ここがポイント!
- さらに臆病な米FRB:トランプ政策を気にしない
- クララは歩くのか?:日本の消費拡大に注目
- 世界経済はソフトランディング:株価は企業収益重視
さらに臆病な米FRB:トランプ政策を気にしない
米FRB(連邦準備制度理事会)の利下げが2024年9月から始まったが、当初の想定よりも遅かった。経済指標が意外に強く、FRBが利下げを焦る必要がなかったとも言えるが、インフレ率は低下しており、思いのほか利下げを先送りした印象だ。その結果、円高・米ドル安は進まず、2024年7月ごろに1米ドル=160円を超える円安・米ドル高となった。その後、失業率が一時的に急上昇したことなどを背景に、政策金利(目標レンジの上限)は9月に5.5%から5.0%に大きく引き下げられ、11月と12月には0.25%ポイントずつ、2024年年間では計1%ポイント引き下げられた。
インフレの落ち着きをみる限り、FRBはインフレ再燃に対して市場より臆病に見える。12月のFOMC(連邦公開市場委員会)のドット・チャート(金利予測分布図)で、2025年中の利下げ回数が、前回の4回(0.25%ポイント/回)から2回に半減した。これは、インフレ率が十分に低下していないことへのいらだちに見える。市場では、トランプ政権がインフレ的な政策を実行し、FRBが利下げしないという見方もあるが、トランプ氏に限らず米国の政治家はインフレを悪と捉えており、その原因を作ることを避けるはずなので、FRBの利上げの可能性は非常に低い。仮に、FRBがトランプ政権の政策に影響されたとしても、ごく短期的な利下げの先送りになるだけだろう。

- (FRBの公表資料をもとに日興アセットマネジメントが作成)
トランプ政権の政策について、トランプ氏の口調などから市場の上下動が高まると思われるが、投資の焦点にはならないだろう。移民制限は労働者を減らして賃金を引き上げるなどインフレ的とみられているが、新規流入を減らしても、国内の不法移民を経済に影響を与えるほど大量に強制送還するコストは大変高く、大規模な実行は難しいとみる。
中国に対する関税の大幅引き上げとその他の国への関税導入は一部実行されるだろうが、選挙期間中に60%にするとした中国への関税は、選挙後、+10%(つまり35%程度)に和らげられた。財務長官に指名されたベッセント氏が述べているように、関税はインフレの原因にならないだろう。そもそも関税引き上げの経済効果は消費者への増税と同じで、貯蓄を取り崩して短期的にインフレになっても、その影響は6ヵ月程度で消費減退による景気減速懸念に変わるとみる。
所得税減税については、第1次トランプ政権の減税を継続するとみるが、さらなる減税で消費を押し上げることは難しそうだ。そのため、例えば中国から輸入する業者への法人税減税や補助金支給、米国内で生産する企業への法人税減税といった政策が同時に必要となる。関税引き上げと減税・補助金がセットであれば経済に中立といえる。減税・補助金だけが追加されればインフレ的だが、ベッセント氏は財政規律を重視すると発言しており、その可能性は低いだろう。
逆に石油業界への規制緩和はインフレ抑制的だ。バイデン政権が止めたパイプラインの認可や掘削法に関する規制が緩和されて原油の生産・流通量が増えれば、原油価格の下落要因になる。これは必ずしもデフレ要因ではなく消費刺激的な政策といえ、関税引き上げの悪影響の抑制要因と位置付けてよいだろう。
まとめると、今後の政治家発言などで市場心理は揺さぶられるだろうが、2025年中に政策効果が経済成長率や政策金利に大きな影響を与えるとはみていない。FRBの政策金利引き下げは、インフレ率など経済指標に応じて(2024年12月の雇用統計の内容が市場予想より強かったが、インフレ率は趨勢低下中なので)、2025年中に計3回を予想する。
クララは歩くのか?:日本の消費拡大に注目
2024年の日本経済は、「余剰」から「不足」への体質変化が進み、「クララが立ち上がった」と評価した。具体的には、日本の輸出数量(日銀調査の実質輸出)がリーマン・ショック前の水準を越えた状態が続き、ヒト・モノ・カネの「余剰」から「不足」への変化が、ついに設備投資の拡大と賃金上昇を実現させたからだ。
