「2人の娘とその夫」に送る資産形成の黄金律

第二十八話 NISAをどう考えるか

公開日

今福 啓之

日興アセットマネジメント

ポイント

  • NISAは最後に売った時の利益に対する税金が免除される口座でしかなく、「中で何をどう買うか」だけが重要

  • NISAの生涯枠1800万円を使うことありきで考えるのではなく、買いたいファンドが先にあるべき

では少し照れるが早速始めますか。投資信託(投信)の仕事で32年目の僕が、父親の最後のアドバイスとして結婚した娘とその夫2人にこんな話ができるのは、まぁありがたいことだよね。

NISAは単なる口座の名前でしかない

ちょっと難しい話が続いてしまったので、気分を変えて、NISAについて話そうかな。

NISAって名称は2人とも知っていると思うけど、要は何なのか、どう使ったらいいのかについては大丈夫だろうか。
ひとことで言えば、その口座で買った投資信託については、売る時に利益に対してかかる約2割の税金が免除されるという、国が用意してくれた非課税制度のことだね。

まさかNISAって名前の商品があると思ってはいないと思うけど、今言った通りNISAはただの制度でしかなく、それ自体が何か特別な力を持っているものではない。
その口座の中で買った投資信託がいつか利益を生んではじめて、「NISAで買っててよかった!」となるという、言ってみればただそれだけの話

ずっとずっと先の売る時になって初めて意味を持つ話ってことだ。売るまではNISAだろうがNISAでなかろうが、何も変わらない。

つまり、これまでずっと話してきたことが大事なのであって、それを最後にどの口座で買おうかという、いわば口座選択の話でしかないってことだね。

本来、預貯金も株式や投資信託も、その金融商品から得られた利益等には20%の税金(所得税15%+地方税5%)がかかるんだよね。2037年までは東日本大震災からの復興のための復興特別所得税が所得税15%の2.1%分(0.315%)かかるため、現在の税率は非常に中途半端な20.315%になっている。

もし普通の口座で100万円の投資信託を買って将来200万円になった場合、売却すると利益の100万円の20.315%、20万3,150円が差し引かれた1,796,850円が売却代金として得られるところ、もしそれをNISA口座で買っていた場合には200万円で受け取れるということね。

NISAは国の制度なので、ひとりがあちこちの金融機関でNISA口座をたくさん開いて際限なく非課税の恩恵を得るようなズルをしないよう、「名寄せ」という管理が行なわれてる。
したがって僕らはどこか1つの金融機関でしかNISA口座を持てない

途中で変更することはできるけどまあまあ面倒なので、余程のことがない限り一度開いたらずっとそこで続けるつもりで金融機関を選ぶ必要がある。最初の頃に話したように、だからこそキャンペーンとかポイントで決めないことが大事だ。

NISAで買える商品は制限付き

投資信託を買う一般の口座とは異なり、NISAでは買える商品が限定されているんだよね。

その話の前にまず、NISAの口座が2つの「枠」に分かれていることから説明しとこうかな。
ひとつは「つみたて投資枠」というもの。その名の通り、毎月の投信積立を前提にした枠。

その金融機関が用意するラインアップの中から選んだ「〇〇ファンド」を「毎月〇日」に「〇万円分」買っていく、という指定をするということね。
具体的には注文の画面に行ったら「特定口座」「NISA(つみたて)」「NISA(成長)」みたいなチェックボックスがあるはずなので、そこで「NISA(つみたて)」にチェックを入れるだけでいい。

「特定口座」っていうのは普通の口座のこと。NISAの枠を使い切った後はこれで買うしかないし、後で話すけどNISAでは買えない投資信託を買う場合には、この口座を選ぶ。当然、売る時に利益があったら、そこに課税される。
もうひとつの「NISA(成長)」についてはあとで話すね。

さて、「〇〇ファンド」を「毎月〇日」に「〇万円分」を「NISA(つみたて)」の枠で買うという「初期設定」が済めば、あとは自動運転だ。僕自身の32歳からの積立の話をしたように、ストップしない限りずっと続いていく。

さて、「つみたて投資枠」で選べる商品だけど、金融機関によって異なる。例えばウチの会社の投資信託を採用するか、他の運用会社のを採用するかは販売会社の自由なので、金融機関によってつみたて投資枠ラインアップは異なるわけだ。

とはいえ実は、金融機関が採用する前の大元のところで、国が「つみたて投資枠」の対象ファンドを審査しており、そもそもの全体数が相当にしぼられているんだよね。
どの金融機関もそのリストからピックアップした「国の認定済み」の商品しかラインアップできないという意味では、金融機関によってすごく大きな違いがあるわけではない。

その審査項目の一番大きなものは「ノーロード」であること。つまり購入時手数料がゼロということね。そして信託報酬にも上限値が設けられている。

そういえば、ネットを見ていると「数年前から(昔の)つみたてNISAを銀行でやってきたが、銀行は手数料が高いと聞くので、もう解約してネット証券に移した方がいいでしょうか」といった声を見ることがあるけど、これはもうひどい間違い。

