足元、物価上昇などを背景とした利上げ気運の高まりが、金融市場の動向に影響を与えています。この物価上昇には、最近の原油高も影響しており、今後の原油価格動向を注視する必要があります。
原油価格は地政学リスクなどの要因で変動する
2010年以降、原油価格が大きく変動した時の主な要因を振り返ってみます。
原油価格が100米ドル/バレル前後で推移したグラフ1-①の局面では、エジプト危機に伴なうスエズ運河閉鎖観測からの供給途絶懸念やリビア危機による供給途絶(2011年)、シリア情勢やリビアの治安悪化による供給減少(2013年)といった、地政学リスクなどの要因で、原油高となりました。
原油価格が急落したグラフ1-②の局面では、産油国の増産や米シェールオイル増産による供給超過(2014年)、コロナ禍に伴なう移動制限などによる経済活動の停滞で需要が激減(2020年)したことなどが主な要因となりました。なお、2020年には、OPEC(石油輸出国機構)加盟・非加盟国が需要低迷を理由に協調減産を開始しました。
2021年以降、原油価格が上昇したグラフ1-③の局面では、ワクチン接種の進展などから景気回復が進み需要増が見込まれる中、OPEC加盟・非加盟国の協調減産継続で原油在庫が減少し、供給不足が懸念されたことが主な要因とみられます。
このように、需要面で景気回復の進展度合い、供給面で産油国や米シェールオイルなどの生産動向、地政学リスクなどが主な変動要因となり、「需要>供給」となれば価格上昇、「需要<供給」となれば価格下落、といった傾向になっていました。
ウクライナ情勢の悪化で供給不足に懸念
今年に入り、ウクライナ情勢が緊迫しています。発端は、NATO(北大西洋条約機構)加盟を国家目標に掲げるウクライナに対し、東欧諸国をNATOに加盟させないという約束が破られた、とロシアが主張したことでした。そこへ、NATOが東欧の長期的な防衛力強化を目的に、ウクライナ周辺国に新戦闘群の配備の検討に入ったことなどを受け、米欧部隊が国境近くに展開されることを嫌ったロシアがウクライナ国境に兵力を展開させたことで、一気に緊張感が高まりました。このような状況下、主要な産油国であり、天然ガスを欧州に大量輸出するロシアからの供給が滞るといった懸念が、エネルギー価格を押し上げることになったとみられます。
このほか、足元、OPEC加盟・非加盟国が協調減産規模を縮小する中で、一部の産油国では技術・運用などの問題から生産能力が低下していることも、供給不足の懸念につながっています。
昨今、世界的に脱炭素気運が高まっていますが、すぐに原油需要が蒸発するとは考えづらく、当面の間、原油価格は需給それぞれの変動要因が交錯する展開が続くとみられます。
- EIA(米エネルギー情報局)などの信頼できると判断したデータをもとに日興アセットマネジメントが作成
- 上記は過去のものであり、将来を約束するものではありません。