8ヵ月ぶりの利下げでトルコ・リラが下落
トルコ中央銀行は8月18日、政策金利の1週間物レポ金利を1ポイント引き下げ、13%とすることを金融政策委員会で決定しました。同国ではインフレ昂進が続いており、政策金利は据え置きと市場で想定されていました。そのため、決定を受けてトルコ・リラが売られ、対米ドルで一時約1%下落し、1米ドル=18.1リラ台と、年初来安値を更新、対円でも一時1リラ=7.4円台に下落しました。
インフレ昂進に拍車がかかるトルコ
トルコでは、通貨安に加え、ロシアによるウクライナ侵攻に伴なうエネルギーや穀物の価格高止まり、さらに、物価高騰下で資産防衛に走る国内富裕層による不動産投資の影響で不動産価格が急伸し、これが家賃の大幅な上昇につながっていることなどもあり、世界的に見ても高水準のインフレに見舞われています。8月3日に発表された7月の消費者物価指数は前年同月比+79.60%と、1998年9月以来の高水準となりました。なお、民間の経済学者らでつくる調査機関では、同月のインフレ率を+175.6%と試算するなど、インフレの実態はより厳しいとする見方もあります。
こうした中でも、高金利こそインフレの原因だと主張するエルドアン大統領からの圧力に押され、トルコ中央銀行は今年、政策金利を据え置いてきました。その一方で、リラ売り圧力への対応として、実質的な為替介入に加え、昨年12月には政府が、個人のリラ建て定期預金の価値を外貨換算ベースで保証する預金保護策を導入しました。さらに、今年6月には、銀行規制当局が、米ドルやユーロを大量に保有している企業に対するリラ建て新規融資を禁じ、実質的に外貨保有を制限しました。これらを受け、リラは一時、反発したものの、じり安傾向を辿ってきました。
そうした状況にもかかわらず、トルコ中央銀行は今回、7-9月期の景気失速を示唆する先行指標が見られるようになったとし、鉱工業生産の成長と雇用の増加を維持するために利下げを決定したと説明しています。しかし、実際には、大統領からの圧力が働いた可能性が高いとみられます。
選挙を控えての動きに加え、選挙後にも要注目
トルコでは、2023年6月までに大統領選挙と議会選挙が行なわれる予定です。ところが、エルドアン大統領と与党AKP(公正発展党)はインフレや通貨安などで国民からの支持が低下しており、その挽回を狙って、今後も中央銀行に利下げ圧力をかける可能性が考えられます。
一方で、高インフレ下での利下げという、世界の中央銀行の常識と相容れない政策をいつまでも続けることは不可能であり、いずれ転機が来るとの見方もあります。現在、トルコ・リラの売買は国内資金が中心で、海外投資家はほぼ不在の状況とみられますが、選挙後など、政治からの圧力が低下(解消)する場合などに、トルコ中央銀行が利上げに姿勢を転じれば、海外投資家の注目を再度、集めることも考えられます。
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