本稿は2023年12月6日発行の英語レポート「Global macro outlook 2024」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

本レポートの2023年版同様、世界情勢は特異な状況が続き確信をもって全体を概説するのは困難とみられるため、いくつかの特筆すべき材料について10の予測をまとめた。


2023年12月


1. 2024年固有の特徴
世界経済は緩やかな成長を見せインフレは減速する公算が大きいが、以下に挙げるような数多くの要因からして、投資環境は追い風どころか確実・安定からもほど遠い状況になるだろう。したがって、特異な時代が続くなか、投資家は過去の経済・金融市場の回復における従来のモデル、特に1990年代半ば以降最もうまく機能してきたモデルに大きく依存すべきではない、と依然考えている。むしろ、当社の他の2024年見通しレポートで述べているように、特定の国やセクター、銘柄に的を絞ったリスクテイクを行いながら、幾分慎重でバランスの取れた視点を維持すべきだろう。実際、アクティブ運用においては、特に銘柄選択が2024年も2023年と同じくらい重要になるとみられ(例えば2023年の米国では、株式市場全体はほとんど上昇しなかったが、Alphabet、Amazon、Apple、Meta、Microsoft、Nvidia、Teslaの「マグニフィセント・セブン」は高騰して株価指数の上昇の大部分を占めた)、したがって、ここ数年の困難な時期に優れたパフォーマンス実績を上げた運用会社を選ぶにあたっては、特別な注意が必要である。

2. 欧米の中央銀行は「二次的効果」抑えるために金利をかなり高く維持する見込み
こういった「効果」がインフレ動向を左右する重要な要因になるとみられ、利下げが始まるのはコンセンサス予想よりもかなり遅れるかもしれない。労働組合の賃金要求がストライキやそれに伴う手痛い供給ショックと相まって明らかに際立っているが、企業や地主の「価格決定力」に対する認識も重要になるとみられ、景気の悪化が進むにつれて政治的圧力が強まるなか、中央銀行が金利を高水準に維持する決意の固さに注目が集まるだろう。1年前に指摘したように、これが最も当てはまるのが欧州で、先進国のなかで最もインフレが高く、政治・インフラ・経済の主要チャネルを中心に労働組合の力が非常に強い。メディアが取り上げているのは大規模なストライキだけだが、ほとんど報道されていないものも数多くあり、投資家にはそういったニュースをご自身でしばしばチェックすることをお勧めする。逆に、労働組合の要求が欧米ほど強くない国、特に日本やアジアの多くの国は、経済面で有利となるはずだ。

3. 中国の状況好転
中国は1年前と同様に、今後1年の見通しが特に不透明である。2023年11月に開催されたAPEC(アジア太平洋経済協力)会合で、中国は米国との休戦に向けて舵を切ったが、これが気象観測用気球のエピソードのように米中関係を再び軌道から外れさせる強風となるような、対立をもたらす出来事にどれだけ耐え得るかは、依然未知数である。そのようなイベントとして特に思い浮かぶのは台湾の選挙で、相互経済制裁の傾向も然りだ。EU(欧州連合)や英国、日本、オーストラリアも、国内の経済成長の追い風となる米中関係改善に大いに期待している。中国の景気回復は緩やかなペースで続くとみられ、1年前の今頃と同様、不動産開発の資金調達における最近の刷新は主要な政策転換として経済成長を支えていくであろうが、以前のような不動産購入ブームやそれへの経済の依存は後退が続くと想定される。経済面・政治面での緊張が緩和されれば、あらゆる面で恩恵を受けられることは明らかであり、成功へのインセンティブは非常に高い。中国側としては、2022年と2023年に大量売却を行った米国債の購入を再開する可能性が高い。また、住宅セクターや金融市場の一部の低迷に対処すると同時に、一般市民や地方政府にとって困難な状況も改善するため、中国は環境の安定化を望んでいる。一方、米国をはじめとする各国の企業、特にAppleは、現地の自社工場が様々な制約下でも生産を継続できること、中国が重要な顧客であり続けること、そしてグローバル・サプライチェーン全体が引き続き回復することを望んでいる。

4. 地政学は今後も材料に
特にロシア、イラン、中国が独自の路線を追求しているなか、「体制と理念の衝突」が続くであろうことは明らかだ。ロシア・ウクライナ戦争は2024年の大半を通じて激しい戦況が続くとみられるが、年後半には流血を伴う交戦が大幅に減る可能性もあり、そうなればリスク市場は落ち着くかもしれない。中東情勢は引き続き明白な懸念材料で、特に現在の情勢に対するイランの反応が不安視される。これらの地域のいずれかで問題が悪化すれば、原油価格の上昇が、リスク心理の全般的悪化とともに世界経済にとって逆風要因となるだろう。アジアでは、1月に行われる台湾総統選挙が重要な注目点で、頼清徳(ウィリアム・ライ)氏が勝利した場合は中国の反応が問題を引き起こす可能性が高い。北朝鮮については、常に起こり得る予測不能な不安材料であるため言及するのはためらわれるが、挑発度を増す同国の行動を中国が抑制し、対立する国々が緊張姿勢を緩和できるようになることを期待したい。

5. 米国の選挙
連邦議会・大統領選挙は、今後1年の要因に左右される部分が大きいことから、結果を正確に予測することは不可能である。後者については、私が示すことができる唯一の予測は、2党の最有力候補の勝敗に関する現在のコンセンサスは当てにならず、予想はかなり大きく変動するだろうということだ。思い起こしておく必要がある点として、米国の統治プロセスの大部分は本質的にかなり安定しているため、メディアの見出しが示唆しているほど極端な影響は考えにくい。この事実は英国にも当てはまりそうだが、労働党がもたらすことのできる変化は、米国で起こり得るどんな変化よりも大きいものになるだろう。

