大幅利上げで8年ぶりにマイナス金利を解除
ECB(欧州中央銀行)は、2011年以来となる利上げに加え、市場分断化防止措置、つまり、ユーロ圏内での国債利回りの格差拡大の防止に向けた新たな債券買入れ措置「TPI(伝達保護措置)」の導入を7月21日の政策理事会で決定しました。そして、主要政策金利の1つである中銀預金金利は▲0.5%から0.0%へ引き上げとなり、2014年に導入されたマイナス金利が終わることとなりました。

なお、2日前の19日に、「0.5ポイントの利上げを検討」と報じられたこともあり、21日の市場の反応は限定的で、国債利回りは、ユーロ圏中核国でやや低下した一方、公的債務が膨らむ南欧諸国ではやや上昇と、マチマチでした。ただし、この日、ドラギ首相が辞任したイタリアでは、政治の先行き不透明感などから、上昇幅が大きくなりました。

インフレ悪化とTPI導入で大幅利上げを決断
ECBは6月の政策理事会の声明で、7月の利上げ幅を0.25ポイントと示唆していましたが、実際にはその倍と、2000年以来の大幅利上げとなりました。この背景はインフレの悪化とTPIの導入です。

インフレについては、より多くの分野に拡がりつつあることや、ユーロ安によって拍車がかかっている状況です。また、TPIについては、導入決定によって金融政策の効果的な伝達が可能になる、つまり、多額の債務を抱える南欧諸国などでの金利上昇リスクが抑制されるとECBは考えています。

なお、今後の利上げについてのガイダンスはなく、データ次第とされました。また、ラガルドECB総裁は会見で、今回、利上げを加速させたものの、最終的に目標とする金利水準を変えたわけではないと説明し、中立水準(1~2%と想定されている模様)へと漸進的に引き上げると述べました。

イタリアの総選挙が波乱要因となる可能性も
TPIについては、不当で無秩序な市場の動きによって加盟国の国債が売られる場合、財政・経済面で一定の要件を満たすことを条件に、ECB理事会の裁量で、残存期間1年~10年の公債を買い入れるとしています。そして、買入規模に事前の制約が無いほか、必要に応じて民間債券の購入も検討可能とされています。また、コロナ禍対応の資産買入策PEPPについては、新規買入れは今年3月で終了したものの、保有債券の償還に伴なう再投資は2024年末まで続くことになっています。このため、加盟国の国債が不当に売られるような場合、PEPPの再投資に柔軟性を持たせることでまずは対応し、TPIの活用はその後の手段とされています。

なお、イタリアでは9月25日に総選挙が行なわれることとなりました。最近の世論調査では極右政党が優勢で、同党を中心とした右派政党による連立が組まれる公算が高いとされています。右派連立政権の下で、ばら撒きなどの極端な政策が採られる場合、ECB理事会がTPIの活用を決断する妨げとなる可能性も考えられるだけに、同国での総選挙や政局の行方が注目されます。

【図表】[左図]ユーロ圏のインフレ率と政策金利の推移、[右図]ユーロ圏の為替、株価、長期金利の推移
  • 信頼できると判断したデータをもとに日興アセットマネジメントが作成
  • 上記は過去のものであり、将来を約束するものではありません。