環境面のほか、エネルギー安全保障面でも注目される水素
近年、世界中で気候変動問題に対する関心が高まっており、CO2(二酸化炭素)など温室効果ガスの排出量を削減するための様々な取組みが進められています。こうした中、CO2を排出しないクリーンなエネルギー源として、水素への注目が高まっており、様々な分野での活用が見込まれています。

また、水素は、電気分解によって水から取り出すことが可能なほか、石油・天然ガスなどの化石燃料、エタノールや廃プラスチックなど、様々な資源をもとに作り出せるという特徴を有しています。こうしたことから、水素は、エネルギーの調達先の多角化や、エネルギー自給率の向上などにも役立つと考えられており、環境面だけでなく、エネルギー安全保障の面でも大きな期待が寄せられています。

ウクライナ情勢の緊迫化により更なる加速が期待される、水素活用に向けた取組み
エネルギー価格は、2020年春のコロナ・ショック時に原油価格を中心に大きく下落したものの、その後は、主要国・地域での大規模な金融・財政政策の実施や、新型コロナウイルス向けワクチンの普及が進んだことなどから、景気回復期待が高まり、大幅に上昇しました。さらに、2022年2月には、ロシアによるウクライナ侵攻がはじまり、主要国・地域でロシアからのエネルギー輸入を禁止・制限する動きが拡がったことから、需給のひっ迫に対する懸念が高まり、エネルギー価格は一段と上昇しました。こうしたエネルギー価格の上昇は、資源輸出国には恩恵となる一方、資源輸入国にとっては輸入コストの上昇など、経済環境に悪影響を及ぼす恐れがあります。

エネルギー価格の高騰や、豊富な天然資源を有するロシアからの輸入が困難となったことなどを背景に、多くの国・地域でエネルギー安全保障の問題が浮き彫りになりました。特に欧州の一部の国では、エネルギー輸入におけるロシアへの依存度が高いことから、代替エネルギーの調達が急務となっています。EU(欧州連合)は、ロシアへのエネルギー依存度を低下させるため、省エネの徹底や、再生可能エネルギー・水素へのエネルギー源の置き換えを急ぐ方針を示したほか、米国と欧州委員会は「エネルギータスクフォース」を発足させ、水素を含むクリーンエネルギーの普及促進に向け、関連インフラの構築を進めることを表明しました。また日本は、従来から一次エネルギー自給率が低く、安定的なエネルギー調達のための体制・仕組み作りが課題と言われており、政府もこうした取組みを積極化させる姿勢を示しています。

このように、ウクライナ情勢の緊迫化を機に、エネルギーを巡る様々な動きが活発化しています。世界的なエネルギー安全保障強化の流れが、今後の水素の活用拡大に向けた施策の推進につながることが期待されます。

【図表】[左図]原油および天然ガス価格の推移、[右図]主要国の一次エネルギー自給率*の推移
  • 上記は過去のものであり、将来を約束するものではありません。