近年、気候変動問題に対する関心は世界的に高まっており、CO2(二酸化炭素)など温室効果ガスの排出量を削減するための様々な取り組みが進められています。こうした中、CO2を排出しないクリーンなエネルギー源として、水素への注目が高まっています。

水素の活用拡大に向けた世界の取り組み
水素の活用拡大に向けた取り組みは、世界で進められています。例えば、シンガポールが2022年10月に打ち出した「国家水素戦略」では、2050年までに発電燃料の最大半分を水素にするとの目標が掲げられているほか、今年1月には、同国エネルギー市場監督庁が、新設・更新するガス火力発電所において、燃料の30%以上で水素を混焼できる設備の設置を義務付ける規制案を関係業界に提示しました。

また米国では、6月に「国家クリーン水素戦略」が発表されました。同戦略では、製造工程でCO2を発生させないクリーンな水素を2050年までに年間5,000万トン製造するなどの目標が掲げられており、水素活用に向けた動きが活発化するとみられています。

こうした取り組みは、単一国のみならず、国際的な枠組みでも進められています。バイデン米大統領の呼びかけによって発足した新経済圏構想「IPEF(インド太平洋経済枠組み)」では、5月に開催された閣僚会合において、水素技術で協力する「域内水素イニシアチブ」を立ち上げることで合意し、水素の製造・運搬などの技術開発やビジネス面での情報共有を活発化させるなど、クリーン経済の構築に向けた取り組みが加速しています。

日本では水素基本戦略を6年ぶりに改訂
日本では6月に、水素の供給増に向けた「水素基本戦略」が6年ぶりに改訂されました。同戦略には、2040年の水素の供給量を現在の6倍(1,200万トン程度)に拡大する目標や、サプライチェーン強化のために今後15年間で官民あわせ15兆円超を投資する計画が盛り込まれています。

また、欧州特許庁(EPO)と国際エネルギー機関(IEA)が水素技術に関する世界各国の特許出願状況をまとめた共同報告書(2023年1月公表)では、日本は2011年~2020年の10年間で全体の出願件数の24%を占め、国別では首位となるなど、水素分野の研究で世界をリードする立場にあると評されています。さらに、企業別の出願件数でも、トヨタ自動車が首位、ホンダが3位となるなど、日本企業が上位に名を連ねています。水素を巡る技術開発などの競争は激化していますが、今後、官民一体となった取り組みが進むことで、水素分野における日本の存在感が更に高まると期待されます。

地球温暖化など環境問題への関心が強まるにつれ、水素や関連ビジネスを行なう企業への注目度も高まると考えられることから、中長期での拡大が期待されるメガトレンドとして、水素に注目してみてはいかがでしょうか。

【図表】[左図]日米の水素戦略の概要、[右図]水素関連の特許出願状況*(2011年~2020年の合計)
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