第九話 投資信託の基準価額って何?

今福 啓之
日興アセットマネジメント

ポイント
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投資信託の中身の今日の時価を求め、今日の保有者のすべての口数で割り算したものが基準価額
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基準価額の計算の仕組みからも、投資の目的からも、投資信託でのタイミング売買は考えない方がいい
では少し照れるが早速始めますか。投資信託(投信)の仕事で32年目の僕が、父親の最後のアドバイスとして結婚した娘とその夫2人にこんな話ができるのは、まぁありがたいことだよね。
基準価額の計算式は理解しとこう
少し概念的な話が続いてしまったので、「投信について知っておいたらずっと役に立つよ」という基礎知識の話をしようと思う。
僕は証券マンを10年やって2000年に投信会社、今の会社の前の運用会社に転職したんだけど、実は投資信託のこと全然わかってなかったんだよね。
営業マンとして販売してはいたけど、本質的なことはおろか、結構基礎的なことも曖昧だったことに気付いて、あわてて勉強したのを覚えている。
でも20年経っても一番大事だと思うのはコレ。基準価額の計算方法だと思う。

もしかしたら知らなかったかもしれないけど、投信の値段って1日に1回しか出ないのよ。
株式は取引所が開いている時間は時々刻々と動いているじゃない。ニュースでも「現在の日経平均は……」とか言うように。
でも投信はその取引所の1日が終わってから値段を計算し始めるんだよね。
東京証券取引所は15時に終わるんだけど、終わってからが本番。ウチの会社の計理部というところが大忙しになる。
この絵のAがトヨタだとしたらトヨタの今日の終値(おわりね)、15時の最後の値段ね、それがいくらだったか、Bが任天堂だったら終値はいくらだったかなどなどを調べ、そしてこの投信はAとかBをそれぞれを何株ずつ持っているかを調べて掛け算するわけ。
そしたらこの投信の「中身」の今日時点の価値の総額が出るよね。それを「資産総額」という。
これは市場が終わらないと決まらないわけだ。だから市場が閉まってから計算して、1日に1回だけ計算されるってわけ。その「資産総額」から信託報酬などを差し引いたのが「純資産総額」。
それを今日時点のその投信の全保有者が持っている口数の合計、「総口数」というんだけど、それで割り算する。
そうすると1口あたりの価値が出るじゃない。便宜的に最後に1万をかけて表示するんだけど、それが「基準価額」なの。
各運用会社はたくさんある運用中の投信の基準価額をすべて計算して、大体夜8時頃までにウェブサイトで公表する。
銀行や証券会社などの販売会社では、運用会社からの連絡を受けてから、だから夜9時とかにウェブサイトなどに公表する。
そして翌日の日経新聞などにも各運用会社の基準価額が一覧表で掲載される――そんな感じ。
そう、結構時間かかるのよ。これをすべての運用会社が毎日毎日繰り返しているわけ。
もし投資信託の中身に海外株式が入ってたら?
ところで、もしCがiPhoneのアップルだったらどうなると思う?
日本の投信の基準価額は15時に日本の市場が閉まった後に終値をザーって取得して「純資産総額」を確定し、あと、全販売会社から買った人と売った人がどれだけいたかを聞いて、その結果の「総口数」で割り算をするわけだけど、その作業している時、米国は夜中なわけですよ。
つまり、海外の株式などは前日の終値を持ってくるしかないわけ。
でも日本の投信だから、当然日本円で評価しないといけないよね。なので円ドルの為替レートを掛けると。
ただ、運用会社毎に好きな為替を使ったらズルになるから、その日の10時の為替を使うことっていう業界ルールがある。
昨日のアップルの株価に今日10時の為替を掛けた金額を、その投信の中身の今日の価値として計算するわけだ。
ヨーロッパや中国など世界中の株式が入っている場合だって同じこと。
でも、もし昨日の米国だけ祝日だったら、米国の株式だけは2日前の値段が引っ張られてきてしまう。でも為替はどの国も今日の10時となる。
結構大変だな、って感じでしょ。
ちなみに10時っていうのは一般的な投信の場合であって、投信の設計によっては、ニューヨークの12時で円に転換された基準価額そのものを持ってきて使う――とか色んな例外はある。

