本稿は、2023年11月21日発行の英語レポート「Future Quality Insights」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

2023年12月


ここ数週間の英国では嵐のような天候が続いたが、雨と風の合間に新鮮な空気を吸いに出かけるのはいいものだ。筆者の地元であるスコットランドのビーチでさえ、しばらくは人気のサーフィン・スポットになっている。サーフィンは、運動、アウトドア、そして特に悪天候との闘いからの完全な気分転換を兼ね備えた娯楽として、なぜか筆者には個人的にいつもとりわけ魅力的に映る。残念ながら、筆者のスキル・柔軟性不足により、実際にボードの上に立ってみるという試みは、「がっかり」(筆者の子供達に言わせると「実に恥ずかしい」)としか言いようがない経験となったが。

サーフィンはまた、我々が目にしている市場の進化の良い例えとも言える。2009年以降、各国中央銀行がボラティリティの抑制にあらゆる手を尽くす環境が続き、このため多くの投資家が市場は比較的予想しやすいと思い込んでいる。

ユーロ危機や、より最近ではコロナ対応のロックダウン(都市封鎖)のような予期せぬ事態がもたらすボラティリティを抑制するために、量的緩和(QE)が定期的に使われるようになったことで、経済統計やアセットオーナーの資産配分、そして全般的な投資家心理が固定化されてしまった。サーフィン用語で言えば、市場は初心者向きの簡単な「ビーチブレイク」(海底が砂地で比較的安全性の高いサーフィン・スポット)になっていた。

言うまでもないが、その特殊な局面は終わった。皆が長い間楽しんできたビーチから、好都合な波が消えたのだ。顕著なインフレの出現が試合の流れを変え、今では失った信頼の回復が各国中央銀行の最重要目標となっている。思い起こせば、2020年8月の米国債10年物の利回りは0.508%だったが、本稿執筆時点では4.6%となっている。英国でも同様に借入コストの大幅な変化が起こり、同じ期間に英国債10年物の利回りは最低値の0.077%から4.29%へと上昇した。世界の準備通貨である米ドルの借入コストは4%上昇した。ドル高の結果、米国外の借り手にとっての変換コストは上昇しており、信用枠が更新されない可能性すらある。

つまり、我々はこれまでサーフィンをしたことのない新しいビーチに向かっているのが現実で、状況はより予測しにくくなり厄介さを大きく増している。QE、そして現在は量的引き締め(QT)の実験が続いているが、これは政策当局にとっても投資家にとっても新境地である。中央銀行が必要とする金融引き締めの最終的なレベルも、そのタイミングも(最近の市場の動きはそれが近いことを示唆しているが)、政策反転の始まりどころか引き締めが続く期間の長さもわからない。

それゆえ、投資家は「高金利の長期化」と景気減速という逆風に備えてポートフォリオを調整し続けている。サーフィンの例えに話を戻すなら、2023年は、適切なボードを選び、新しく発見されたビーチで最も一貫した最高のブレイク(波の崩れ)を見つけることが肝心な年となってきた。

市場の的確スポットの選別

今年を通じて確信を持っていることは、当チームには「フューチャー・クオリティ」哲学という信頼できるサーフボードがあるということだ。当チームの見解では、成長して投下資本に対し優れた利益を達成・維持することができるとともに、重要なクオリティの柱(事業、経営、バランスシート、バリュエーション)をすべて備えている企業は、これまでと同様に今日でも長期的な超過収益を獲得するための最良の候補である。

しかし、ビーチでサーフィンに適したスポットを選ぶのは、予想した以上に一貫性のない作業となった。当チームでは、経済成長率の低下と資本コストの上昇を予想していたため、年初時点で以下のようなスポットを選好した。

エネルギー転換に必要な支出を実現する企業:総じて正しい投資判断となり、Schneiderなどの保有銘柄がパフォーマンスにプラスに寄与してきた。

市場予想を上回る世界での旅行の正常化および構造的成長:一部の保有銘柄がパフォーマンスにプラスに寄与してきた。

医療の効率化を提供・実現する企業:これまでのところ的中しておらず、保有銘柄の大半が市場に劣後している。

しかし、最高の「ブレイク」は予想外のスポットにあった。銘柄選択において最大の難関となったこのスポットは、以下の通りである。

テクノロジー大手がディフェンシブな避難先として選好されるように

当社ではテクノロジー分野について、「安価な資本」時代の終焉と顧客の支出環境の悪化により逆風に晒される可能性が高い市場分野と考えていた。このテーマは、いずれ正しい懸念であること証明されるかもしれないが、他のポジティブな特性によって完全に圧倒されてしまったため、銘柄配分の観点からは完全に間違っていたと言える。

