ニューヨーク金先物は、2020年8月に史上最高値をつけた後、ロシアによるウクライナ侵攻に伴ない、22年3月に戻り高値をつけました。その後、米ドル高や米長期金利の上昇が続いたことなどから調整し、11月初めには1トロイオンス=1,630米ドルと、20年4月以来の安値を記録しました。しかし、米ドルや米長期金利が軟調気味に推移する足元では持ち直し、12月16日には1,800米ドルで引けました。

米ドルおよび米長期金利の動向の影響
ニューヨーク金先物が最高値をつけた20年8月は、米10年国債利回りが0.50%台と、記録的な低水準となった時期にあたります。その後、同利回りが上昇に転じたのに続き、21年初以降、米ドルも上昇基調となり、金を取り巻く環境は、地政学リスクやコロナ禍などを除くと、向かい風となっていました。ところが、米ドルと米10年国債利回りが、22年秋に相次いで高値をつけた後、下落(低下)に転じたことを受け、足元で金価格は持ち直しています。

金ETFの金現物保有量の減少ペースは鈍化
為替や金利など、市場環境の変化に加え、需給面でも変化が見られます。右下のグラフを確認すると、20年夏や22年春に金価格が高騰した際、金ETF(上場投資信託)が買われ、同ETFによる金現物の保有量が大きく膨らんだことが分かります。一方、金ETFが売られ、金現物の保有量が減少した際には、金価格の調整につながりました。22年の場合、9月にかけて金ETFの金現物保有量の減少が加速し、金価格は下落したものの、減少ペースが鈍化すると、金価格は持ち直しに転じました。

欧米で景気後退懸念が強まる一方、中国では景気てこ入れ、消費拡大が期待される
欧米の主要中央銀行は今月、相次いで利上げ幅を縮小したものの、インフレ率が依然として高水準であることから、利上げの継続意向を示しています。一方、市場では、これまでの積極的な利上げの累積的な効果が今後、物価抑制にとどまらず、景気を冷やしかねないとして、景気後退が懸念されています。こうしたことから、今後、利上げが継続されても、長期金利の上昇は限定的となるか、景気後退懸念の強まりからむしろ低下することも考えられます。また、投資家のリスク回避姿勢が強まれば、金への投資需要が高まる可能性もあります。なお、米国の場合、23年後半にも政策金利が引き下げられると、市場では想定されています。

一方、ゼロ・コロナ政策の下での厳しい防疫措置がようやく緩和され始めた中国では、足元で新規感染が拡がっており、経済活動の再開・回復にはしばらく時間を要する模様です。ただし、中国当局は、23年には景気てこ入れに焦点を絞る方針を打ち出しています。同国は、宝飾品としての金の需要シェアで世界トップを占めるだけに、経済活動の回復進展や景気てこ入れに伴ない、消費が回復・拡大すれば、金価格にプラスに働くと期待されます。

また、これらの見通しとは別に、予期せぬ出来事で金融市場が大きく変動するという事態に注意を払う必要があります。そうした市場変動と上手に付き合うために、普段から金を運用資産の一角に加え、リスク低減を図ってみてはいかがでしょうか。

【図表】[左図]主要資産の価格と米ドルおよび米長期金利の推移、[右図]金ETFの金保有量と金現物価格の推移
  • 上記は過去のものであり、将来を約束するものではありません。
  • 信頼できると判断したデータをもとに日興アセットマネジメントが作成