本稿は2024年3月26日発行の英語レポート「Balancing Act」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

グロース資産のスコアを引き上げ、ディフェンシブ資産のスコアは中立に据え置き

投資環境概観

世界では製造業PMI(購買担当者景気指数)の好転が続き、韓国等の国々で輸出が回復するなど、製造業(在庫)のサイクルに弾みがつきつつあることが示唆されている。在庫補充の必要性は常であるものの、金融環境の緩和とリスク許容度の全般的な回復が発注の早期化を促進しており、これがサプライチェーンの再活性化に伴って自己増強される傾向にある。

AI(人工知能)投資熱の高まりを受けて半導体やメモリー・チップへの需要が拡大しているのは確かだが、製造・輸出の需要はさまざまな製品に広がりつつあり、ドライバルク(粒状あるいは粉状のばら積み貨物)の輸送費は、2022年から2023年にかけての低迷以来、初めて上昇に転じている。製造業の低迷はリセッション(景気後退)の前兆と考えられてきたが、どうやら購買担当者がコロナ後の需要変動ショックに適応する必要があっただけのようだ。

こうした回復の動きは、史上最も積極的なものとなった金融引き締めサイクルから予想される従来の論理に反している。しかし、2020年のマネーサプライ拡大が非常に巨額で、量的引き締めが取り除いたのはそのごく一部に過ぎない一方で財政出動の大盤振る舞いが続いていることを考えると、まだかなりの過剰流動性がじゃぶじゃぶしている状況で、おそらくはこれが需要とキャッシュフローの底堅さにつながり、今のところ金利上昇の逆風をはるかに上回っているのだろう。


クロス・アセット

当月は、グロース資産のスコアを引き上げてプラス幅を拡大する一方、ディフェンシブ資産のスコアを中立に据え置いた。米国経済は勢いを増しているように見受けられ、他の地域の景気も、在庫の再積み増しが必要となったのに伴い製造業のサイクルが世界的に好転していることを一因として回復しつつある。株式市場の上昇はかつては「マグニフィセント7」(Apple、Microsoft、Alphabet、Amazon、Nvidia、Meta Platforms、Tesla)を中心とする範囲の狭いものであったが、景気回復の裾野が広がることで他セクターの企業収益も押し上げられる可能性がある。

クロス・アセットの観点から見ると、景気と企業収益の見通しに改善の可能性がある一方で、信用スプレッドは比較的タイトであり、したがって相対価値ベースでは数ヵ月前に比べて魅力度が低下している。また、金利のボラティリティがようやく正常な水準に落ち着きつつあるようで、長期金利の先行きが見通しやすくなるとともに、株価バリュエーションを適正に判断する上での割引率の拠りどころも固まりつつある。

グロース資産では、米国のテクノロジーや日本の構造改革といった長期的な成長機会に依然投資価値を見出しており、そのような機会の対象が拡大する可能性もあるとみている。景気上振れシナリオへのエクスポージャーとして、すでにコモディティ関連株のスコアを高めのプラスとしているが、当月は、景気循環ポジションへの追加として先進国および新興国の両株式のスコアを引き上げ、その分、上場インフラ資産とリートのスコアを引き下げた。ディフェンシブ資産では、金のスコアを中立に引き下げ、その分、ハイイールド債と現地通貨建て新興国債券のスコアを均等に引き上げることにより、利回り獲得機会を選好しながら適切な規模のプロテクションを維持した。

マルチアセット・チームのクロス・アセット見解は、(1)グロース対ディフェンシブ、(2)グロースおよびディフェンシブ資産内でのクロス・アセット、(3)各資産クラス内での相対的な資産の見方、という3つの異なる段階で示しています。これらの段階は、選好順位の水準は資産クラスが予想可能な形で似た動きあるいは異なる動きを見せるという当社のリサーチおよび直感的認識を表しており、したがって、資産クラスのクロス・アセットでのスコアリングは理に適っているとともに、最終的により熟考された堅固なポートフォリオ構築につながると考えます。

資産クラスの選好順位

当社の見方

グロース資産

グロース資産は2022年10月下旬以来好調なパフォーマンスを続けており、そろそろ一服する時期かもしれない。欧州株式は最近モメンタムが強まっており、日本株は年初来でトップ・パフォーマンス市場の1つに数えられる。市場では、3月19日にマイナス金利を解除した日本銀行が金融政策の正常化をさらに進めるとの見通しに注目が集まっており、これを受けて為替が円安から円高に転じれば、日本株の上昇の勢いは弱まるかもしれない。しかし、日本株に対して中長期的に強気な当社の見方に変わりなく、また欧州については、リフレの力が金利上昇の痛みを上回るとみられるため、現在では見方を中立としている。

