本稿は2023年12月6日発行の英語レポート「Asian rates and FX outlook 2024」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

2023年12月


2024年の見通し

年初のコンセンサスでは2023年は米国債利回りが低下するとみられていたが、実際には利回りは上昇した。ベンチマークである米国債10年物利回りは、米国銀行危機の最中で経済困窮への懸念が高まっていた2023年4月の3.25%という低水準から、経済指標が米国経済の継続的な底堅さを示した10月末にかけては16年ぶりの高水準となる5.02%にまで上昇した。米国政府の資金調達ニーズの増大、地政学的緊張の高まりを背景とした原油価格の上昇によるインフレ加速懸念など、様々な要因が重なり、米国債は2023年を通じて売り込まれた。そういった材料のなかでも、米FRB(連邦準備制度理事会)のタカ派的な金融政策見通し(フェデラルファンド金利の誘導目標を2023年11月時点で5.50%まで引き上げるとともに、当面利下げの可能性は低いと示唆)は、2023年において米国債利回りの執拗な上昇を促した主因と言えるだろう。

FRBによる積極的な金融引き締めは、まだ終わってはいないとしても、ついに終わりに近づきつつあるように見受けられる。2023年を通じて、投資家は米国の雇用統計とインフレ指標を注視し、最後の利上げのタイミングを議論してきた。FRB高官の最近の発言からすると、同中銀は年内再利上げの可能性を否定していない。この背景には、労働市場が依然逼迫気味の状況にあり、企業活動が引き続き予想以上に堅調で、インフレ率がFRBの目標である2%を上回っていることがある。とはいえ、パウエルFRB議長をはじめとするFOMC(連邦公開市場委員会)の一部のメンバーは、最近の長期金利の急上昇が引き締めの一端を担ったとの見方を示しており、パウエル議長は、今後の政策金利の変更を「慎重に」進めていくとの同中銀の方針を、複数の場で繰り返し述べている。当社では、FRBは利上げを終了した可能性が高いと判断しているが、同中銀は金融環境のタイト化が経済とインフレに与える累積的影響を評価し続けるのに伴い、2024年の大半において金利を据え置くともみており、引き締め気味の政策環境が続くと予想している。高金利の長期化は様々な経路を通じて金融システムにストレスがかかるリスクを高めるため、状況を注視していく必要がある。

これまでのところ、金融引き締めが米国の家計支出と企業投資に及ぼした影響は緩やかなものにとどまっているが、当社では、米国経済が今後数四半期にわたって鈍化の兆候を見せ、2024年半ばまでには景気の強さの衰えがより鮮明になると予想している。長期金利の大幅上昇を受けて家計や企業の債務返済・借り換えコストが増加するのに伴い、金利コストの上昇はこれまで以上に経済の隅々まで痛手をもたらし始める可能性がある。個人消費は、米国経済のエンジンを多くが予想したよりもはるかに長く回り続けさせる重要な要素となってきたが、消費者の余剰貯蓄が徐々に減少するとともに3年間休止されていた学生ローンの返済が再開されることで、消費支出は緩やかに鈍化するかもしれない。一方、賃金の伸びはペースが落ちており、これまでの利上げの遅行効果として賃上げ幅が縮小し労働市場が徐々に冷え込むと予想する。他に、連邦政府が債務上限の合意の一環として支出を抑えるため、財政政策はこれまでほど拡張的ではなくなるとみられる。

心強い材料としては、米国のインフレが落ち着いてきており、2023年6月以降、コアインフレはFRBの目標に大きく近づいている。賃金上昇圧力が弱まり個人消費が鈍化するにつれて、米国のインフレ圧力はさらに後退すると予想する。とはいっても、FRBのインフレ目標である2%に完全に戻ることは、2024年中には実現しそうにない。

そうなると、FRBが利下げを示唆するにあたってのハードルを主に左右するのは、積極的な金融引き締めの結果としてもたらされる需要縮小の深刻度だと考えられるが、利下げは2024年後半になると予想する。FRBが利下げを実施するのは、労働市場が顕著に軟化し、インフレが抑制され同中銀の目標である2%にかなり近づいていると確信させる兆候が現れてからになるとみているからだ。2024年に利下げが実施されるとすれば、0.25~0.50%内での調整的なものにとどまると予想している。

