本稿は2023年10月24日発行の英語レポート「Balancing Act」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

グロース資産のスコアをプラスに維持、ディフェンシブ資産のスコアは引き上げ

投資環境概観

景気減速が「そろそろ」やってくるとの一般的な見方に反して、米国経済は堅調な足取りを維持しており、債券利回りは景気の強さに応じて長期金利の再調整が必要という金融の現実を織り込み続けている。この調整は積極的かつ早急に進み、10月初旬にかけては節操のない展開になりつつあった。それでも、この類いの動きには自ずと限界があるもので、何かしらの破綻が起きて政策当局が対応するか、あるいは金融引き締めが景気を鈍化させて債券が再び投資妙味を回復する。

債券と株式が密接な相関性を伴って下落したことは、2022年を彷彿とさせる。しかし、2022年当時は景気も企業収益も鈍化しており、一方で米FRB(連邦準備制度理事会)の引き締めサイクルはまだ序盤であった。これとは対照的に、2023年は景気がそこそこ好調で、企業収益予想が上方修正されているとともに、金利が中央銀行の目標にかなり近づいているとみられる。引き締めサイクルにおける現在の段階を考えると、今回のような市場動向はどうもしっくりこない。とは言え、米国で積極的な金融引き締めが大規模な財政出動と混在したことはかつてなく、後者は究極の中和剤ということなのかもしれない。

景気が減速するか、(2022年9月の英国年金、2023年3月の米国地方銀行のように)何かしらの破綻が起こるかすれば、債券が上昇して株式の下落のバッファーとなる可能性がある。当社では景気とインフレの状況を引き続き注視し、より危機的な展開となり得る局面への転換点を探っている。しかし、そのようなシナリオを示す十分な証左は今のところないため、景気見通し、そして急速にフェアバリューに近づいている債券市場に対して、ポジティブな見方を維持している。

クロス・アセット

当月は、グロース資産のスコアをプラスに維持するとともに、ディフェンシブ資産のスコアを若干のプラスへと引き上げた。FRBの金融政策における「高金利の長期化」が織り込まれるのに伴い、グローバル株式のセンチメントは市場全体にわたってかなり悪化している(高金利の長期化という環境が示唆するのは、企業収益見通しの継続的向上を裏付けとして景気が好調さを増すことだという意味では、直感的に矛盾する話だが)。それでも、2022年10月に安値を付けてから、2023年3月の銀行危機を受けた一時的中断を除けばほぼ1年にわたって力強い上昇が続いてきたことを考えると、調整局面を迎えるのは妥当であり今回の反落は健全なように見受けられる。今回の市場の調整は、まだ経済指標には現れていない将来の景気低迷を織り込みにいったと解釈するのが妥当だろう。しかし、すべてを考慮すると、米国の財政出動、テクノロジーの投資機会、中国における若干の状況改善とそれ以外の地域における緩やかな経済成長といったプラス材料は、今のところ景気低迷のリスクを上回っているように思われる。

一方で、先進国の債券市場は相場水準の魅力度が増したと考える。先進国の債券は魅力的な利回りを提供しており、中央銀行のさらなる政策引き締めにより景気がついに悪化すれば大幅な価格上昇の可能性があるため、当月はディフェンシブ資産のスコアを引き上げた。最近は株式と債券のあいだで下落方向に正の相関が見られているが、これについては負の相関に戻ると予想しており、そうなれば景気減速懸念が再燃した場合にバッファーとなり得る。

グロース資産のなかでは、インフレが今後数ヵ月高止まりした場合にヘッジとして機能しやすいコモディティ関連株のスコアを再度引き上げ、前月同様、その分、先進国株式と新興国株式のスコアを若干引き下げた。ディフェンシブ資産では、投資適格クレジットのスコアを引き上げて小幅なプラスとし、その分、先進国ソブリン債のスコアを引き下げたが、後者については、景気動向に加えてそのディフェンシブなデュレーション特性などを考慮すると、利回り水準は魅力的であると考える。