大型テクノロジー銘柄のパフォーマンスが特に2023年前半に好調となった材料は、今になってみれば明白で、AI(人工知能)の台頭を筆頭に、高いキャッシュフロー創出力、収益性を支えるための積極的なコスト削減、強固なバランスシートなどが挙げられる。特にAIは、全般的な景気サイクルには概して依存しない急成長期にある。さらに、大手テクノロジー企業は、大規模なデータセット、既存のAIエンジニア、巨額の資本を投じられる資力という素養を最初から備えており、その結果、自社事業に対してさらに高く幅広い参入障壁を築くことができている。したがって、これらの企業の株価が2022年終盤の低迷水準からある程度再評価されるのは当然だろう。

Microsoftや台湾積体電路製造(TSMC)といった保有銘柄で多少のエクスポージャーはあったが、要するに、「マグニフィセント・セブン(荒野の七人)」の愛称で知られる7銘柄(Alphabet、Amazon、Apple、Meta、Microsoft、Nvidia、Tesla)へのエクスポージャーが十分ではなかったのだ。これによって、多くの成功している運用者と同様、当チームが常に正しいわけではなく、今後も常に正しいわけではないということを、かなり厳しく思い知らされることになった。当チームは、合理的なシステム2型思考(論理的思考)を貫くようにしながらも、大型テクノロジー株がアウトパフォームする傾向をなぜもっと早く察知できなかったのかについて、大いに自問した。タイミングを見誤ることとも厄介だが、頑固に市場反転への期待にすがることは永遠の問題である。

そこで、当チームではリサーチ、予測モデルおよびバリュエーション分析を更新し、その結果、当チームのフューチャー・クオリティ基準を満たすとして新たに再評価された銘柄が出てきている。ここ数ヵ月でSynopsysやNvidiaをポートフォリオに加えたが、これらのマーケット・リーダーはいずれもAIの急速な普及から恩恵を受けている。AIには誇大広告的要素があるものの、次世代のゲームチェンジャー(物事の状況や流れを一変させるもの)的テクノロジーとなる可能性も高く、普及段階に必要なツールやサービスを提供する企業はリーダー的存在となるだろう。成功を収めるであろうAIの新たなビジネスモデルやユースケース(使用事例)は、当チームのリサーチにとって心躍る分野である。しかし、2000年代のインターネット・バブルと同様の事態となる可能性もあり、勝者を判断するには時期尚早と言える。

抗肥満薬が主流に…は少数派

新顔はAIだけではない。GLP-1抗肥満薬が規制当局によって問題なく承認されたことで、同薬の大手プロバイダーである製薬会社の潜在成長性、そして(同薬の過大な評判から)株価バリュエーションが押し上げられている。

反対に、GLP-1での負け組とされたヘルスケア/コンシューマー企業は株価バリュエーションが著しく低下している。考え方の方向性は正しいのかもしれないが、彷彿とさせられるのは、2020年にEV(電気自動車)の普及が熱狂のピークに達し、修理が必要な自動車はすぐになくなるだろうとの見方から自動車部品関連銘柄が一部の投資家によって空売りされた時だ。これは結局、誤った判断となった。GLP-1負け組とされる企業についても、今後数年間で同じようなシナリオが繰り広げられるのではないかと考えており、したがって、Abbott、Danaher、Biotechneなどの銘柄の保有を継続している。

厳しい環境で有利となる独自性の高いビジネスモデル

当チームでは、これまでの経験を共有した上で、資本コストが上昇するこの新しい局面において市場を牽引する存在が見出される可能性がより高い分野を学びつつあり、そのような牽引役について、多くの投資家が理解しやすいよう、共通のテーマという視点を通じて説明している。しかし、当チームがポートフォリオに組み入れる企業はいずれも、投下資本に対して高いリターンを達成・維持できるという基準を満たさなければならない。さらに良いことに、当チームが探求するのは向こう5年にわたって業績向上を持続できる企業である。

こうしたフューチャー・クオリティへの道のりは、個々の企業で特有なものであることが多い。他では、米国のホールセール(法人向け)保険仲介市場におけるシェア拡大が、この高収益ビジネスで平均を上回る成長を実現するための重要な原動力となっている企業もあり、当社のポートフォリオで保有しているPalomarとProgressiveは、独自性の高いビジネスモデルによって市場を上回る成長を遂げている。

