2月7日に発表された毎月勤労統計調査(速報)によると、物価の影響を考慮した実質賃金は2022年に前年比▲0.9%と、2年ぶりのマイナスとなりました。経済活動が徐々に再開に向かったことなどから、名目賃金は+2.1%と、1991年以来31年ぶりの高い伸びとなったものの、+3.0%となった物価上昇率には及びませんでした。
ただし、同年12月単月では、ボーナスなどの特別に支払われた給与が前年同月比+7.6%となったことを主な背景に、名目賃金が+4.8%と、1997年1月以来、25年11ヵ月ぶりの高い伸びとなったため、実質賃金は+0.1%と、9ヵ月ぶりにプラスとなりました(下の左グラフ参照)。
拡がる賃上げ機運、春闘では5%程度を要求
このように、一時的な支給の増加を背景に、実質賃金は昨年12月に増加したものの、今後は再び減少に転じる見通しです。ただし、インフレが続く中、企業トップから賃上げに前向きな発言が相次ぐなど、大手中心に賃上げ機運が拡がっています。
今年の春闘(春季労使交渉)について、岸田首相は経済3団体の新年祝賀会で、インフレ率を超える賃上げを要請しました。また、労働組合の全国中央組織である「連合*」は、他国に比べた賃金上昇率の鈍さや物価高を踏まえ、今年の賃上げ要求を5%程度と、28年ぶりの高水準としました。これに対し、民間予測の平均では、春闘での賃上げ率は2.85%にとどまる見通しながら、それでも実現すれば、1997年の2.90%以来の高水準となります(下の右グラフ参照)。
日本労働組合総連合会
持続的な賃金上昇のカギを握る労働移動
なお、インフレなどに伴なうコスト増を背景に価格転嫁を進める大手企業に対し、中小企業では価格転嫁が難しいばかりか、インフレのしわ寄せを受け易いことなどから、賃上げへの制約が大きいと考えられます。このため、中小企業での賃上げ原資の確保に向けた環境作りが必要とされています。
また、日本の賃金水準が海外主要国と比べて低迷していることもあり、持続的な賃金上昇を実現すべく、成長分野への労働移動や労働生産性の向上を促す必要があります。日本の場合、転職や再就職といった労働移動が他の先進国と比べて限定的ですが、これらが活発な国では、成長産業に人が集まり、賃金上昇や労働生産性の向上につながり易いとされています。そこで注目されるのが、リスキリング(学び直し)による、失業者の就業支援や成長産業への労働移動の活性化です。
政府は、構造的な賃金上昇に向けた、人への投資の強化を掲げています。具体的には、5年間で1兆円の支援パッケージを用意し、非正規雇用を正規雇用に転換する企業、転職・副業を受け入れる企業、労働者の訓練を支援する企業への支援を新設・拡充するほか、転職支援に向けてリスキリングから転職までを一気通貫で専門家に相談できる制度を新設する方針となっています。
こうした取り組みなどにより、持続的な賃金上昇→消費拡大→デフレマインドからの脱却、という好循環や生産性の向上などにつながれば、日本経済の好成長を期待できるようになると考えられます。
- 上記は過去のものであり、将来を約束するものではありません。