マルチアセット・チームのクロス・アセット見解は、(1)グロース対ディフェンシブ、(2)グロースおよびディフェンシブ資産内でのクロス・アセット、(3)各資産クラス内での相対的な資産の見方、という3つの異なる段階で示しています。これらの段階は、選好順位の水準は資産クラスが予想可能な形で似た動きあるいは異なる動きを見せるという当社のリサーチおよび直感的認識を表しており、したがって、資産クラスのクロス・アセットでのスコアリングは理に適っているとともに、最終的により熟考された堅固なポートフォリオ構築につながると考えます。

資産クラスの選好順位


当社の見方

グロース資産

グロース資産に対してはポジティブな見方をしており、世界の他の地域に比べて景気の状況が有利な日本と米国に特に注目している。もちろん、十分に好調な景気や企業収益などファンダメンタルズ面の好材料に市場が反応しない時は、一旦立ち止まって最近の市場低迷で見逃していたかもしれないことを検討すべき理由となる。

米国の企業収益予想の修正は2023年2月頃に下方から上方へと転じ、この転換が株式相場を支える重要な柱となってきた。これは、企業の業績ガイダンスと(ある程度は)アナリストの予想によるボトムアップ視点からの市場の見通しであり、当社では、景気が予想外の悪化を見せない限り、このような見通しが株価をサポートしていけると考えている。

トップダウンの視点からは、市場参加者はリセッション(景気後退)が近いと予想して弱気になっているが、経済指標にはまだそのようなシナリオが反映されていない。これまでの積極的な金融引き締めによる景気減速のリスクを指摘するのは的確であるものの、金融引き締めの効果を概ね弱めてきた財政出動という大きな相殺力を市場は過小評価していると考える。

景気動向を考察すると、需要の原動力は現実的かつ持続可能なものであり、最近の市場のボラティリティは長期金利の急変動に対する反射的な調整であったと思われる。当社では金利はフェアバリューに近く「高金利の長期化」の大半が織り込み済みと考えており、金利は今後安定して企業の第3四半期決算が株式市場のサポート材料となる可能性がある。

日本および米国の株式を引き続き選好

当社では以前から日本株を有望視しているが、その主な理由は、日本の構造改革が実を結び同国経済が30年以上続いたデフレからようやく脱却するとみられることだ。最も重要な点として、インフレの加速を受けて、企業は資本を投下し資本利益率の長期的改善を支える必要が生じており、この動きはしばらく続く可能性がある。

また日本は、依然緩和的な金融政策や高い名目経済成長率、円安も企業の追い風となっているのに加え、各国企業・政府が引き続き中国以外への分散を進めようとしているなか、アジアの製造業や需要への代替アクセスとしての利便性を提供しており、新規投資の恩恵を享受しやすい。

日本市場が魅力的な理由はもう1つある。それは為替ヘッジに伴うキャリーで、米国の投資家にとっては現在5.6%となっている。外国株式に投資する場合、為替リスクは総リスクの一部として受け入れるか、ヘッジするしかない。通常、為替ヘッジのコストは二次的な検討事項だが、為替ヘッジのキャリーで5.6%が上乗せされ配当との合計で利回りが7.8%となる日本株は、国内投資家にとっても外国人投資家にとっても魅力的な選択肢であると考える。

チャート1


米国については、前述の通り、2023年2月から企業収益予想の修正が上方に転じているが、株価との乖離はここ数ヵ月でかなり拡大しており、企業収益予想の上方修正が加速している一方で、株価は下方圧力に晒され続けている(チャート2参照)。

企業収益予想の修正は将来の予想を表すものだが、チャート2の2020年と2022年が示すように、市場がすでに下落する前に企業収益予想が低下することは(あったとしても)ほとんどない。企業収益予想は株価上昇局面でも遅行する傾向があり、S&P500種指数が底を打ったのは2022年10月だが、企業収益予想が底を打ったのは2023年2月である。

