日銀新総裁候補が金融緩和継続の方針を表明
日銀の黒田総裁の後任として、4月9日から経済学者の植田和男氏が就任する予定です。同氏が現行の大規模な金融緩和策に対してどのようなスタンスを取るのか注目を集めましたが、2月下旬の所信聴取で金融緩和を継続する方針を表明したことから、市場には安心感が拡がりました。その一方で、同氏がYCC(イールドカーブ*・コントロール、長短金利操作)の副作用に言及したことなどもあり、日銀がいずれYCCの修正に踏み切るのではとの見方が強まりました。縦軸に債券の利回り、横軸に残存期間を用いた曲線のこと。残存期間が長いほど利回りは高くなる傾向があることから、形状は右肩上がりになるのが一般的。

YCCは長期金利の押し下げに一定の効果
YCCは、日銀が2016年9月に導入した「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の柱のひとつであり、短期金利を-0.1%、長期金利を0%程度に誘導することで、イールドカーブを適切な水準にコントロールしようとする政策です。YCCの導入には、同年1月のマイナス金利政策によって収益悪化が懸念されていた金融機関への配慮から、イールドカーブをスティープ化(傾きが急になること)させるなどの狙いがありました。

YCCでは、長期金利を0%程度に誘導するために日銀による国債買入れが行なわれています。これには、長期金利を一定程度押し下げる効果があり、2021年3月の日銀による分析では、平均で概ね1%程度の下押し効果が確認されました。

市場の歪みや機能低下を招くという問題点も
一方で、YCCの問題点として、国債市場の歪みや機能低下を招くことなどが指摘されています。2022年には、欧米での金融引き締めの動きなどから、日本の長期金利にも上昇圧力がかかり、日銀による国債の買入れ増加が顕著となりました。こうした流れを受け、長期金利の指標とされる10年物利回りが、より残存期間の短い9年物国債利回りを下回るようになったほか、国債市場の流動性低下などが目立つようになったことから、日銀は、2022年12月、長期金利の許容変動幅を±0.5%程度に拡大するなどの措置を講じました。

足元でYCCの修正観測は後退しつつある
長期金利は銀行の貸出金利や社債の参考指標でもあることから、国債市場の歪みや機能低下は、民間の資金調達などにも影響を及ぼします。YCCの修正を事実上の利上げと見る向きもありますが、むしろ、市場メカニズムを尊重する金融政策運営への回帰や、金融緩和の長期化による副作用への対応とも考えられます。

足元では、欧米での金融不安の台頭を受け、日本の長期金利が低下、YCCの修正観測は後退しつつありますが、今後、植田氏のYCCに関する発言で市場が乱高下する可能性もあることなどから、引き続き、その動向には注視が必要です。

【図表】[左図]イールドカーブの歪み解消が課題に、[右図]日銀は国債発行残高の50%超を保有
  • 日銀や財務省などの信頼できると判断したデータをもとに日興アセットマネジメントが作成
  • 上記は過去のものであり、将来を約束するものではありません。