現在の環境の底流

再びサーフィンの例えに話を戻すと、我々がいるこの新しいビーチには、考慮すべき要素として長く存在し続けそうな注目すべき底流がいくつかある。それらを以下にまとめた。

資本ニーズ

多くの投資家は、依然として過去10年の状況に捉われている。過去10年は、資本をいつでも調達することができ、しかもその大半において資本コストがあまりにも安価な環境だった。公開市場では状況が変わり、非公開市場でも、手元資金の供給がいずれ枯渇するにつれ、同様の展開が本格的に進むだろうと推測する。上場株式市場では、資本提供者(現在は多額の余剰フリー・キャッシュが投資家に還元されている)と資本調達者(成長を支える資金を自社で賄うには収益が不足しているか、収益を債権者への返済に回す必要がある)とのあいだで、リスク・プレミアムが拡大している。事業リスクと借り換えリスクによるこのリスク・プレミアムの拡大は、特に両リスクが顕在化している分野では、さらに進行するかもしれない。

ボラティリティが低い高配当銘柄のバリュエーション

QE時代の特徴の1つとして、実質金利が低めに操作されているなか、債券以外でボラティリティの低い利回り資産を求める動きが活発となった。したがって、株式市場におけるそのような低ボラティリティで高配当の避難先的銘柄の相対パフォーマンスと債券利回りとのあいだには関係性があり、好例として生活必需品セクターや公益事業セクターが挙げられる(チャート1参照)。

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より短期的な危機の局面であれば、こういった銘柄がある程度避難先的な存在となることは間違いないが、実質債券利回りの上昇は、こういった銘柄へのこれまでの資金配分を再検討するよう投資家に促している。さらに、ターム・プレミアム(債券の償還期間に応じて求められる上乗せ利回り)の上昇が株価バリュエーションに影響を与えている。デュレーションが長めの債務の借り換えに必要なキャッシュフロー配分も増大し、その分、株式保有者に還元される分が減少するからだ。要するに、これらの銘柄はディフェンシブな避難先としての魅力度が後退し、実質金利が反転する、あるいはアセットオーナーによる資産配分の見直しが市場を左右する要因でなくなるまで、株価バリュエーションが相対的に割安な水準にとどまるか、さらに割安となる可能性が高い。

状況に適応する

ここ数四半期は、変化の大きい世界にいるのだということを思い知らされた。金利は(当チームも含め)大半の投資家の予想を大きく上回る上昇を見せた。地政学面も同様で、大半の金融関係者のキャリアを通じて主流であった「平和の配当」の終焉を告げており、足元では中東の火薬庫で進行中の事態がすでに続いていた不透明感に拍車をかけている。そして最後に、レバレッジ度の高い近代の金融界において、QTというほぼ前例のない政策が実施されていることを再認識する必要がある。

その結果、長期的な耐久性のある事業に投資することに常に重点を置く必要があり、その点で当チームのフューチャー・クオリティ・アプローチは安定した立ち位置にあると言える。しかし、バリュエーションも当アプローチの柱の1つであり、より短期的な時間軸においては依然重要な変数である。現在のようにバリュエーション格差が拡大する局面は、判断を誤った側にいることは痛みを伴うが、投資家の注目を集めている市場分野にとっては心地よいモメンタムの追い風ともなる。こうしたローテーションの力が尽きる、あるいはその後の出来事によって変化するタイミングを知ることは難しいが、その道のりはすでにかなり進んでいると考えるのが妥当だろう。したがって、これまでの勝者でポジションを構築する際は、「割安度向上」のリスクを精査しながら、かなりの慎重さと規律をもってあたる必要があると考える。また、金融政策に対しては、予断のないアプローチで臨む必要がある。近いうちに、中央銀行が利上げから方向転換したりQTを終了したり、あるいは金融抑圧(大規模緩和などにより名目金利を人為的に低く抑え込んで実質金利をマイナスに維持すること)の時代に直行したりすることで、また状況が変わるかもしれない。つまり、信頼できるサーフボードを携えて準備を整え、訪れる状況を最大限に活かそうということだ。


個別銘柄への言及は例示のみを目的としており、当該戦略で運用するポートフォリオでの保有継続を保証するものではなく、また売買を推奨するものでもありません。



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