何が言いたいかというと、投信を使ってマーケットニュースを見ながらの売買なんてできないよ、ってこと。
投信って申込締め切りの時間があって大体15時なんだけどね、そもそもその売買の申し込みをした後から基準価額を算出し始めるわけなので、一体いくらで買えるのか売れるのかはわからないまま注文する仕組みなんだよね、そもそも。
さらに海外の株式などに投資する投信だと、申し込んだ「翌日の基準価額」で売買するというものが多い。
約定日(やくじょうび)っていうんだけどね、書類には必ず「約定日はお申込みの翌営業日です」などと書いてある。
15時までに売買を申込むが、その夜中から始まる海外市場が上がるか下がるかは当然わからないよね。
日本の明け方から翌日になって閉じる海外市場の終値を使って、翌日の夕方にようやく基準価額の計算が始まる。これは仕組み上仕方ないことだし、実は投資家間の公平性を担保する仕組みでもある。
ネットを見てると「米国の株価が下がったから今日、米国株式の投信を買おうかな!」なんていうのがあるんだけど、それはまったく違うってことがわかるよね。
投信はそもそもそういうツールじゃない。タイミングを見て売買して差益を稼ごうという目的には、そもそもまったく適していない。
投信積立の場合は毎月の買付日が決まってて自動的に買っちゃうからそんなこと考える余地は元々ないけど、ボーナスが出たり、まとまった投資資金が出来たりしたときにはどうしても「安く買いたい!」って思ってしまいがち。
でもね、説明した通り、仕組み上それは無理だし、そもそもそういう小さなこと考えたらダメよ、と言いたいわけ。
投資タイミングをはかるなんてダサいね!と思うようにしよう
投資の極意があるとしたら「安く買って、高く売る」なんだろうから、投信においても基準価額が1円でも安い日に買った方がいいに決まってる。
でもね、君たちにはそんな短期的な時間軸で投資をして欲しくない。
ボーナスが出たから積立とは別に買ってみる――。こういうのを俗に「スポット買い」っていうんだけど、タイミングを考えれば考えるほど買えなくなることが起こりがちなんだよね。
今日申込みしていいんだろうか、もっと安く買えるんじゃなかろうか、今日買ったら「高値づかみ」になるんじゃなかろうか、ってね。
そういう気持ちはよくわかる。
でも思い出してほしいのは、前にも話した投資の目的と時間軸なんだな。
2人の投資の目的と時間軸は「自分たちで人生のハンドルを握ってるイケてる夫婦、家族になっていること」なんだから、「買うのは今日か明日か、いや明後日か!?」なんて迷っていてはいけない。
君たちはぜひ「そういうのはダサいね!」と生意気にも考えて、思い立ったが吉日、その日に実行するようであってほしい。
この絵を見て。
もしCまでの短期決戦ならAじゃなくBで買わないとゲームに勝てないけど、君たちはもっと先のDの時点での、買ったのがAだったかBだったかなど気にならないくらいの大きなリターンを目指しているはずだよね。

なんて言いながら僕はね、確か4年前のボーナスをもらった時なんだけど、ちょうど微妙な相場状況だったこともあって「今日か明日か?」と思ってズルズルしてしまって、気付いたら半年以上経っていた。ずいぶんマーケットは上がってしまってもいて、すごく落ち込んだね。
それ以降、僕はボーナスが振り込まれたその日に証券会社にお金を送って、スポット買いをするようにしている。
とはいえ、誰でもどんな場合でも「一発」でスポット買いしていいのかどうかは、その投信の商品性と、あとはやはり目的と時間軸による。また話すね。
今福 啓之
日興アセットマネジメント