市場の観点からは、2024年の米国債および米ドルの動きを左右する主な材料は、引き続きFRBの政策への予想になるとみている。FRBの政策に対する当社の予想からして、米国債利回りの上昇リスクは比較的限定的だと考える。一方で、ここまで論じてきた要因をすべて考え合わせると、債券利回りが大きく低下する可能性も低いと言える。なお、為替については、FRBが利上げを停止し米国経済が鈍化すると予想されることから、2024年にはドル全面高の流れが弱まると考える。

アジアでは、2023年第2四半期以降の中国の急速な景気鈍化と半導体産業のサイクル回復の遅れを主因とする厳しい外部環境が、域内の貿易の回復に重くのしかかってきた。2024年は、大半のアジア諸国で概ね安定的な経済活動が続くと予想する。中国の景気回復ペースは、アジア地域の景気にとって大きな不確実要素となるだろう。中国の政策当局は景気促進策を次々と発表しているが、同国の経済成長ペースは低迷したままであり、労働市場のセンチメントも依然低調である。インドとフィリピンは2024年にかなり堅調な経済成長を見せると予想され、韓国やシンガポールのような開放型経済は輸出の回復が追い風となるかもしれない。

金融政策の方向性については、少なくとも2024年前半はアジアの大半の国で中央銀行が政策金利を据え置くと予想している。ただし、中国は例外となるとみられ、低迷する経済を支えるために追加の金融緩和策を実施する可能性がある。域内の中央銀行は米国金利が高止まりするなかで自国通貨を安定させる必要があるため、金融政策は引き締め気味の状態にとどまると予想される。インフレに関しては、中国は低水準からやや加速する可能性があるものの、その他のアジア諸国ではディスインフレ傾向が続くとみられる。

選挙が控えているインド、インドネシア、韓国(シンガポールでもその可能性がある)では、政策が景気重視に傾くかもしれず、選挙に先立って財政出動の拡大が予想されるが、その規模は最小限にとどまるだろう。当社の基本シナリオとしては、これらの国々では政局の移行が円滑に進み、アジアの政治環境は選挙後も安定が続くとみている。

概して2024年は、米国債利回りが安定して低下し始めると予想されるなか、アジア債券にとってリターンが向上しボラティリティが低下する年となる可能性が高い。アジアの債券市場に対する投資家心理が次第に好転し、資金流入を惹きつけることによって2023年には概ね見られなかった(投資資金の流入を通じた)需給面でのサポートがもたらされると予想する。当社では、魅力的なキャリーと良好な需給関係からインドの長期国債を有望視している。インド国債は2024年6月からJPモルガンのGBI-EM(国債インデックス・シリーズの新興国インデックス)に採用されることになっており、これがインド国債への追い風になるとみられる。一方、韓国国債はFTSE Russell世界国債インデックスに採用される可能性があり、これも好材料となるかもしれない。

アジアの通貨については、FRBの利上げサイクルが終焉を迎えるのに伴い米ドルへの需要が後退するとみているため、2024年は概ね対ドルで上昇基調を辿ると考えている。

当社の投資シナリオにおける主な下方リスクは、中国のGDP成長率の下振れ、エネルギー価格の上振れ、および地政学的不透明感の高まりである。

国別見通し

中国

中国は2023年の経済成長率目標「5%前後」を達成、もしくは若干上回る模様である。2024年の中国のGDP成長率については、IMF(国際通貨基金)による予想が4.6%、市場のコンセンサス予想が4.5%である。最近の財政政策面での発表は、中央政府が財政難に陥っている地方政府を支援する意向を示しており、市場はこのところの増大で対GDP比3%を超えた中国の財政赤字が2024年も維持されるかどうかを注視している。景気のモメンタムは鈍く、企業や労働市場のセンチメントも依然低調である。中国経済の地盤強化には、重要な柱である不動産市場が低迷から脱して安定する必要があるため、不動産市場の動向には注目が集まるだろう。外的要因の面では、中国の輸出の伸びが世界的な景気減速の逆風に晒される可能性があるとともに、地政学的な懸念から中国への外国投資が鈍化を続ける可能性がある。しかし、主要先進国との関係における最近の雪解けが追い風になるとの期待も再び浮上している。

中国のインフレは総合で0%近く、コアで1%と低水準にとどまっており、コロナ後の経済活動再開を受けて他の多くの地域で見られた物価の高騰は同国では起きていない。エネルギー価格やその他の主要コモディティ価格の動きに伴い、物価は幾分の上昇が予想されるが、概ね落ち着いた状況が続くとみられる。したがって、追加の金融緩和を継続する余地があるが、中国人民銀行は自国通貨を安定させる目的から当面慎重なスタンスをとるかもしれない。

