原油価格の上昇トレンドは一服
足元で、原油価格はやや軟調となっており、WTI原油先物は、1バレル120米ドル台だった6月上旬から上昇トレンドが一服しています。
その背景には、高インフレへの対応で拡がる世界各国での利上げなどを受けた景気後退懸念があります。6月には、FRB(米連邦準備制度理事会)議長が議会での証言で、景気の軟着陸はより難しくなっているとして、景気後退もあり得るとの見解を示したことが市場の警戒感を強めました。さらに、5月の個人消費の伸び鈍化が明らかになるなど、景気の減速を示す指標が相次いでおり、懸念が強まっています。
OPECプラスは増産で合意も供給不安続く
一方で、原油の供給不安は払しょくされておらず、原油の下値を支えているとみられます。石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非加盟の主要産油国で構成される「OPECプラス」は、6月初の会合において、原油高などで世界的なインフレ懸念が強まるなか、一段の増産を迫る米国の要請に応じ、原油の追加増産で合意し、増産幅を日量64万8千バレルと、従来の43万2千バレルから拡大しました。その後、月末の会合において8月も現行の緩やかな増産ペースを維持すると決定しました。
しかし、この増産ではウクライナ侵攻による制裁で落ち込んだロシアの生産減を補うには不十分だとみられています。設備投資不足などにより、アフリカでは生産目標割れが続き、5月のOPECプラス全体の生産量は目標を7%下回りました。さらに足元で、リビアの国営石油会社が、政情不安による複数の国内施設からの積み出し停止を認める不可抗力条項を発動したと報じられていることなどから、増産が思うように進むかは不透明とみられます。サウジアラビアなどには増産余力があるものの、ロシアを含めた枠組みの維持を重視しており、穴埋めに動いていない状況です。
7月中旬には米バイデン大統領が湾岸のアラブ諸国で構成する湾岸協力会議首脳会議に出席し、各国に原油の増産を求める意向を示しており、動向が注目されます。
中国で需要が高まる見通し
中国ではロックダウンが解除されたことに加え、景気支援策が発表されたことなどから、景気回復期待が高まっています。6月に国際エネルギー機関(IEA)が発表した世界の石油需要見通しでは、22年はゼロコロナ政策で抑えられてきた中国で需要が戻り、先進国の需要鈍化を相殺するとしています。また、23年は中国の需要回復が伸びをけん引し、石油需要は新型コロナウイルス感染拡大前を上回り、過去最高になると予想されています。そのため、今後、経済制裁によりロシアの産油量が大きく減少した場合には、供給不足が一段と意識される可能性があります。
- 上記は過去のものであり、将来を約束するものではありません。
- (EIA(米エネルギー情報局)など信頼できると判断したデータをもとに日興アセットマネジメントが作成)