NISA全体をどう設計するか(3)
今福 啓之
日興アセットマネジメント
結論
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期間が限られたり、預貯金にある保守的なまとまったお金の場合は、必ずしも「株式100%」だけが正解でない
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バランスファンド選びは簡単でないが、「債券比率」がひとつの目安になる
前の記事「NISA全体をどう設計するか(2)」ではNISA口座の使い方について、2つの考え方を紹介しました。両方とも「株式100%」の投資信託を念頭においたものでしたが、今回は株式100%以外の選択肢について説明します。――バランスファンドについてです。
ミドル世代こそ悩みが深い
NISAは20代から40代などのような「資産形成層」の利用が強く意識された制度だといえます。つまり「20年積立」が可能な人たちです。
一方で、悩みは50代以上にこそリアルで深いことを、毎月リサーチ目的で自主開催しているウェブセミナーを通じて、私たちは実感しています。
毎回60分の講義のあとのQ&Aコーナーでよく出てくる質問が2つあります。ひとつは、「私には20年の積立をするような時間はないが、どうしたらいいか?」。
もうひとつは、「実はまとまったお金が預金にあるのだが、それも積立でS&P500などのインデックスファンドを買うのがいいのか?」です(詳しくは「まとまったお金も積立で買うのがいいですか?」をご覧ください)。
いうまでもなく、NISAの利用は義務ではありません。それなのになぜ、自分は投信積立をしたいと思うのか、なぜ、まとまったお金を預貯金に置いておくのは嫌なのか――。その理由、つまり「リスクを取る目的」を考えてみることが大切です――というのが回答になりますが、教科書的過ぎますし、ピンと来ないでしょう。
多くの場合は、
◎ 何となく将来が不安。
◎ 投資するとそれが解決するイメージがある。
◎ NISAがいいらしいから、とりあえず始めてみたい。
◎ 何がいいか分からないので、評判のいい人気ファンドを買ってみるか。
となっているはずで、それは極めて自然なことです。
それでも、当サイトにある目標金額を考えるシミュレーションコンテンツ「資産運用の目標を決めよう」や、まとまったお金について考えるシミュレーションコンテンツ「まとまったお金の対処法」も使って、是非そうした原点に一度立ち返ってみていただきたいのです。
具体的には、自分は「いつ、いくら作っておきたいのか」から逆算して分かる、自分にとっての必要利回りを何となくでも把握することです(詳しくは「投資信託の「利回り」はどれくらいですか?」をご覧ください)。
自分に必要なのが年平均4%のリターンなのか年8%なのかが分かるだけでも、「何となく将来が不安」だからから一歩進んで考えられるようになります。
例えば、
◎ 確かに積立期間は長くとれないが、毎月の積立額は若い人よりも大きくできるから、年8%などではなく年4%などで十分かもしれない。
◎ 積立だけでなく、最初に一括投資で500万円を入れることにしよう。この「合わせ技」で考えれば、無理に高いリスクは取らなくても大丈夫かもしれない。
◎ このお金は、よく考えたら大きなリスクを取るべきお金ではなかった。目標を控えめにすることで、取るリスクも控えめにしよう。
このように、自分には若い人が資産ゼロから臨むために必要な年7%や8%などの高いリターンは必要ないのだ――と分かった場合には、その人にとって株式100%のファンドは必ずしも選択肢ではありません。
いくらNISAの人気ランキングにあるからといっても、その人のその目的にとっては、S&P500や全世界株式のインデックスファンドはリスクを取り過ぎだということです。
3つの活用法(3)—“ほどほどで抑える”という視点
その場合には、「株式100% & 20年積立」という今現在の王道路線とは異なる視点が必要で、それが3つめのケース、“ほどほどで抑える”という視点です。
● バランスファンドを選び、無理をしない。
● とはいえ「含み損」の時期は不可避であることの理解が必須。
具体的には、株式と債券などをミックスしたバランスファンドを選ぶことになります。「投資信託は3×3のマスの理解から」の記事でご紹介している、株式のマスだけでなく複数のマスを塗りつぶすタイプの投資信託です。
上図で明らかなように、変動の波は株式100%の場合に比べて小さくなります。ただし、得られるであろう利益も小さくなります。その理屈は簡単で、「株式のパワー」を債券などで薄めるからです。