あとで説明するもうひとつの枠の方では購入時手数料がかかるものもあるし、信託報酬率も安いものから高いものまでバラつきはあるけど、こと「つみたて(昔のつみたてNISA)」の分に関しては銀行でもネット証券でも購入時手数料はゼロで同じだし、信託報酬率についてはそもそも販売会社が決めるものではなく運用会社が決めているのだから、同じ商品ならどこで買っても同じ

もちろん、ネット証券の方が品揃えが豊富で、今の銀行では選びたい商品がないから――という理由なら、ネット証券に鞍替えしたらいいけど、世の中の「ネット証券以外の金融機関には近づくな」といった声に影響されただけの判断なら、それは正しくないな。

自分が手続きや商品選択に関するアドバイスを必要としているのか、相場変調時にアドバイスしてくれる店舗や人の存在を心強く思うのかどうか、などで決めればいいと思う。
まあ君たちは、僕がこれまで長いこと話してきたことを2人で咀嚼して腹落ちしてもらえば、もう十分、自分たちだけでやっていけると思う。何かあれば僕を呼んでくれればいいし。

話を元に戻すと、NISAは個人の資産形成のための長期投資にふさわしい投資信託がラインアップされるように制度設計されているってことね。特につみたての分についてはかなり厳格。

インデックスファンドについては「この指数のインデックスファンドに限る」という「指定インデックス」というものが設けられていて、日本の株式ならTOPIXと日経225(日経平均株価)などは指定インデックスだけど、例えば中小型株指数などは指定外なので、どの金融機関に行ってもラインアップに並んでいないわけ。

新興国株式のインデックスも、MSCIエマージング・マーケット・インデックスというのは指定インデックスだけど、例えばインド株の指数は指定外なので、いくらインデックスファンドであっても、インド株インデックスファンドはつみたて枠では買えないわけ。

インデックスファンド以外、前回話した「コンセプトファンド」を含むいわゆるアクティブファンドのジャンルでは、ファンドの大きさ(純資産総額)が50億円以上で、設定から5年以上経っていて、その3分の2以上の期間において売る人による解約金額よりも購入金額の方が上回っていること、そして信託報酬は国内資産を対象とするファンドなら1%以下、海外資産を対象とするファンドなら1.5%以下、といった要件が定められている。

これ、相当に厳しいのよ。だからアクティブファンドで「つみたて枠認定」を得られたファンドは、同業として大したもんだ、と思う。ウチも本当に限られたものしか適格になれてないから。

ちなみにマニアックな補足だけど、指定インデックス「以外」のインデックスファンドでも、こっちの要件の方で「つみたて投資枠」の適格になっているのが最近出始めた。インデックスファンドなのに「アクティブ枠」で要件を満たしちゃった、というちょっとレアなケースだね。

さて、各金融機関は、あらかじめ指定された指数(指定インデックス)のインデックスファンドと、厳しい要件に合格したアクティブファンドの各運用会社のリストの中から、自社にふさわしい「つみたて投資枠」のラインアップを作っているというわけ。

ではもうひとつの枠の話もしますか。「成長投資枠」っていう名前。

でもこれ、少し誤解を招きやすい名前だと思うんだよね。「つみたて投資枠」も、というよりNISA制度自体がお金の成長を期待した投資のための枠組みなんだから、この成長投資枠だけにことさら「成長」と付けるのは、ちょっと違和感を覚えるね。

皆が皆、「そうか、成長投資枠だから大きなリスクを取って成長を狙わなくては!」などと思ってしまうとしたら、それは違うと思うね。あとで2つの枠の使い方のところで、詳しく話します。

「成長投資枠」で買える投資信託については、「つみたて投資枠」ほど厳格ではないもののやはり認定要件があって、それは信託期間、つまり投資信託の運用が終了するまでの期間が20年以上あり、毎月分配型ではなくて、運用の中でデリバティブ取引というものを行なっていない投資信託に限る、など。

運用できる期間があと10年しかないようなファンドはお断りだし、毎月分配金を払い出すファンドも認めないし、複雑な取引をするファンドもふさわしくない、ということだね。

各金融機関は運用会社が提示した「成長投資枠適格リスト」から、「つみたて投資枠」と同じようにピックアップして自社のNISAラインアップを完成させている。

きっと見直しはされていくのだと思うけど、NISAが想定しているお客さん像を考えると、いたずらに数を増やすことはしないだろうな。多すぎても選べないからね。

NISAで買える金額の上限が決まっている

さて、買える商品の概要が分かったところで、「その枠はいくらまで使えるのか」について話すわ。

国もさすがに「いくらまで入れてもいいよ、そこから出る利益は全部非課税にするよ」という青天井にはしてくれなかったのね。ひとり1,800万円の投資元本の上限が付けられている。

