トルコ・リラは年初来安値を更新中
高インフレに見舞われている多くの国で金融引き締めが行なわれている中、景気刺激を優先し、緩和的な金融政策を続けているトルコでは、5月以降、通貨リラが対米ドルで下落基調となり、足元では1米ドル=16.4リラ台と、年初来安値を更新中で、対円でも1リラ=7.9円台となっています。

ロシアのウクライナ侵攻もリラ安の要因に
リラ軟調の主な背景として、高金利こそインフレの原因だと主張するエルドアン大統領からの圧力に押され、中央銀行が利上げを見送るなど、高インフレ下でも緩和的な金融政策を続けていることが挙げられます。政策金利から消費者物価の上昇率を引いた実質的な金利の水準は、足元で実に▲60%近くとなっています。

なお、昨年12月下旬、リラが急落し、史上最安値を更新すると、通貨防衛に向け、実質的な為替介入が行なわれただけでなく、政府が、個人のリラ建て定期預金の価値を外貨換算ベースで保証する預金保護策を導入しました。これを受け、リラから外貨への資金流出が止まるとの見方が拡がると、リラは一時、急反発したものの、安定を取り戻すまでには至りませんでした。

また、今年2月下旬に始まったロシアによるウクライナ侵攻は、トルコの主要産業の1つであり、両国への依存度が高い観光業にとっての大きな悪材料です。さらに、同侵攻やそれに伴なう欧米の対ロ制裁は、トルコの主要輸出先である欧州の景気下押し要因であることから、ウクライナ情勢は、リラにとっての新たな懸念材料となっています。

そして、エネルギーを輸入に頼るトルコでは、通貨安やエネルギー価格の高騰は、あらゆる物価の上昇につながることになります。足元では、生産者物価指数の伸びが前年同月比132%に及んでおり、消費者物価が目先、一段と上昇する可能性があります。また、リラ安や欧州での経済活動正常化の動きなどからトルコの輸出は堅調ながら、エネルギー価格の高騰などを背景に貿易赤字や経常赤字が続く見通しとなっていることもあり、リラに売り圧力がかかり易い状況が続くとみられます。

選挙を控えての政治面での動きにも要注目
なお、トルコでは、2023年6月までに大統領選挙と議会選挙が行なわれる予定です。こうした中、インフレや通貨安などで国民からの支持が低下したエルドアン大統領は、昨年12月に前述の預金保護策を導入した際、インフレへの対応として、最低賃金の50%引き上げを発表しました。また、足元では、ロシアとウクライナの仲介役を果たそうとしてます。一方、野党側では、今年2月末、6党が、強大な大統領の権限を縮小し、以前の議会制に戻す、新たな憲法案の大枠で合意したほか、大統領・議会選挙で共闘することや、中央銀行の独立性を尊重することでも一致しています。このように、今後、選挙を視野に入れての政治面での動きが活発化するとみられ、注目されます。

【図表】[左図]トルコ・リラの推移、[右図]トルコの物価および政策金利の推移
  • 信頼できると判断したデータをもとに日興アセットマネジメントが作成
  • 上記は過去のものであり、将来を約束するものではありません。