金利の上昇は必ずしも逆風とは限らない

デフレ時代には、日本株市場の見通しは主に通貨(円)に対する見方と連動していた。円安は輸出競争力の向上と企業収益の改善を意味し、これは今でも成り立つ。また、円はかつては米ドルとの連動性が高く、世界的な需要回復の兆候とされることの多いドル安は円安も伴う傾向があり、これが日本株へのさらなる追い風となってきた。日本がマイナス金利政策を終了したことで、円安から円高への転換点となるのだろうか。また、これは日本株が強気相場から弱気相場に転じることを意味するのだろうか。当社ではそうは考えていない。

金利上昇を背景にいずれ円高が進む可能性はあるが、これは日本株にとって必ずしも悪材料ではないとみている。実際、欧州は金利をマイナス領域から+4%まで引き上げたが、多くの人が予想したような悲惨な結果とはならなかった。

低金利は景気にプラスであり、マイナス金利はさらに「好材料」と考えられていたが、ECB(欧州中央銀行)と日銀によるマイナス金利領域への実験的移行は表面上、経済の面から見ても、それぞれの株式市場の相対的パフォーマンスから見ても、あまり良い成果をもたらさなかった。

欧州の場合は、2014年半ばにECBが政策金利をマイナス圏へと引き下げた。これは当初市場に歓迎され、欧州株式はその後約1年間グローバル株式市場をアウトパフォームしたが、続く8年間は大幅にアンダーパフォームした。マイナス金利が経済の追い風となったかどうかは疑わしい。

欧州は2022年にマイナス金利から脱却したが、(当社を含め)多くの人々にとって意外なことに、欧州株式は適度な景気と企業収益を背景として世界の他地域の市場を大きくアウトパフォームした。欧州の景気回復は2023年に失速し、この要因としては金利の上昇もある程度影響したが、中国からの需要が低迷し在庫が全般的に高水準となったことが大きい。しかし、リセッションの程度は浅い模様であり、世界的な製造業サイクルの好転を牽引役として、近いうちに一定の回復が見込まれる。

チャート1


欧州はデフレ脱却が追い風となり、プラス金利が信用市場と信用創造の機能正常化を促したとみられる。これはプラス材料と言える。当社では、マイナス金利は景気を刺激する源というよりも、むしろ景気低迷の兆候だと考えており、マイナス金利からの脱却は景気回復の兆候である可能性が高い。

日本では、2014年まで、金利水準がわずか0.10%というなかで「アベノミクス」がうまく機能していた。しかし、2015年に日銀がECBに続いて金利をマイナスに引き下げると、景気は失速の様相を呈した。原因が何であれ、日本のマイナス金利は、経済や株式市場の相対パフォーマンス面での下支えとはならなかったようだ。

チャート2

日銀の利上げについてはあまり心配していない。マイナス金利が経済や株式市場にとってプラス材料だとはまったく考えていないからだ。欧州の場合は、マイナス金利解除が同地域の経済と株式市場の追い風になったとすら言えるかもしれず、ユーロ高も景気回復を阻害することはなかった。

金利の正常化を背景に円高が進む可能性はあるが、リフレ環境と日銀の慎重なスタンスから、円高は限定的なものにとどまり株式市場の逆風とはならないだろう。さらに、日本は他の国々との金利差が非常に大きいため、利上げが始まっても円が持続的な上昇に転じるとは考えにくい。

グロース資産に対する確信度の強い見解

  • コモディティ関連株:インフレは概ね当社の予想通り根強さを示しており、これによって株価がサポートされている当該株式分野は、インフレ長期化への適度なヘッジとなる。
  • 米国の長期的グロース株:そろそろ踊り場を迎えるかもしれないが、4ヵ月上昇が続いてきたことを考えると健全な動きと言えるだろう。売上げは引き続き好調で、利益率も同様だ。コモディティ連動株や日本株がバリュー特性をもたらしているポートフォリオにおいて、テクノロジーに代表される米国の長期的グロース株はバランスも提供する。
  • 欧州株式に対しては中立:欧州では利下げが始まる前に景気が鈍化し、株式市場の回復は期待しづらいと考えていた。しかし、同地域は、景気減速が比較的浅めにとどまっているなか、製造業サイクルの回復といずれ実施される利下げが追い風となる可能性がある。

ディフェンシブ資産

ディフェンシブ資産におけるスコア変更は比較的小幅にとどまり、ソブリン債では、利下げが近いと想定され他の国・地域に対して有利な環境にあるフランスおよび中国の国債のスコアを引き上げ、その分、米国債とオーストラリア国債のスコアを若干引き下げた。債券のボラティリティが低下し続けるなか、ディフェンシブ資産で最近最も大きな値動きを見せたのは、金市場と(変動幅はより小さいものの)円であった。今月は、金のディフェンシブ資産としての役割を、最近の値動きに照らして詳しく見てみたい。

金と実質金利

金は、それほどのお祭り騒ぎや投機的な関心を伴うことなく着実に上昇してきたが、2月末から6%近く急騰し史上最高値である1オンス当たり2,163米ドルをあっさり更新したことは、さすがに市場の注目を集めた。近年における金価格の大幅上昇は、2022年3月にロシア・ウクライナ戦争ショックにより2,050米ドルを付けた時や、2023年5月に銀行不安を受けて再び同水準に近づいた時のように、通常は何らかの危機に関連してきた。とは言え、いずれの危機も、(コロナ禍下でシステムに放出された大規模な資金流動性を背景に2020年8月に付けた)前の史上最高値である2,063米ドルまで金価格を上昇させることはなかった。