ある人が「同時に」保有できる「元本」の合計の上限という意味ね。
あくまで元本だから、NISA口座に入れた投資信託が上昇して時価が3,000万円になっても、もちろんOK。それこそがNISAの目的だから。

1,800万円が3,000万円になって売った利益1,200万円が非課税ってことだ。
でもその1,800万円の元本のうち、例えば500万円の元本で買った投資信託が800万円になった分、それを「部分解約」したら、500万円分が1,800万円の合計上限から「枠が空いた」として、翌年に復活するの。

積立など同じものを複数回買っていた場合は、どれが売った分の元本に相当するのかがヤヤコシイけど、そこは平均の買付単価を用いて販売会社側で計算してくれるから大丈夫。

これ、ありがたいことなんだよね。
長期投資のつもりでいても、急にお金が必要になることはあるかもしれないじゃない。その時に一部売却した分の元本相当金額を、翌年またNISAの中に入れることができるのだからね。
ただし、翌年に早速その500万円を一気に投資することはできない点は要注意。

なぜかというと、それぞれの枠ごとに「1年間で使える上限枠」というものが決まっているから。
「そんなにハイペースで1,800万円を使ってはダメですよ。積立も含めた時間分散で資産形成してくださいね」っていう金融庁のメッセージを感じる設計だな。

。

はい、これがそれぞれの枠の年間上限ね。
「つみたて投資枠」は年120万円までだから、毎月の投信積立の金額で考えると12ヵ月で割った月10万円。

2023年までの(旧)つみたてNISAでは年40万円・月当たり約3万3千円が上限だったから、2024年からいかに制度が拡大されたかが分かるよね。

「成長投資枠」は年240万円まで
1年のうちどこか自分がいいと思った時に240万円分買ってもいいし、例えば60万円ずつに分けて4回とか、80万円ずつの3回とかに分ける「マイルール」でもいい。

手動で「分割投資」するのは面倒だから、この枠についても別途、毎月の投信積立の「自動運転」をセットしたいということも可能。

その場合は年240万円÷12ヵ月の月20万円までの積立ができてしまう。
つみたて投資枠での積立が月10万円までだから、両枠を合わせると、何と月30万円の毎月の投信積立を非課税制度の中でセットすることが可能だ。いったいどんな人がそんな金額の積立をするのか、と思う金額だけどね。

ちなみに、もうひとつだけルールがあって、それは「成長投資枠」の合計上限は1,200万円まで、というもの。
1,800万円のすべてを「成長投資枠」だけで埋めてはダメですよ、という意味だな。
「つみたて投資枠」だけで1,800万円を埋めるのはOKなんだけど、なぜか「成長投資枠」だけで埋めるのはダメなんだ。

成長投資枠の毎年の上限は240万円だから、毎年やっていると5年で1,200万円に達することになるね。
ということは、1,800万円に対する残りの600万円分をもったいないと思う人は、「つみたて投資枠」を使って600万円を埋める必要があるということだ。

この2つの枠は併用できるんだけど、同じ金融機関でないとダメなの。
「つみたて投資枠」はA社で「成長投資枠」はB社で、というのはダメ。あくまでもNISA口座の中の2つの枠だからね。

どうだろう。制度の仕組みは以上なんだけど、理解できたかな。
最初に言ったように、NISAは単なる口座の名前であって、売る時までは関係ない。売る時に利益に対する税金が免除されるってだけだからね。

つまり、中で何を買うかの大方針こそが大事
それがNISAで買えるならNISAの中で買えばいいし、仮にNISAでは買えない投資信託が自分にとって買うべきものだと思うなら、NISAを使わずに特定口座(普通の口座)で買えばいいのよ。ちょっと極端なこと言ってますけど。

例えばNISAで買った100万円のファンドが200万円と2倍になったら、100万円の利益はフルで受け取れるよね。でも、特定口座で同じ100万円が225万円になっていれば、利益125万円の8掛けは100万円だから、税金払った後の金額はNISAのケースと同じなんだよね。

「せっかくの非課税枠を使わないのは損だ」って思う? もちろん上限1800万円まで使えばいいし、大概のファンドはNISAで買えるからNISAでいい。
でもあえて言いたいのは、「NISAを埋める」から考えるのは順序が逆だということ。

最初の頃に、人気ファンドランキングとかYouTuberの意見に従って買うファンドから決めようとするのは順序が逆だよ、って話をしたのを覚えているだろうか。
毎月の「天引き金額」の決定が一番で、商品は最後だ、って話をしたよね。

NISAについても同様で、「非課税で最大限にトクしてやろう」なんて考えから投資を考え始めないでほしい。買いたいと思う、自分にとって必要だと思うファンドを選ぶのが先。

次回、またファンド選びの話に戻ろうと思う。
課税口座であってもNISAであっても大事な、最後のファンド選びの話だね。

今福 啓之

日興アセットマネジメント


当ページは、一部個人の見解を含み、会社としての統一的見解ではないものもあります。


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