安定的な景気見通しと低インフレ基調は、中国の現地通貨建て債券にとって良好な環境を生み出している。当面は、自国通貨を安定させる措置の結果として資金調達環境が若干タイト化し、債券利回りの上昇につながる可能性がある。しかし、プラスの実質金利は投資価値を提供しており、将来見込まれる金融緩和も債券市場を一段と押し上げ得る。

中国の経常収支は依然黒字を維持するとみられ、投資資金が流出したとしてもある程度相殺できる。同国には巨額の外貨準備高があり、政策当局に外国為替市場での人民元の動きをなだらかにしようとする傾向があることから、当社では同通貨について安定的な推移が続くと予想している。

韓国

韓国の2023年通年の経済成長率は1.4%になるとみられており、2024年については市場コンセンサスで2.1%と予想されている。半導体産業は2023年の大半で鈍化が続き、これが原油輸入価格の上昇と相まって韓国の対外経済に打撃を与えた。DRAM(ダイナミック・ランダム・アクセス・メモリ)価格は2023年9月に底打ちした様相で持ち直しており、このまま回復が続けば同国景気にとって追い風となり得る。国内経済、特に消費は、2023年の大部分において予想以上に持ち堪えたが、ここ2、3ヵ月は鈍化しているように見える。韓国の財政は2023年に健全化しており(財政赤字が対GDP比2.6%)、2024年には赤字が幾分拡大するとみられる(計画では同3.9%)ものの、これは見込まれる歳入の減少によるところが大きい。財政規律は引き続き、同国の尹錫烈(ユン・ソクヨル)大統領率いる現政権の政策の目玉となっている。

インフレは2023年の前半に見られた高水準から減速を続けるとみられ、韓国銀行は総合CPI(消費者物価指数)上昇率が現在の3.6%から2024年後半には2%に低下すると予想している。国内経済の鈍化とインフレの減速は、韓国銀行が2024年後半に金融緩和を開始する可能性(それまでにFRBの利上げサイクルが終了したことが明確になっている場合はなおさら)を示唆している。この見通しに対するリスクは、原油価格をはじめとするコモディティ価格が大幅な上昇を続け、その結果として投入コストに影響が及ぶことだ。

政治面で注目しているのは、2024年前半に予定されている議会選挙で、この結果が今後の財政政策の方向性に影響を与える可能性がある。

当社の基本シナリオとしては、景気およびインフレの減速、金融緩和、財政規律を想定しているため、韓国の現地通貨建て債券に対してポジティブな見方をしている。2024年にFTSE世界国債インデックスに採用される可能性があることも、同国債券へのさらなる追い風となり得る。

通貨については、半導体産業の回復が韓国の輸出と投資資金流入を促進する可能性がある一方で、エネルギーなどのコモディティ価格が上昇して悪影響をもたらす可能性もある。

インド

インドは2024年、他のアジア諸国を上回る経済成長を見せると予想される。インド準備銀行は自国の経済成長率について、旺盛な内需と投資の伸びを主な追い風に、2024年度(2023年4月~2024年3月)は6.5%、2025年度(2024年4月~2025年3月)は6.6%と予想している。同中銀による景況感調査では、消費者心理の回復と家計のインフレ期待の低下が示されている。一方、モディ政権が過去数年間に実施してきた改革により、同国は海外からの直接投資の流入が促進され、海外投資家や多国籍企業の注目を集めている。

野菜の価格が通常の水準に戻りつつあることから、インド国内のインフレはピークを打ったと考えている。さらなる食品価格の季節的高騰が起きなければ、インフレは今後数ヵ月で全体的に減速し、中央銀行に金融政策スタンスを中立へ移行させる余地が生まれると予想する。ドル高によりインド・ルピーに下落圧力がかかっているため、インド準備銀行が近いうちに政策金利を引き下げる可能性は低いと思われるが、ドル需要が後退して国内のインフレがより安定すれば、同中銀はインフレよりも景気を優先するようになり利下げを開始する可能性がある。当社では、利下げは早ければ2024年第1四半期に実現するとみている。

