ここ数年で急速に拡大した暗号資産業界は、足元で大きな混乱に見舞われています。代表的な暗号資産であるビットコインの価格は、2021年末以降、世界的な金融引き締めの影響などにより大きく下げており、今月に入り、一時15,000米ドル台と約2年振りの安値をつけました。

足元の急落は個別企業のガバナンスの問題に起因
足元の暗号資産市場の急落は、暗号資産交換業大手FTXトレーディングが資金不足に陥り、経営破綻したことが背景にあります。11月2日、投資事業を行なう同社関連企業アラメダ・リサーチが有する資産の多くが、FTXトレーディングによって発行されたトークン(電子証票)で占められているとのリーク記事が公表されました。また、同社の財務健全性に疑問を持った競合大手バイナンスのCEOが「自社で保有するFTXトレーディング発行のトークンを売却する」と表明したことを受け、FTXトレーディングの顧客が資金の引き出しに殺到しました。資金繰りに窮した同社は、バイナンスなどに支援を求めたものの、これが破談となり、11月11日に破産法の適用を申請するに至りました。その後、同社はハッキング被害を受け、数百億円規模の顧客資金が不正に引き出される事態となりました。

一連の騒動は、暗号資産業界にとって大きな打撃となったものの、暗号資産の仕組みそのものに問題が生じた訳ではなく、あくまで個別企業のガバナンス・内部統制に起因する問題であると言えます。暗号資産は、取引データの塊(ブロック)をチェーンのように連結して記録するブロックチェーン技術を基盤としており、同技術は、データの改ざんが極めて困難といったメリットを有しています。そのため、暗号資産を取り扱う企業の不祥事が起きたにもかかわらず、暗号資産のシステムは問題なく稼働し続けています。当面の間、FTXトレーディング経営破綻の影響は暗号資産市場の重石となる可能性はあるものの、破壊的なイノベーションの一つである暗号資産そのものが持つポテンシャルの大きさには、変化は無いと考えられます。

規制強化による業界の健全性向上が見込まれる
FTXトレーディングの経営破綻に伴なう混乱を受け、今後、暗号資産関連の規制が強まるとみられ、既に米国では議会や当局が規制強化に向けて動き始めています。

過去、日本では、2014年のマウント・ゴックスの経営破綻や、2018年に起きたコインチェックのハッキング事件などを機に、金融庁による交換業者の登録制の導入や、顧客資産の分別管理といった投資家保護のための仕組み作りが進められ、今後、こうした取り組みが世界中で拡がっていくと考えられます。規制強化が進むことで、ガバナンス意識に欠ける企業が淘汰され、業界全体の健全性が高まるとともに、コンプライアンスを遵守し、信頼性の高い企業にとっては、大きな成長のチャンスとなる可能性もあり、暗号資産業界の今後の動向が注目されます。

【図表】[左図]ビットコインの価格推移、[右図]ブロックチェーン技術の特徴・メリット
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