足元で、原油価格は高値水準での推移となっています。原油価格は、欧米がロシア産原油の禁輸を検討していると報じられ、供給不足への懸念が強まったことから、7日に、一時1バレル139米ドル台と、約13年8ヵ月ぶりの高値を付けました。また、天然ガスについても、調達環境の先行き不透明感から、ロシアへの依存度が高い欧州市場において価格が急騰しました。

米国がロシア産原油の輸入禁止を発表
ロシアはウクライナの原子力発電所への攻撃に踏み切るなどウクライナ侵攻で攻勢を強めており、各国はロシアへの制裁措置を強化しています。これまで価格高騰につながりかねないとの懸念から、エネルギー産業は制裁対象から外されていたものの、緊張感が一層高まっていることから、8日、バイデン米大統領はロシア産の原油、天然ガス、石炭および関連製品の輸入を全面的に禁止することを発表しました。また同日、英国政府もロシアからの原油の輸入を段階的に減らし、年末までに停止すると発表しました。さらに、天然ガスについても輸入依存度の引き下げの検討も行なうということです。

ドイツは慎重な姿勢を示す
米英がロシアのエネルギー産業への制裁に踏込んだ背景には、同国からの輸入量が少ないという事情があります。米国が2021年に輸入した原油・石油製品に占めるロシア産の割合は7.9%、英国も、原油の消費量のうちロシア産は8%程度となっています。一方、欧州連合(EU)の中でもドイツは、原油輸入量の3割ほどをロシアに頼っています。ドイツは、ロシアに代わるエネルギー供給元の確保に取り組むが、ロシアからのエネルギー輸入が当面必要だとする声明を公表するなど、慎重な姿勢をみせています。米国も同盟国に圧力をかけることはないと発表していることから、欧州諸国が米英の動きに直ちに追随する可能性は低いとみられ、今回の米英の発表による原油価格への影響は大きくないとみられます。なお、EUは天然ガスについて、ロシア産への依存度を年内に約6割低下させる方針を発表しています。

高まるスタグフレーションへの懸念
原油高が続けば、ガソリンや合成樹脂などの幅広い製品が値上がりし、世界的にインフレ圧力が強まることで、世界経済の停滞とインフレが併存するスタグフレーションが引き起こされる可能性が懸念されています。ロシアは、世界の原油生産量の12%強、天然ガス生産量の17%弱(2020年時点)を占めており、石油開発の投資が不足していることなどを背景に、世界で石油の増産余地は大きくないことから、ロシア生産分を埋め合わせることは難しいと言われています。

なお9日には、石油輸出国機構(OPEC)内で増産の声が上がったことなどを背景に、原油価格が大幅に下落し、インフレへの警戒感はひとまず和らぎました。引き続きOPECでの増産についての議論やロシアとウクライナの停戦協議の動向が注目されます。

【図表】[左図]原油価格の推移、[右図]ロシアの輸出品目内訳と輸出相手国比率
  • 上記は過去のものであり、将来を約束するものではありません。