PBR1倍割れの改善が求められる
今年3月、東京証券取引所(以下、東証)は、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」として、全ての上場企業、特に「PBR(株価純資産倍率)1倍割れ」の企業に対し、現状分析、計画策定・開示、取組みの実行を要請しました。

PBRとは、株価が純資産(株主資本)の何倍であるかを示す指標であり、株価を1株当たり純資産で割って算出します。PBR1倍割れとは、資本コストを上回る資本収益性を達成できていない、あるいは成長性が市場に評価されていない状況と言え、日本では上場企業の半数程度が該当します。これは欧米などと比較しても非常に多い数字であり、理由としては、内部留保の多さや株主還元の少なさのほか、収益力の低さ、資本効率や株価に対する経営者の意識の低さなどが挙げられます。

企業の対応を視野に株価上昇期待が拡がる
PBRを改善するには、大きく2つの方法があります。1つ目は、余剰資金を増配や自社株買いに活用し、純資産を減らすことで、分母の「資本」を圧縮することです。これらは株主への利益還元として投資家から好感されるため、株価上昇の効果も期待できます。2つ目は、効率的な企業経営を通じて中長期的な成長期待を高め、分子の「株価」を引き上げることです。そのためには、製品の価格競争力や付加価値を高めて収益力を向上させたり、研究開発や設備などに資金を投入するなどして、成長の可能性を市場に示すことが重要です。

東証からの要請を受け、4月以降、日本株式市場では、PBR1倍割れの企業がその是正に向けて動くとの思惑が拡がり、海外投資家などの買いを誘いました。

企業の開示は徐々に進みつつある
東証は8月29日に、先般の要請を踏まえた企業の対応状況について、集計結果を公表しました。

これによると、要請を受けて取組みなどを開示したか、もしくは検討中と開示した企業は、プライム市場では31%、スタンダード市場では14%となりました。また、プライム市場におけるPBRや時価総額水準別の対応状況では、PBRが低い企業や時価総額が大きい企業ほど、開示が進展しているという結果になりました。そのほか、PBR1倍割れ企業の改善に向けた取組みとしては、「成長投資」や「株主還元の強化」、「サステナビリティ対応」、「人的資本投資」といった内容が多く挙げられました。

実際の取組みが進めば日本株の強力な追い風に
このように、東証の要請はPBRが低い企業を中心に真摯に受け止められ、徐々に対応が進みつつあることがわかります。開示時期については具体的な期限は定められていないものの、既に一定数の企業が取組みを進展させており、国内外の投資家からも企業の変化について概ね好意的な評価を得ていると東証は述べています。現状ではまだまだ進展の余地が大きい状況ではありますが、今後、順調に開示が増えれば、実際の取組み(資本コストや株価を意識した経営に向けた取組み)の拡大につながることが期待され、日本株式の強力な追い風になり得ると考えられます。

【図表】[左図]上場企業の開示状況、[右図]PBRと時価総額の水準別開示状況(プライム市場)
  • 東証の資料をもとに日興アセットマネジメントが作成
  • 上記は過去のものであり、将来を約束するものではありません。