現在、S&P500種指数構成企業の平均EPS(1株当たり利益)予想は237米ドルと過去最高水準にあるが、同指数自体は4328ポイントで、2022年初頭の高値4800ポイントを7.6%下回っている。株価は決して「割安」ではないが、PER(株価収益率)で見ると、現在は18.2倍と2022年初頭の22.0倍に比べて妥当な水準にあるとみている。

米国株式に対しては、財政出動に支えられている模様の経済の好調さを主な理由として、ポジティブな見方をしている。また、長期的な成長機会(人工知能など)についても、特に有望な見通しを持っている。

チャート2

グロース資産に対する確信度の強い見解

  • 日本と米国を引き続き選好:当社の見方に変更はない。夏季に始まり当月初旬まで続いた市場の下落は、景気への懸念というよりも金利の上昇に起因したものであったと考える。長期金利はフェアバリューに近い水準にあるとみており、株式市場は下方圧力が後退して景気と企業収益に支えられていくと想定される。
  • コモディティ関連株を金利上昇へのヘッジとしてとして選好:エネルギー価格は依然底堅く、中央銀行がインフレを目標水準まで引き下げるにあたってリスクとなっている。インフレ・リスクと金利上昇に対してヘッジとなりやすいエネルギー株およびコモディティ関連株全般を選好する。
  • 世界的な在庫サイクル:在庫サイクルは転換しつつあるとみており、これが需要全般を下支えして韓国や台湾などの輸出経済国や日本に有利に働くと考える。

ディフェンシブ資産

ディフェンシブ資産では、ソブリン債のスコアを若干引き下げた。インフレが減速を続けるなか、各国中央銀行は金融引き締めの最終段階にある。しかし、大半の国では雇用が引き締め政策に対して耐性を示し続けており、政策金利が引き締め水準に据え置かれて利下げの可能性が2024年まで先送りされるであろうことを示唆している。世界の債券利回りはこの「高金利の長期化」シナリオを織り込んで調整し、長期金利がキャッシュ・レートの水準へと上昇してイールド・カーブの長短逆転の度合いが小さくなってきている。

反対に、ソブリン債のスコアを引き下げた分、投資適格クレジットのスコアを引き上げた。当該資産クラスは現在、バリュエーションとモメンタムがプラスとなっているが、ただしマクロ環境が徐々に悪化していることを念頭に置いておく必要がある。2023年はこれまでのところ、世界経済が予想以上の好調さを見せており、これを受けて投資適格債のスプレッド動向は底堅さを増している。米国の景気は依然堅調な模様でリセッションを回避できる可能性があることから、年内は投資適格債のスプレッドがじりじり縮小するとみられる。

ハイイールド債についてはスコアをマイナスに据え置いており、投資適格クレジットの方を強く選好している。ハイイールド債のスプレッドは、欧州の景気減速にもかかわらず2023年を通じて良好なパフォーマンスを続けている。ハイイールド債はモメンタムがプラスだが、スプレッドが長期平均を下回っておりバリュエーションが割高となっている。これまで大規模な金融引き締めが実施されてきたことを考えると、倒産件数が増加する可能性があることから、当該資産クラスはパフォーマンスの悪化するリスクが相対的に高いとみている。

高金利の長期化

FRBは7月の政策会合で今サイクル11回目となる利上げを実施したが、これで利上げ幅の合計は5.25%に達し、1980年代以降で最も積極的な金融引き締めとなった。FF(フェデラル・ファンド)金利誘導目標の現行水準は、FOMC(連邦公開市場委員会)のメンバーが直近の経済予想で示した予想値に近い。最終的にあともう1回利上げが行われるどうかについてはまだわからないが、今回の利上げサイクルが終盤に達した可能性は非常に高い。

