円安・円高とNISAのカンケイは?
今福 啓之
日興アセットマネジメント
結論
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海外株式に投資する投資信託の価格は「株価×為替」
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「円高残念、円安ラッキー」と覚えておこう
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「株価には期待、為替はガマン」が最終結論
NISAなどで投資信託を買おうという人の多くが今、海外の株式に投資する投資信託を選んでいるようです。
その場合、S&P500やオール・カントリーといった海外株式指数のインデックスファンドも、その他の海外株式ファンドも、基本的に「円高・円安」という為替変動の影響を受けます。
私の結論を最初にお伝えしておくと、「株価には期待、為替はガマン(無視)」です。説明していきます。
海外の株式は「両替」して買っているようなもの
通常の投資信託は「円」で買い、「円」で評価額が動き、売却すれば「円」で売却代金を受け取ります。投資信託の価格を基準価額といい、1日に1回だけ計算されますが、その基準価額が「円」だということです。
しかし海外株式を組み入れる投資信託の場合、私たち運用会社は、皆さんから預かった日本円を使って海外株式を買わねばなりません。
たとえばS&P500にも上位銘柄として採用されているマイクロソフトやアップルは米国の株式市場に上場しているので、日本円では買えません。わかりやすく言うと、私たちは日本円を米ドルなど必要な通貨にいったん「両替」して、その国の株式を買うのです。
買った後の評価については、基準価額の計算のされ方で説明した方が正確で、わかりやすいかもしれません。
米国株式ファンドの基準価額算出の仕組み
この絵にある通り、毎日1回計算される基準価額とは、株価と為替の掛け算の結果を、その日の全保有者の口数で割り算して、1口当たりの価値にしたものです。
詳しく見てみます。まず、たとえば保有中の米国のA株やB株やC株が何米ドルで終わったかという終値(おわりね)と、その投資信託が今それぞれを何株持っているかという保有株数とを掛け算します。
すると、その投資信託が今持っている資産の「時価」が出ることになります。ただ、まだそれは「米ドルベース」ですよね。日本の投資信託ですから円で表示しなければなりません。だから次に為替を掛け算するのです。
つまり海外株式に投資する投資信託の基準価額は、「株価の上下」と「為替の上下」とが掛け算されて決まっているわけです。
「円高残念、円安ラッキー」
したがって、せっかく米国市場で株価が上がってくれても、為替の方が下がってしまっては、せっかくの株価の上昇が為替で減じられてしまうことになります。
この場合の「為替が下がる」とは、米国株式なら米ドルが下がる=円が上がる、つまり「米ドル安・円高」のことを言っています。たとえば1米ドル150円だったのが1米ドル120円になるようなことが「円高」です。
150が120と数字が小さくなるのに円高だというのがヤヤコシイですよね。でも1米ドルの米国のモノが150円でなく120円で買えるようになったのですから、円の「購買力」が高くなった、だから「円高」でいいのです。
円高や円安が実体経済に及ぼす影響は複雑で、ニュースでも円安が悪いと言ったり良いと言ったり、混乱してしまいます。でも、こと日本人の海外株投資の話に限っては、「円高残念、円安ラッキー」と覚えておけばOKです。
4つパターンがあります。
● 株価が上がっても円高になった日は、せっかくの株価の上昇が「為替のせいでちょっと残念」。
● 株価が上がって円安にもなった日は、「ダブルラッキー」。
● 株価が下がっても円安になった日は、株価の下落を為替が救ってくれて「為替のおかげで少し助かった」。
● 株価が下がって円高にもなってしまったら、「ダブルパンチ」。
具体的に計算してみましょうか。10年前に米国株式の投資信託を買った時、1米ドル100円だったとします。当然、基準価額の計算に用いた為替は100円です。そして10年経った今、1米ドルは150円になっているとしましょう。
これは、為替だけで基準価額が5割上がっていることを意味します。もし投資信託の「中身」である株式の価値がまったく変化していないとしても、10,000円だった基準価額は今、15,000円になっています。為替だけで5割の利益が出ているわけです。
そこにもし、「中身」の株価の方も全体で5割上がっていたら?
1.5×1.5=2.25ですから、基準価額は22,500円です。2.25倍。スゴイですね。
逆に中身が5割上がっていても、為替が5割の「円高」、つまり1米ドル100円だったのが50円になっていたとしたら?
1.5×0.5=0.75なので、基準価額は7,500円と25%のマイナスとなります。
やはり「円高残念、円安ラッキー」なのです。
なら為替をどう考える
投資信託で保有中の米国株式の株価が上がり、さらに米ドル高・円安になる「ダブルラッキー」を期待したい私たちですが、果たしてそううまくいくものでしょうか。
私がいつも持っている考え方は2つです。
ひとつは「主役は株式で為替は脇役。脇役の方で投資の判断を下すべきではない」。
もうひとつは、「為替は結局よくわからないし、長期で報われる(円安になる)ものでもない。しかし株式の長期投資の方は報われるはず」――です。
2024年5月現在、米ドル・円の為替レートは数十年ぶりの「円安」になったり、それを良くないと考える政府が円高方向に誘導しようとしていると言われています。
しかし、脇役の動きを見て、「今は円安だけど、円高になったら損するから投資は見合わせよう」とか、「円安で利益になっているなら、円高になる前にいったん売ってしまおう」などと考えることはナンセンスだと、私は思います。主役と脇役を間違えた「主客転倒」はいけません。
そもそも私たちは、主役たる株式を長期保有することによる資産形成を目的に投資を考えていたはずです。その株式とは本来、長期で保有すればするほど報われるものと考えられます。株価の実態である企業というものが、時間を与えるほどに成長し、企業価値を高めるものだと考えられるからです。
しかし為替の方はそうではありません。長期保有することで日本人が報われる、つまり円安になるという性質を持っているわけではありません。為替の方向性を予想するための様々な理論はありますが、結局のところ読めません。
だから冒頭でお伝えしたように私は、「株価には期待、為替はガマン(無視)」と割り切っています。為替の変動など気にならないくらいに株価が上がってくれれば良いと考えているのです。
将来お金が必要になって売却する時に、買った時よりも円安になっていれば、それはオマケとして「ラッキー」だし、円高になっていたら、残念だけど仕方ないよね、と思えるような投資にしたいという考えです。
実際、株式ほど大きく動くものでもなし
先ほどは100円が50円になるような極端な円高で計算しましたが、仮に150円が120円になったとしてもマイナスは20%。小さくはないけれど、しょせんは読めない為替で悩むなら、10年で2倍や3倍を目指そうという長期投資の「主役」、つまり株式選びにこそ、エネルギーを使うべきです。
ちなみに、この為替の悩みを無くすための「為替ヘッジ付きコース」というものが選べる場合があります。主役の方は同じ投資信託なのですが、“追加機能”として為替変動の影響を気にしなくていいようにする取引を付けた「コース」です。
しかし、運用会社が追加機能を上乗せするためにはコストがかかり、(2国間の金利環境によるものの)それは基準価額からマイナスされるかたちで皆さんのリターンを蝕みます。かつて、諸外国の金利も低く「アリ」だった時代もあるのですが、今は検討する必要は「ナシ」と言っておきます。
「株価には期待、為替はガマン(無視)」のもと、主役の株式選びの方を頑張りましょう。当「20年後ラボ 」には参考にしていただける記事やコーナーがあるので、ぜひ目を通してみてください。
今福 啓之
日興アセットマネジメント