6. 選挙に加えて国内政治も重要に
1年前にも指摘したように、財政出動は、そのインフレ増幅効果への懸念と金利コストの大幅増加により、すでに世界的に大きく抑制されているが、通常の財政機能ですら大きな波乱に晒される可能性がある。米国では下院の過半数を共和党が占めているため、今後も財政面を含め大きな対立が続き、何らかの形で金融市場や経済にアクシデントが発生した場合には対策を講じる必要が生じるだろう。また、様々な政治問題に対する下院の調査も、大きな不和を引き起こす可能性が高い。欧州では、1年前にも予測したように、ストライキ以外の政治的対立が激しくなるとみられ、特に緊縮財政の必要性からくるエネルギー補助金の縮小が火種になりそうだ。一方、アジアは政治面でも相対的にかなり落ち着いているように見受けられ、これが経済や金融市場のパフォ ーマンスにとって追い風となるだろう。

7. クレジット市場
2023年におそらく最も意外だったのは、米国をはじめとするクレジット市場の堅調さだろう。当社の予測でも大幅な悪化を見込んでいたわけではなかったが、クレジット市場は、プライベート・エクイティとプライベート・クレジットの役割を中心に、ほぼすべての市場参加者にとって明らかに懸念材料であった。しかし当社では、暗号資産分野において極端なボラティリティ上昇と動揺を招くような出来事が起こる可能性を警告していた。一方、2023年3月に発生した米国の金融不安については、FRB(連邦準備制度理事会)と米国政府の効果的な対応により、全般的な信用危機への拡大を防ぐことができた。もちろん、クレジット市場は痛手を受け、特に商業用不動産や個人向け融資などの分野でデフォルト(債務不履行)が増加したが、危機的な水準には至らなかった。2024年も悪化が続くとみられるが、それなりに予測可能な範疇に収まるだろう。クレジット市場の投資家の多くは、FRBとECB(欧州中央銀行)の次の動きが利下げになるとの確信を取り戻しており、したがって、投資の先行き見通しは不透明感が依然残るものの暗さが後退しており、市場は十分に下支えされるとみられる。

8. グローバル・リスク市場については悲観的な先行きも「ゴルディロックス」(過熱せず低迷もしない適度な経済状態)シナリオも予想されない
この点は繰り返す価値がありそうだ。S&P500種株価指数は2023年における大方の予想を大きく上回ったが、前述の通り平均的な銘柄の株価はかなり軟調だった。日本と欧州では、現地通貨ベースでの株価上昇幅は大きかったものの、米ドル・ベースでのパフォーマンスはもっと緩やかだった。米国株式市場は1年前のこの時期にもまして割高となっており、現在の水準からの大幅な上昇は妥当ではないように思われるが、他の大半の国々は株価が概ねフェアバリュー(適正水準)にあり、(引き続き為替要因が重要な役割を果たすとみられるものの)良好なパフォーマンスを見せる可能性がある。しかし、欧州は固有の困難な問題に悩まされており、景気の回復にはかなり苦戦するかもしれない。このような背景のなか、投資においてプラスのリターンを得るためには、明らかに銘柄およびセクターの選択が最も重要な鍵になるとみられる。日本については、円相場が足元の水準前後で安定することをほぼすべての権力中枢が望んでおり、そうなった場合、筆者の経験からすると、自国通貨安を経て力強い回復を見せる国の株式市場は、米ドル・ベースで良好なリターンを達成することが多い。

9. 目先の不安材料に過剰反応しない
世界経済は引き続き、かつての行き過ぎが「治癒」される半スタグフレーションの状態にあるため、今後数四半期は、マクロ経済・企業収益・信用に関するショックが多く待ち受けている可能性が高い。しかし、これは世界経済が癒えるプロセスの一環であり、中期的な株式見通しは実際には改善しつつあるため、投資家は目先の材料にうろたえない方がいい。実際、企業収益面でのショックについては、アナリスト予想を大幅に下回らない限り市場で許容されるかもしれず、特に全体的な見通しがポジティブな場合はそうなる可能性が高い。

10. 問題は頭打ちに
これは、完全に客観的な予測というよりも、人類と当社のような投資家の両方にとって、クリスマス・シーズンにちなんだ願いに近いかもしれない。ハムレットが嘆いたように、我々は長年にわたって絶え間ない「非道な運命の矢弾」を耐え忍んできた。上述した低調な経済・金融環境の多くは、近年のものも2024年を通じて予想されるものも、ともに癒えていく過程の一環であり、政治問題についても、過去の話となる可能性は低いものの、そのショックとしての価値は薄れていくとみられる。そうなれば、世界は長期の構造的課題に対してより効果的に立ち向かえるようになるだろう。

まとめ

本稿で述べたコメントや当社の他の2024年見通しレポートが投資家の皆様のお役に立てば幸いであり、ご意見やご質問があればいつでも喜んでお受けしたい。ここ数年が激動の時代であったことを考えると、これからの1年はそろそろ多少なりとも幸運に恵まれたいものだ。


個別銘柄への言及は例示のみを目的としており、当社で運用するポートフォリオでの保有継続を保証するものではなく、また売買を推奨するものでもありません。


当資料は、日興アセットマネジメント(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社のファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社が保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のグラフ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社のものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。