利上げ幅を拡大も、更なる拡大には慎重姿勢
米FRB(連邦準備制度理事会)は、5月3・4日に開催したFOMC(連邦公開市場委員会)で、追加利上げを決定し、利上げ幅を0.5ポイントと、ITバブルで景気が過熱していた2000年5月以来の大幅なものとしたほか、保有資産を縮小するQT(量的引き締め)の6月開始も決めました。こうした決定が概ね市場予想通りだっただけでなく、パウエル議長が会見で、0.75ポイントの利上げは積極的に検討しないと述べたほか、景気の軟着陸に自信を示したこともあり、4日の米国市場では、国債利回りが低下し、株式相場は上昇しました。ただし、5日には、インフレの抑制に向け、FRBがより積極的な利上げを迫られるとの見方が拡がり、国債利回りが上昇したほか、株価は大幅反落となりました。

高インフレの抑制に向け、積極利上げを継続へ
FRBは、今回の声明に「インフレのリスクを非常に注視している」と記すなど、物価目標の2%を大きく上回る高インフレへの警戒を強めています。パウエル議長も、利上げ幅の更なる拡大には慎重な姿勢を見せたものの、高インフレの抑制に向け迅速に行動するとして、向こう数回の会合でも0.5ポイントの追加利上げを検討すると述べ、積極利上げの継続を示唆しました。

なお、インフレ率については、ウクライナ危機や中国のゼロコロナ政策の影響といった不透明要因があるものの、約40年ぶりの高水準となった3月あたりがピークとの見方も拡がっています。ただし、米国の労働市場のひっ迫と急速な賃金上昇が続けば、高インフレが想定以上に長引く可能性もあります。

景気軟着陸に向け、柔軟な舵取りが期待される
年内のFOMCは、6月、7月、9月、11月、12月の5回です。各会合で0.5ポイントの追加利上げが決まると仮定すると、政策金利は9月には2.25~2.50%と、中立水準に達することになります。

また、QTについては、原則として、保有する国債などを市場で売却するのではなく、償還期限を迎えた債券の再投資を見送ることで資産を縮小させるとしています。そのペースは、6~8月は毎月475億米ドルにとどまるものの、9月以降は最大で月950億米ドルと、前回、資産縮小を行なった2017~19年のほぼ倍のペースとなります。なお、約9兆米ドルへ膨れ上がった資産をどこまで縮小するのかは現時点で明示されていませんが、QTによっても、金利に上昇圧力がかかることになります。

利上げとQTとの二重の引き締めとなれば、市場への影響も大きくなるとみられ、金融引き締めの行き過ぎによって、米景気が後退するのではとの懸念も聞かれます。それだけに、インフレ抑制に向けて険しいファイティングポーズをとらざるを得ないFRBも、今後のFOMCにおいては、その都度、物価や労働市場などの経済状況はもちろんのこと、ウクライナ情勢などの不確実性も踏まえた上で、景気を無事に軟着陸させるべく、慎重かつ柔軟な舵取りを行なっていくと期待されます。

【図表】[左図]米国の物価上昇率と政策金利の推移、[右図]米労働市場の主要指標の推移
  • 上記は過去のものであり、将来を約束するものではありません。