例えば、投資信託の中身を2つに分けて、株式5割・債券5割で構成すると、株式の値動きが投資信託に与えるインパクトは半分になります。もし、株式が10%下がっても、投資信託は5%しか下がりません。しかし10%上がっても、同じように5%しか上がりません。
もちろん、薄めた相手の債券などにも値動きがあるため、最終的にはその合計になりますが、株式の値動きの方が圧倒的に大きいので、そのパワーをどの程度にまで薄めるかの「濃度」によって性質が決まってくるわけです。
株式の比率が高めになればなるほど、株式100%のファンドのリスク水準に近づいていきます。そうなると、別にバランスファンドではなく株式100%のファンドを選び、買う金額の方を少なく調整すれば良いのではないか、という気がしてきます。
バランスファンドの種類のひとつに、株式と債券とリートの配分比率を等しくした「〇資産均等バランス」といった「均等配分タイプ」がありますが、そのタイプはそうしたリスクの高めのバランスファンドになる傾向があります。つまり、株式市場の値動きに影響を受ける度合いが強くなります。
それは、「債券・リートについて知っておくべきこと」の記事でも説明した通り、リートが株式と同じくらいに価格変動のリスクが高いから。株式とリートと債券の配分比率を均等にすると、「株式+リート」の合計のリスクを債券で十分に薄められないからです。
もちろん、株式市場が上がるときに一緒に上がってくれるバランスファンドということになるので、必ずしも悪いことではありません。しかし、先に紹介した「ケース1」や「ケース2」とは明確に考え方を分けた、安心感重視の「ケース3」とするのであれば、債券の比率が3分の2、つまり6割以上あるもの、したがって株式とリートの合計比率は4割を超えていないかどうかが、ひとつの目安になると思います。
2つのフィルターで絞り込み
この「債券比率」のチェックは、「ケース3」にフィットするバランスファンドを絞り込むためのひとつのフィルターです。そしてもうひとつのフィルターが、「つみたて投資枠適格」かどうか。
つみたて投資枠適格のファンドを成長投資枠で買うことはまったく問題ありません。つみたて投資枠で買ってもいいし、成長投資枠で買ってもいい、ということです。
バランスファンドは日本で1,300本以上も存在しますが、NISAのつみたて投資枠適格ファンドであれば、数は120本ほどに相当に絞られます*し、購入時手数料はゼロ(ノーロード)で、信託報酬も低いという安心感もあるでしょう。
*資料作成時点
いずれにしても、「NISAは株式100%のインデックスファンドを20年の積立で買わなくてはいけない」といった“呪縛”にとらわれず、自分の状況とリスクを取る目的に立ち返り、自分が気持ちよく、納得できるNISA活用を選び取ればいいということです。
なお、「ケース3」を選ぶのは50代以降のミドル~シニア世代に限りません。若い人も「ケース1」や「ケース2」の戦略を長期覚悟のメインに据えながらも、もう少し期間が短いお金、例えば教育資金や10年後の節目で人生の選択肢を考え直すための、といった「途中のゴール」に焦点を当てたお金の場合には、「ケース3」を組み込むという考え方は大いにあるでしょう。資産運用の目的は、何もずっと先の「老後の備え」ばかりではありません。
逆に、ミドル~シニア世代だって、「お金のかたまり」ごとに「ケース1」や「ケース2」を選んだっていいのです。「ケース3」に加えて、「このお金には長い時間を与えてあげて、その先の豊かな生活の夢を見よう」とか「資産運用は世代を超えていったっていい。相続した者が驚くくらいに増やしてしまおう」などと、二世代運用を考えるのだって素敵です。
ちなみに相続が発生するとNISA口座の中の投資信託は課税口座に移管されます。それでも当然非課税で換金されますから、十分に意味はあります。
もちろんお金に色はありませんが、将来をあれこれ考えながら「お金のかたまり」毎に考えることには意義があります。なぜなら、色々な目的を思い描いて、その「解像度」を上げていくことは、自分の将来に前向きに向き合うことと同じだからです。
当「20年後ラボ」は、老後不安だけでNISAを始めるよりも何倍も健全で前向きなそうした考え方をお勧めします。前回の記事「NISA全体をどう設計するか(2)」から紹介してきた「ケース1」「ケース2」「ケース3」の考え方がそのガイドになれば何よりです。
今福 啓之
日興アセットマネジメント
20年後Lab.セレクトファンド
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