぶらしい。
アグノスティックとは「~に依存しない」という英語らしいので、まさにベンチマークに依存せずコンセプトに規定されるという意味だよね。「コンセプトファンド」という造語は悪くないと、自分でも思うな。
2人にはこの「コンセプトファンド」という世界に是非とも興味を持ってもらいたいと思う。
すぐにそうしたファンドを買えとは言わないし、まずはNISAを中心にオール・カントリーとかのインデックスファンドを買うのでよろしい。
でも、長期の時間軸で人生設計をしようとする君たちならばこそ、必ず興味を持ってもらいたいと思う。
なぜ僕がそんな風に思うかというと、これこそが株式投資の本来の姿だと思うから。
僕は32年前に証券マンになって以来、ずっと株式市場と付き合ってきたわけだけど、株式投資っていうのは、将来の世の中を想像して、それと現在のギャップに知恵を絞り合う世界だと思うんだよね。
人間に欲がある限り世界は前進し、僕らが思いもしないような商品やサービスが将来生まれ、企業の新陳代謝がその必然として起こる。そうしたドラスティックな潮流の変化をいかに早い段階から想像し、行動できるかが、株式投資の成否を分けるんだと思ってきた。
僕らが呼ぶ「コンセプトファンド」ってまさにこれなの。
今年とか来年とか、インデックスが上がったとか下がったとかでなく、10年後20年後の世の中がどう変わっているか、どんな企業がそれをリードしているのかを今想像し、行動する――それこそが株式投資の本来の姿だと思うわけ。
あとはもしかするとインデックスファンドだけでは、「将来のための長期戦略」としては不十分かもしれないからなんだけど、これは後で話すね。
陳腐な「テーマ株ファンド」じゃないの?
ただ、インデックスファンドしか認めない人たちは、この手のファンドを「テーマ株ファンド」として、それこそ避けるべき筆頭のファンドのように言う。
そんなに単純な話じゃないんだよね。
確かに明らかに薄っぺらい、無理やり作り上げたストーリーで売ろうとする「何ちゃってコンセプトファンド」はあるし、これまでもあったのは事実だと思う。
昔から日本の投資家ってとにかく我慢が利かなくて、そうした「テーマ株ファンド」を短期テーマとして買い、少しでも利益が出たらすぐに売ってしまうことが多かった。あるいは下がってしまったら、すぐに諦めて売ってしまう人が多かった。
でもそういうファンドも、長い時間が経った後から振り返ると、ちゃんと大きく上がっていることも多いんだよね。それこそインデックスファンドよりも大きく。
ただ、皆本当に短気で短期だから、それらを長期でずっと持っていたという人は多くないわけ。結果として皆、「あのテーマ株ファンドには騙された」みたいに言いたくなる。
そもそも大事なこととして、どのテーマにしてもコンセプトにしても、そこで規定した未来の世界は半年や1年で実現するはずはないんだよね。
フィンテックが既存の金融を破壊する世界も、世の中がロボティクスで効率化していく世界も、皆がファンドを買った翌日から半年とか1年で実現するはずなんて、元々ない。
でも、前にも話したように「残念ながらマーケットはひとつ」だから、コンセプトファンドが長い時間軸のもとで保有する企業の株価も、短期的な投資家の動向によって振り回されてしまう。
すると、ファンドの日々の基準価額はその株価を反映するしかないから、毎日上に下にと結構動くことになる。
目先の鋭い投資家がそうした企業に飛びつき株価が急上昇して、ファンドの基準価額が驚くほど上がることもあれば、その反動で手のひらを返したように彼らから「叩き売られて」しまい、それを反映するファンドの基準価額も大きく下がる、といったことは当然起こる。すると、「覚悟」のある人以外は売却してしまう。
コンセプトファンドが想定している時間軸と、短気な市場や短期な投資信託の買い手が思う時間軸のミスマッチ。これが、過去の日本の投信の不幸なのかもしれないな。
でも君たちみたいな元々の時間軸が超長期の人なら、まずこの点が以前のシニアな投資家と根本的に違うと思う。
コンセプトの時間軸と投資家の時間軸が合っている。これってとても意味のあることだと思うんだよね。
何だか、僕の業界人としての悩みをただ吐き出したみたいになっちゃったね。でも、インデックスファンドで基礎を押さえた後に興味を持ってもいい世界があることが、少しは伝わっただろうか。
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今福 啓之
日興アセットマネジメント