短期的には、また危機以外の状況下では、金価格の動向は通常、実質金利の相対的魅力度に左右される。実質金利が上昇すると、金のキャリー・コストがマイナスとなり他の利回り資産の魅力度が高まるため、投資家は金のポジションを手放しやすくなり、実質金利が低下すると、金の価値貯蔵手段としての魅力が再び買い手を惹きつける。今回の金価格上昇は、実質利回りが(2023年7月の水準まで)低下するという状況を反映しているが、ただしその動きの大きさは過剰なように思われる。

チャート3は金価格と実質金利(上下反転)の推移を比較したもので、金価格の短期的な上がり下がりは実質金利の変化によって概ね説明できることを示している。しかし、米FRB(連邦準備制度理事会)の政策金利が前回のピーク(現在の5.5%に対してわずか2.5%)を迎えた2018年まで遡ると、金は明らかに上昇トレンドにあり当該期間に77%(実質ベースでは35%)上昇している一方、実質利回りは2018年当時の1.15%に対して現在1.88%と、より魅力的と言える水準にある。

チャート3

2018年以降の実質価格の上昇を考えると、金は割高なのだろうか。その可能性はあるが、必ずしもそうと言えるわけではない。政策金利における2018年のピークと今日のピークにはいくつかの違いがある。まず、FRBのバランスシートが2018年後半に比べて87%(実質ベースで46%)拡大している一方、マネーサプライ(M2)は縮小しつつあるものの2018年後半に比べて47%(実質ベースで19%)拡大している。次に、米国の財政赤字も、2018年は対GDP比3.75%であったのに対し、現在は同6.45%と高水準にある。金を現在の水準に押し上げている要因についてはまだ具体的に明らかにはなっていないが、ファンダメンタルズは必ずしも金が高すぎると示唆しているわけではない。

金はポートフォリオ構成において提供するプロテクション機能の割に価格が高すぎると考えるべき理由は、ファンダメンタルズ面では見当たらないが、一方で実質金利は3月上旬に見られたより妥当な水準をすでに回復しており、これが金の上昇を一時的に止めた要因かもしれない。

日本円対実質金利と日銀

3月上旬には、円も金とともに上昇した。この動きについて、日銀による利上げが近いことを要因とする向きが多かったが、3月19日に日銀が利上げに踏み切った後は、日本の金利が他国よりもはるかに低い水準にとどまり続けるとの見通しから、月末にかけて再び円安が進んだ。円も金と同じくキャリーがマイナスであるため、米国の実質金利の動きに金同様の反応を見せる。3月上旬の円高は実質金利の低下に伴い起こったものだったが、米国の実質金利が以前の水準に戻ると円はその上昇分を吐き出した。以上のことから、3月上旬に見られた円高は、日銀のタカ派転換を予想してというよりも、米国の実質金利の動きに反応した通常の市場動向であったと言えるだろう。

チャート4

いずれにせよ、日銀は金利を「正常化」する必要がある。インフレ圧力が優勢となりそうな状況ではマイナス金利はほとんど意味をなさず、世界の諸外国がインフレ対応ですでに利上げを行ってきたことで、円は過度な圧力に晒されてさらに下落が進み、これを受けて日本のインフレ圧力が増しているからだ。それでも、日銀は過去に過度の引き締めにより自国にデフレをもたらした経験があるため、慎重にならざるを得ない。

利上げは予想という意味では市場に十分織り込まれており、日銀が市場の予想を上回るタカ派スタンスをとることはないだろうと考えているため、円が大きく反転して上昇に向かう可能性は低いとみている。

円ベースで見た金

2018年以降、円がドルに対して24%下落している一方で、金は円ベースで120%上昇している。今のところ、円は最近の上昇局面において金に追いついておらず、金は日本の投資家にとって引き続き適切なヘッジの役割を果たしている。

チャート5


ディフェンシブ資産に対する確信度の強い見解

  • 満期の短い投資適格クレジット:信用スプレッドは依然適正水準にあるが、多くの国でイールドカーブが長短逆転しているため、満期が長めのクレジット物は投資魅力度が相対的に低くなっている。イールドカーブがスティープ化するまでは、満期が短めのクレジット物の選好を継続する。
  • 金はヘッジとして依然魅力的:金は実質金利の上昇やドル高にもかかわらず底堅さを示しており、地政学的リスクおよびインフレ圧力長期化に対するヘッジとしての有効性を証明している。
  • 新興国債券の利回りは魅力的:現現地通貨建て新興国債券の実質利回りは総じて非常に魅力的であり、またドル全面安の予想からクオリティの高い新興国通貨を選好している。

プロセス

リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:

リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:


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