インド国債はJPモルガンのGBI-EMインデックスに採用されることが正式に決まっており、2025年4月までには同インデックスで構成比率が2番目に高い新興国になるとみられる。このことは、インフレの減速と相まって、海外投資家からの関心が高まるのに伴い、インド国債とルピーを他のアジア諸国の国債や通貨対比で堅調にサポートしていくと予想される。当社では、実質利回りが魅力的なインド国債を引き続き有望視しており、2024年には利回りがさらに低下するとみている。一方、サービス収支の改善により経常収支の貿易赤字がある程度縮小することから、ルピーは概ね安定した推移が続くと予想する。FRBのタカ派姿勢の後退を受けて新興国市場への資金流入が再開することも、インドの国内債券とルピーへのさらなる追い風になるだろう。

インドの経済成長への主要リスクとしては、原油価格の高止まりとモンスーン(雨季)の降雨不足が挙げられる。また、2024年は4月か5月頃に総選挙が実施される予定であるため、政治的ノイズが強まる可能性が高い。とはいっても、2024年のインドにとって政治が主要なリスクとなるとはみておらず、現職のモディ首相が高い支持率を背景に再選されると予想している。

シンガポール

MAS(シンガポール金融通貨庁)は、2023年のGDP成長率が同庁の予想レンジである0.5〜1.5%の下半分になると予想している。2024年については、成長率が潜在成長率に近づくなか、生産ギャップはわずかながらマイナスにとどまると予想されている。シンガポール経済の見通しは、当面は世界的な需要の軟化を受けて低調だが、2024年後半には、インフレが減速を続けるとともに電子機器サイクルが緩やかに回復するのに伴い、徐々に回復するとみられる。

シンガポールの2024年の総合CPIインフレは、民間輸送費と住居費の上昇率の鈍化が物品・サービス税増税による一過性の影響を相殺することにより、3.0〜4.0%程度に減速すると予想される。2024年については、供給環境の好転がコスト低下を促すとみられるため、MASはコアインフレが平均2.5〜3.5%に減速すると予想している。

MASは、2021年10月以降5回連続という前例のないペースでシンガポールドル高誘導による金融引き締めを実施し、積極的なインフレ抑制の動きを見せてきたが、2023年には金融政策を据え置いた。同中銀は、市場とのコミュニケーションを強化する継続的取り組みの一環として、2024年に金融政策発表の頻度を(半年ごとから)四半期ごとに変更する。これにより、経済情勢の変化に機敏に対応できる柔軟性も高まるだろう。MASは、現在の為替政策バンド設定が依然高水準にあるインフレを抑制するのに十分であると考えており、金融緩和を正当化するような世界景気の大幅悪化が起こらない限り、2024年を通じて金融政策を据え置く可能性が高い。

シンガポールドルは、NEER(名目実効為替レート)の政策バンドの傾斜が現在1.5%と推定され、シンガポールの好調な対外収支を追い風に、2024年にかけて対米ドルで底堅く、対貿易加重通貨バスケットでも堅調に推移するとみられる。債券については、シンガポール国債は長期債ゾーンを中心に引き続き米国債をアウトパフォームすると予想している。財政赤字を賄うために国債の発行を増やしている米国とは異なり、シンガポールはそのような手段に訴える必要がない。一方、シンガポールは2050年までにネットゼロ(温室効果ガスの人為的排出量を吸収・除去量で相殺し実質排出量をゼロとすること)の達成を目指しているため、国や法定機関によるグリーンボンド(環境問題への取り組みに必要な資金を調達するために発行する債券)の発行が増加する可能性が高い。

マレーシア

マレーシア中央銀行は、国内経済の好材料が世界経済の回復ペースの低調さを相殺するなか、自国の2023年通年のGDP成長率を約4%と予想している。2024年については、民間部門の支出、世界的な需要の回復、新たなインフラ支出を牽引役として、4〜5%の成長を見込んでいる。政府は2023年の総合CPI上昇率を2.5〜3.0%、2024年のインフレを2.1〜3.6%と予想している。2024年の予想レンジの幅がより大きいのは、予定されている増税や政府の燃料補助金見直しの意向といった要因を反映している。インフレへのリスクには、世界のコモディティ価格の動向、地政学的不透明感、気候条件などの供給関連要因が含まれる。

マレーシア中銀は、2022年の1.00%の利上げに続いて2023年に金融政策正常化路線を再開し、5月に翌日物政策金利を3.00%へと0.25%引き上げた。同中銀は、金融政策の正常化において、持続可能な経済成長を支えるべく、「慎重かつ緩やかな」ペースの金融政策調整による堅実なアプローチをとったと強調している。当社では翌日物政策金利が2024年に3.00%に据え置かれると予想しており、同中銀が利下げを行うのは経済成長率が予想を大幅に下回った場合のみとみている。なお、同中銀は、自国通貨の為替変動が「過度とみなされる」場合には、これを阻止するために外国為替市場で介入を行うことも明言している。

