ECB総裁、「9月に脱マイナス金利の公算高い」
ECB(欧州中央銀行)のラガルド総裁は5月23日に公表したブログで、金融政策の正常化は慎重に行なわれるべきと改めて表明しました。そして、7月21日の政策理事会で2011年以来となる利上げを決定し、その次の9月8日の政策理事会での追加利上げにより、主要政策金利の中銀預金金利がマイナス圏を脱する公算が高いとの見通しを示しました。これを受け、ユーロ圏では先週、利上げペースは緩やかになるとの見方が強まり、長期金利(独10年物国債利回り)の上昇が一服したほか、株価(ユーロ・ストックス指数)は上昇しました。ユーロは、対米ドル、対円で上昇しました。

より積極的な利上げを推す声も
ECBは、コロナ禍対応の資産買入策(PEPP)を3月末で終了するなど、超緩和的な金融政策の正常化に向けて既に動き出しており、従来からの資産買入策(APP)を7-9月期中に終了させた後、利上げに移るというガイダンスを掲げています。ラガルド総裁は今回、APPが7月初めに終わるとして、7月と9月の政策理事会で0.25ポイントずつの利上げを決定し、現在▲0.5%の中銀預金金利をゼロ%に引き上げることを示唆したとされています。

なお、インフレ率については、米国では3月に既にピークをつけたとの見方が拡がっているものの、ユーロ圏ではロシアによるウクライナ侵攻とそれに伴なう欧米諸国による対ロ制裁の影響などもあり、ピークアウトはまだこれからとみられています。本日発表されるユーロ圏の5月の消費者物価指数速報の市場予想は前年同月比+7.8%と、4月の+7.4%を上回り、統計で遡れる1997年以降の最高を更新する見通しです。

こうした中、ユーロ圏各国の中央銀行総裁の中には、0.5ポイント幅の利上げを支持する声もあります。しかし、ラガルド総裁が今回示した見通しからは、高インフレへの対応だけでなく、ペースが鈍いユーロ圏の景気回復にも配慮し、利上げを慎重に行ないたいとの意向が強く感じられます。

今後のインフレ動向次第では、利上げ幅拡大も
EU(欧州連合)は、ロシア産石炭の禁輸に続き、同国産の石油についても、年内に90%以上を禁輸とすることで昨日遅くに原則合意しました。これに伴ない、代替調達先の確保状況などによっては、エネルギー価格が一段と上振れし、ユーロ圏の物価をさらに押し上げることも考えられます。このように、今後のインフレ動向次第では、利上げ幅が0.5ポイントとなる可能性も考えられます。

こうしたことなどから、ユーロ圏の長期金利には、金融政策面から上昇圧力が働き易い一方、ウクライナ情勢に起因する景気減速懸念が重しとなるため、上昇ペースは抑えられると見込まれます。それでも、ユーロ圏と日本の金融政策の方向性の違いなどを踏まえると、為替の面では、ユーロ高・円安となる可能性が高いと考えられます。

【図表】[左図]ユーロ圏のインフレ率と政策金利の推移、[右図]ユーロ圏の為替、株価、長期金利の推移
  • 信頼できると判断したデータをもとに日興アセットマネジメントが作成
  • 上記は過去のものであり、将来を約束するものではありません。