FRBの引き締めサイクルが終わりに近づいている可能性があるなか、FOMCメンバーの発言には顕著な変化が起こり始めている。同メンバーは、FF金利の誘導目標をさらに引き上げる可能性にはあまり関心がない模様で、むしろ、高金利を市場が織り込んでいるよりも長い期間にわたって維持することに重点を置いているように見受けられる。FRBと市場価格との間にこのような予想の乖離が現れ始めたのは、ほぼ12ヵ月前のことである。チャート3は、引き締めサイクルが始まってからのFF金利誘導目標の引き上げと米国債10年物利回りの推移を比較したもので、丸で囲んだ部分は長期債利回りがFRBによる利上げに抗い始めた時期を示している。

チャート3


10年債の利回りがFF金利を下回るというイールドカーブの逆転は、今回の利上げサイクルの中盤辺りで起きた。今回の引き締めサイクルに先立つ1990年代以降の4回の引き締めサイクルでは、10年債利回りは最終的なターミナル・レート(利上げサイクルにおける最終到達点の金利水準)の水準でピークを迎えるか、それを大きく上回る水準に達することもあった。言い換えると、FF金利の誘導目標を引き上げることは、債券利回りもイールドカーブ全体にわたって上昇すべきだという市場への実質的なシグナルなのである。そこで現在に話を戻すと、米国のイールドカーブは利上げサイクルの開始とともに過去に見られた通り上昇し始めたが、2022年終盤にはこうしたパターンから逸脱した。以降、FRBはさらに5回の利上げを行ったが、長期利回りはこれに追随せず、イールドカーブの大幅な(かつ極めて早期の)逆転につながった。

では、なぜそれが重要なのか。当社の観点からは、主に2つの理由がある。1つ目は、長期金利がキャッシュ・レートの上昇に追いつかない場合、結果として金融引き締めの影響にばらつきの出る可能性が高いことだ。経済のなかで短期の借入金利に依存する分野は金利上昇の打撃をフルに受けるが、長期借入が可能な他の分野は影響がより小さくなる。これは実質的に、あらゆる金利がキャッシュ・レートとともに上昇する典型的なサイクルに比べて、FRBの得られる「費用対効果が低い」ことを意味する。

1つ目の理由の反映でもある2つ目の理由は、利上げの経済への影響も顕在化に時間がかかることだ。2023年前半の米国の実質GDPは、過去の平均成長率を若干上回る伸びを続けており、第3四半期についても現在、同様の成長の継続が見込まれている。景気が好調なのには、金利が一律に上昇しなかったことだけではなく、財政政策も大きく寄与をしているとみられ、当社ではこれが重要な要因だと考えている。そこで、「高金利の長期化」軌道を強調するようになってきたFRB高官の発言トーンの変化と、最近の長期債利回りの上昇に話を戻そう。FRBは、キャッシュ・レートが十分な引き締め水準に達したことを示唆する一方で、イールドカーブの長短逆転度合いが縮小すれば景気を鈍化させインフレを目標値まで減速させるという同中銀の目標も達成しやすくなるというメッセージも発しており、市場はこれに気付きつつある。


ディフェンシブ資産に対する確信度の強い見解

  • オーストラリア債券は引き続き魅力的:オーストラリアのイールドカーブは依然として長短金利が逆転しておらず、他の先進国の多くに比べて投資魅力度が高い。また、同国の投資適格債のスプレッドは先進国のなかでも最も大きい部類に入り、他国市場に比べて平均を上回る上乗せ利回りを提供している。
  • 新興国債券の利回りは魅力的:現地通貨建て新興国債券の実質利回りは総じて非常に魅力的であり、ドルの全面安を受けて当社ではクオリティの高い新興国通貨を選好している。

プロセス

リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:

リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:



当資料は、日興アセットマネジメント(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社のファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社が保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のグラフ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社のものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。