2023年8月に実施されたマレーシアの6つの州選挙は、政治面での現状維持とある程度の安堵をもたらし、当面の政治的安定に貢献した。現在の焦点は、イブラヒム首相の統一政府が経済政策と改革計画を推進していくかどうかである。2024年度予算によると、財政赤字は2023年の対GDP比5.0%から同4.3%への縮小が見込まれている。この縮小を支えるのは、①サービス税の引き上げやキャピタルゲイン課税・贅沢税の導入などの歳入強化策と、②燃料・電力を中心とする補助金合理化プログラムの段階的実施による財政運営費の削減である。これによって、緩やかなペースでの財政再建に対する政府のコミットメントが再確認できるとともに、同国の信用格付けが安定的に維持されるとの期待が裏付けられる。

マレーシアの現在の外貨建て債務エクスポージャーは、債務総額の3%にも満たない。2024年の国債の総発行額は、2023年と同程度の約1,800億マレーシアリンギットになるとみられる。2024年の財政赤字削減による国債での借り入れの減少は、既発短期国債の満期償還によって相殺されるものと予想される。新規発行による供給は引き続き、国内のリアルマネー(年金基金や生命保険会社、投資信託など、リスクを抑制しながら長期的に安定した利益の獲得を目指す投資資金)からの需要やEPF(従業員退職積立基金)からの着実な資金流入に支えられるだろう。目先はリンギット安が予想され得るものの、同通貨のバリュエーションは割安な水準にあり、2024年にはFRBのタカ派色が後退し中国人民元が安定するにつれてリンギットへの下方圧力が徐々に薄れる可能性があると考える。

タイ

タイの景気回復は、外需の低迷とインバウンド観光への依存度の高さから、これまでのところペースが鈍い。2024年にかけては、タイ経済は財政出動を主な成長の支えとしながら回復を示すとみられる。同国のタビシン首相は、低迷する経済の活性化を政府の最優先課題とすると明言しており、とりわけ、対象となる個人への現金給付と農業従事者・小規模企業へのモラトリアム(債務返済の一時猶予)を公約している。また、政府は近くエネルギー価格を引き下げるとともに、引き続き特定の国からの旅行者を対象としてビザ発行の手続きを緩和する予定である。

タイ中央銀行は、自国の総合インフレを2023年は平均1.6%、2024年は平均2.6%と予想しており、政府の景気刺激策を主因としてインフレ加速のリスクを見込んでいる。それでも、同中銀は直近の金融政策委員会会合で現在の政策金利が「中立に相当する水準にある」と示唆しており、当社では今後しばらくは政策金利が据え置かれるものとみている。

タイの財政資金ニーズに関しては、新政権が発表した拡張的かつ大衆迎合的な政策を受けて根強い不透明感が続いており、これがタイ国債の利回りに上昇圧力をもたらしている。予算は2024年序盤に承認される見通しである。今後は米国債利回りの低下がタイ国債への需要を下支えする可能性があるが、当社では、タイ国債市場は予算の最終的な内容や(酷評されたデジタル通貨給付制度を含む)政府の財政刺激策の影響に左右されやすい状況が続くとみている。通貨については、経常収支の継続的な改善と観光客の流入が2024年のタイバーツをサポートすると予想する。

タイの経済成長に対する主なリスクとしては、観光客の伸びの鈍化や世界経済減速の下振れ、政府予算成立の遅れなどが挙げられる。

インドネシア

インドネシア中央銀行は、自国のGDP成長率を2023年は4.5-5.3%のレンジを予想しており、2024年については、4.7-5.5%を予想しているとペリー・ワルジヨ総裁が見解を述べている。当社も2024年の成長率が概ね安定した推移を見せるとの見方を共有しており、選挙関連の支出が内需の回復を下支えする一方、金利上昇が企業心理の重石となり設備投資が鈍化することで相殺されるとみている。インドネシアの新首都における建設活動の活発化も景気の追い風となるだろうが、コモディティ価格の見通しは、中国の経済活性化能力に概ね左右される。より長期的な展望に立つと、インドネシアの成長ストーリーの軸となるのは、期待される世界的なEV(電気自動車)産業ブームから享受できる恩恵を拡大する計画である。

