従来、金融緩和策を採ってきたトルコ中央銀行は6月22日、インフレ抑制に向けて金融引き締めを開始することを金融政策委員会で決定しました。そして、2021年3月以来となる利上げに踏み切り、主要政策金利の1週間物レポ金利を8.5%から15.0%へ引き上げました。ただし、市場では20%への利上げが見込まれていたほか、今後の利上げについて、同中銀が漸進的に進める意向を示したことなどから、トルコの通貨リラは急落し、対米ドルや対円で過去最安値を更新しました。

財務相、中銀総裁の人事を経て、政策路線の変更期待が高まるも、大統領からは微妙な発言
同国では、5月末に再選が決まったエルドアン大統領が6月3日に新内閣を発表し、財務相にシムシェキ氏を任命しました。米投資銀行のストラテジストを務めた経験を有する同氏は、2009~18年に副首相および財務相を務め、金融市場で高く評価された人物です。今回の財務相就任にあたって同氏は、「ルールに基づいた予測可能な経済運営が望ましい繁栄を実現するための鍵だ」と述べ、正統派の経済政策への回帰を示唆しました。そして、政策の移行に際しては、好ましくない影響を避けるべく、徐々に舵をとる意向を示したと報じられました。また、9日には、米銀の共同最高経営責任者を務めた経歴などを持つエルカン氏が、中央銀行総裁に任命されました。両氏の起用を受け、市場では、インフレ対応の利上げに舵が切られるとの期待が高まっていました。

一方、高インフレ下で利下げを実質的に強いるという、異端な政策をこれまで推し進めてきたエルドアン大統領は13日、「財務相が中央銀行とともに迅速に手を打つことを受け入れた。これにより、インフレ率を一桁台に下げる決意を表明した」と述べるなど、政策上の柔軟性を当面は認める可能性を示唆しました。ただし、低金利が低インフレにつながるとの持論は堅持し、金利に関する自身の見解は変わっていないと述べています。同大統領の下で、中央銀行が、利下げから利上げに路線転向した後、利下げ路線に回帰するということを繰り返した過去があるだけに、今回、市場予想並みの利上げが行なわれていた場合でも、利上げ路線の継続を市場が確信するには至らなかったと考えられます。なお、地方選挙が予定されている2024年3月が近づくにつれ、大統領が利下げ圧力をかけるのではないかとみる向きもあります。

信認回復への道のりは長い
同国のインフレ率はピークを過ぎた模様ながら、依然、高水準であり、さらなる利上げが不可欠です。高インフレ以外にも、同国は、巨額の経常赤字や低水準の外貨準備など、経済面での脆弱性が目立つことなどから、リラには今後も売り圧力がかかり易いとみられます。

その一方、さらなる利上げを含む適切な政策対応がとられるなど、リラを取り巻く環境に改善の兆しが確認できるようになれば、市場の評価が変化し始める可能性も否定できません。

【図表】[左図]トルコの物価および政策金利の推移、[右図]トルコ・リラの推移
  • 信頼できると判断したデータをもとに日興アセットマネジメントが作成
  • 上記は過去のものであり、将来を約束するものではありません。