2四半期連続マイナス成長も、労働市場はひっ迫
米国では、高インフレに対応してFRB(連邦準備制度理事会)が大幅利上げを進めていることなどから、景気後退が懸念されるようになっています。
こうした中、7月末に発表された2022年4-6月期GDPは、2四半期連続のマイナス成長となりました。一方、8月5日に発表された7月の雇用統計は、労働市場のひっ迫状況が続いていることを示す力強い内容となり、同国経済がいまだ景気後退局面にはないことを示唆しました。
マイナス成長の最大の要因は在庫投資の減少
2022年4-6月期GDP速報値の実質成長率は前期比年率▲0.9%でした。マイナス成長の最大の要因は、自動車販売を含む小売業での在庫投資の減少です。また、利上げを背景に、住宅投資が大きく減少したほか、設備投資も減少に転じました。
一方、GDPの約7割を占める個人消費は、伸びが鈍化傾向にあるものの、前期比年率+1.0%と底堅い動きとなり、景気を下支えしました。個人消費を分野別に見ると、高インフレの影響などから、モノの消費の減少が加速した一方、経済活動再開の進展などに伴ない、旅行・娯楽等のサービス分野での消費は伸び、モノからサービスへの消費シフトが鮮明になりました。
なお、国際的には、2四半期連続でマイナス成長になると「テクニカル・リセッション」と呼ばれ、一般に景気後退とみなされます。ただし、米国の場合、景気についての公式判断を下すのは民間非営利機関のNBER(全米経済研究所)で、様々な経済指標、中でも雇用情勢を重視して、景気の「山」や「谷」などを認定します。
労働市場のひっ迫が賃金インフレを招く恐れも
2022年7月の雇用統計では、非農業部門雇用者数が前月比+52.8万人と、市場予想の倍以上の増加となり、総雇用者数はコロナ禍前の2020年2月の水準を上回るに至りました。また、失業率についても、約半世紀ぶりの低水準だった2020年1、2月に並ぶ3.5%に改善しました。そして、平均時給は前年同月比+5.2%と、2022年に入って以降、5%を上回る高い伸びが続いています。
FRBは、こうした雇用統計が示唆する労働市場のひっ迫を理由に、景気は後退していないとの見方をしているだけでなく、そうしたひっ迫状況が続けば、賃金インフレを通じて、インフレがより持続的になる可能性があるとして、警戒しています。
前述のとおり、個人消費がモノからサービスへ移行していることに加え、足元では商品市況の上昇に一服感が見られることもあり、モノの価格上昇については今後、弱まる可能性が高まっているようです。ただし、サービスの価格については、賃金上昇の影響を受け易いため、価格上昇が勢いを増す恐れがあります。このため、FRBは、物価動向はもちろんのこと、労働市場のひっ迫状況にも目を光らせながら、今後の金融政策のかじ取りを進めていくとみられます。
- 上記は過去のものであり、将来を約束するものではありません。