ドル高を受けてアジア通貨が全般的に低迷するなか、インドネシア中銀は2023年の大半において自国通貨の安定を優先した。インフレが減速し同中銀の目標レンジ内に戻っていることから、今後2024年序盤までは、インドネシアルピアの安定が同中銀の金融政策アクションの主要な決定要因であり続けるだろう。その後は、景気を促進するために利下げを開始できる余地が出てくるとみている。

スリ・ムルヤニ・インドラワティ財務相は、歳入の上振れを受けて、2023年の財政赤字が予想の対GDP比2.28%を下回る見通しであることを表明した。また、財務省は中央銀行に多額の現金残高がある。積み上がった準備金の取り崩しが2024年に増えるとともに、歳入が目標を上回って財政の余裕が拡大すれば、政府には2024年の国債発行額を引き下げる選択肢が生まれることになる。

当社では、2024年に向けてインドネシア債券に対しポジティブな見方をしている。世界の債券利回りに対する上昇圧力が和らげば、市場の関心がインドネシア債券の魅力的な実質利回りに向けられるようになり、同国債券への需要は増加するだろう。FRBが引き締めサイクルを終了すると予想されることから、2024年にはインドネシアへの海外から資金流入が回復するとみている。加えて、管理可能な水準の財政赤字および国内債券発行量、落ち着いたインフレ、同国中銀による金融緩和の可能性が、インドネシア債券へのさらなる追い風になると予想する。また、インドネシアルピアについても、2024年は比較的安定した推移を予想している。

2024年2月に予定されている総選挙に向けて選挙運動が本格化するため、今年の年末までには政治が脚光を浴びることになるだろう。EVサプライチェーンのインフラ整備などの重要な政策は、選挙後も継続されるとみている。

フィリピン

フィリピンの2024年の経済成長率は、他のアジア諸国に比べて引き続き好調と予想されるが、政府目標の6.5~8.0%は下回るかもしれない。成長の主要な下支え要因が個人消費であることに変わりはないが、金利の高止まりが抑制効果をもたらすとみられる。政府のインフラ支出拡大がこれを相殺する可能性はあるが、財政再建が進められているなかで増額は小幅にとどまると予想している。

総合インフレは以前の高水準から減速しているものの、2023年10月の4.9%という数字は依然高く、フィリピン中央銀行の目標である2~4%を上回っている。同様に、コアインフレも鈍化しているものの引き続き高水準にある。今後については、エルニーニョ現象の影響による食品価格の高騰や原油価格の高止まりなど、供給サイドのリスクが残っていることから、中銀の目標レンジ内に戻る可能性があるのは2024年後半とみている。

当社では、フィリピン中銀の利上げサイクルは終わったとの見方を共有しているが、同中銀はタカ派的な金融政策スタンスを維持すると考えている。世界の中央銀行が高金利を長期的に維持するなか、フィリピン中銀も、(燃料や食料品の輸入を通じてインフレ効果をもたらす)自国通貨安を食い止めるため、バッファーとして政策金利格差の維持を余儀なくされるだろう。

政府は2023年の財政赤字の上限を対GDP比6.1%に設定しており、2028年までに3%に戻すことを目指している。緩やかな財政再建は景気の下支えを目的としており、この調整において政策当局は主に(歳出の削減ではなく)歳入の好調な伸びを拠りどころとしている。

当社では、2024年にかけてのフィリピン債券について、中立からポジティブ寄りの見方をしている。利回りは魅力的な水準まで上昇しており、実質利回りはプラスとなっている。インフレが中央銀行の目標レンジ内に収まれば、フィリピン国債の利回りは低下し始めると予想する。2024年後半には、景気の鈍化と先進国債券市場の利回り低下が、フィリピンの現地通貨建て債券にとってさらなる追い風となり得る。しかし、政府が財政再建により慎重なアプローチで臨むなか、債券の供給が多額となって債券市場の上昇を抑えるかもしれない。とはいえ、オフショア債券の発行によって国内の現地通貨建て債券の供給がいくらか軽減される可能性もある。

フィリピンペソについては、2024年は米ドル安に伴って他のアジア通貨と同様に上昇する可能性があるとみている。海外出稼ぎ労働者からの送金による堅調な資金流入が同通貨を下支えするとみられるが、一方で経常赤字懸念が相殺要因となるかもしれない。最終的に、フィリピン中銀は必要となれば、その潤沢な外貨準備を使って通貨のボラティリティに対処することができる。

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