議長発言により、来年の米利下げ観測が後退
米国では8月26日、FRB(連邦準備制度理事会)のパウエル議長がジャクソンホールで講演し、インフレ抑制まで必要な政策をやり続けるとして、金融引き締め姿勢をしばらく維持する可能性が高いことを示唆しました。米国ではインフレ率がピークをつけた可能性もあるとして、来年の利下げ観測が拡がりつつあったものの、議長発言を受けてそれが後退すると、29日にかけて国債利回りの上昇と株安が続いたほか、円売り・米ドル買いの動きとなり、円相場は一時1米ドル=139円と、約1ヵ月ぶりの水準に下落しました。

足元の主な円安要因は日米金利差の拡大
左下のグラフに見られる通り、外国為替市場では、米国で利上げが始まった今年3月以降、円相場(対米ドル)が日米金利差の動きに概ね沿って推移する展開となっています。

今回の議長発言は、株式市場で高まりつつあった、来年の利下げ観測をけん制する狙いだったとみられ、政策金利を従来の想定より高い水準に引き上げることまで示唆したものではないと考えられます。それでも、当面は追加利上げが想定されるほか、利上げサイクルが終わった後も、政策金利はしばらく維持され、利下げに至るまでには時間を要することになりそうです。一方、日本では、日銀が大規模金融緩和を継続する見通しであることから、円安・米ドル高となり易い環境が続くと考えられます。

今後は日本の貿易収支の動向にも要注目
また、日本の貿易収支に注目すると、右下のグラフが示す通り、2010年代前半や足元のように、同収支が縮小(悪化)傾向となったり、赤字で推移する際にも、円安・米ドル高となっています。

足元、日本の貿易収支はエネルギー価格の高騰を主な背景として赤字基調となっていますが、2010年代前半も同様でした。さらに、12年12月に安倍政権が誕生、13年3月には黒田日銀総裁が就任し、「アベノミクス」の下で大規模金融緩和が繰り広げられたこともあり、円安が進みました。

なお、円安が輸出の拡大を後押しし、貿易収支の改善を促すとの見方もあるものの、企業による海外現地生産が広く普及した昨今では、円安の効果は大きく低下したとみられています。実際に、2010年代前半には、円安が進んでも、輸出拡大や貿易収支の改善にはつながりませんでした。

今後については、ロシアによるウクライナ侵攻が長引くような場合、エネルギー価格の高止まりが続く可能性があります。一方、欧米の景気については、利上げを主な背景として鈍化するとの見方が拡がっており、日本の貿易収支が改善せず、赤字基調が続く可能性も考えられます。

外国為替相場は、各国間の金利差や貿易収支に加え、経常収支、景気・政治の状況、地政学リスクなど、様々な要因を反映して決まるとされていますが、その時々の市場の注目ポイントに大きく影響されるという点も押さえておくべきでしょう。

【図表】[左図]日米金利差と円相場の推移、[右図]日本の貿易収支と円相場の推移
  • 財務省などの信頼できると判断したデータをもとに日興アセットマネジメントが作成
  • 上記は過去のものであり、将来を約束するものではありません。