クララとは、『アルプスの少女ハイジ』に出てくるハイジの友達で、病気が治っていたのになかなか立ち上がらなかったことから、「不足」になっていたのに設備投資や賃金が変わらなかった2023年までの日本経済の比喩として使ってきた。しかし、インフレの落ち着きから賃金上昇率が2024年秋頃にインフレ率を上回っており、この動きは少なくとも2025年前半は続くと思われ、2025年のベースアップが妥結すればさらに続き、いよいよ消費拡大が期待できる状態になろう。

- ベースアップは算出可能な組合に限定、25年度は連合の方針
- 24年度以降のCPIは、日銀政策委員の大勢見通し
- (連合、総務省、日本銀行のデータをもとに日興アセットマネジメントが作成)
- 上記は過去、見通しであり、将来を約束するものではありません。
2024年3月にマイナス金利からゼロ近傍、その後7月に0.25%程度となった政策金利は、2025年末までに0.75%程度に引き上げられるとみる。インフレ率は前年比2%割れに向かうとみるが、1%以下の政策金利は緩和的な状態が続くことを意味し、日銀もインフレにならないという懸念から臆病の継続になりそうだ。これはFRBの利下げとともに円高・米ドル安要因で、2025年末に向けて1米ドル=143.5円程度と緩やかな円高を予想する。ただし、日銀は、円安が物価に悪影響を与えることを気にしているため、円安が進行すれば政策金利を早めに引き上げるかもしれない。
クララは歩くのか?病床にあった日本経済が立ち上がったとしても自ら歩き始めるには筋肉が必要だ。その一つは、国内消費だ。長らくデフレ的なマインドであった消費者は、簡単に消費を増やすとは思えないが、その一方で国内旅行の回復などがみられ、インバウンドに頼らない消費も拡大しているようだ。消費が回復すれば国内企業の設備投資も回復しやすくなる。この好循環が始まれば筋肉への信頼も高まる。岸田政権時に始まる半導体関連などへの投資の補助金も、内需拡大に貢献するだろう。また、定額減税の効果や基礎控除拡大への期待が消費者心理に好影響を与えうる。
もう一つの筋肉は、経済のフレキシビリティだ。うまくいっていない産業から伸びている産業へヒトや資金が動いていくことは、次の景気後退への備えとなる。高度成長期の終身雇用、年功序列などが、株式の持ち合いなどとともに解消されれば、規模よりも効率を重視する経済に変わることができる。労働流動性を高める改革については、税制改革など政策のリードが必要だ。岸田前政権の新しい資本主義を引き継いでいる石破政権の政策実行に期待したい。
世界経済はソフトランディング:株価は企業収益重視
世界経済のリスクであった、インフレ懸念を背景とした米国の政策金利の高止まりが緩やかに解消され始めた。意外に強い米経済の成長率は、2025年後半に前年比2%を下回るとみる。マイナス成長になるとハードランディング(景気後退)だが、足元の経済状態を見る限り、悪く予想する理由は見当たらない。コロナ禍対応の財政出動や経済活動の正常化に伴う高成長がスピードダウンするソフトランディング(軟着陸)で切り抜けられる見通しだ。FRBが政策金利を引き下げる中で、株式市場の金利離れと企業収益への注目が進むだろう。いま注目のAI(人工知能)関連やそれに関わる高性能半導体関連の企業は、収益期待が高すぎて株価変動が大きくなるだろうが、総じて利益拡大を続けるとみている。
日本については、円安・米ドル高が輸出産業の企業収益を実力以上に引き上げて見せるような相場は終わるが、輸出産業の企業収益は横ばいで、内需関連企業の収益回復が進み、インバウンド以外の消費、建設、不動産、銀行などの企業収益の伸びが指数のけん引役になると期待している。
まとめると、2025年の世界経済はソフトランディングで悪くはないが、成長率は減速、世界的にはAIやテクノロジー関連などの企業収益が重視され、日本では内需回復がテーマとなり、ともに株価は上昇を予想する。トランプ政権の政策の影響はセクターごとに異なるが、全体として大きな影響はなく、FRBは政策金利を緩やかに引き下げるだろう。日本では政策金利が緩やかに上昇し、円高・米ドル安傾向となろうが、それほど企業収益に影響しないとみている。