10月5日、岸田首相が日本労働組合総連合会(連合)の定期大会に出席し、持続的な賃上げの実現をめざす考えをあらためて示しました。自公連立政権下で首相が連合の大会に参加するのは約16年ぶりのことであり、賃上げの実現に対する政府の強い意欲がうかがえます。

実質賃金は依然として減少が続く
2023年の春季労使交渉(春闘)では、基本給の底上げを意味するベースアップ(ベア)と、定期的な昇給を合わせた賃上げ率が3.60%と、30年ぶりの高水準となりました。ただし、名目賃金から物価変動の影響を除いた実質賃金は、前年同月比で17ヵ月連続の減少となっており(2023年8月時点)、依然として物価の上昇に賃金の伸びが追いつかない状況が続いています。

賃上げによる経済の好循環の実現が期待される
一般に、賃金の上昇は、個人消費の拡大や企業業績の向上、ひいては、さらなる賃金の上昇につながるなど、経済の好循環の実現に寄与すると考えられています。賃上げには企業側にも一定のメリットがあり、人手不足が深刻化する中、社員の士気向上、離職率の低下などの効果が期待されます。

なお、2023年の労働経済白書では、全労働者の賃金が1%上昇すると、生産額が約2.2兆円、雇用者報酬が約0.5兆円増加すると試算されています。

賃上げの動向は日本株上昇の持続性にも影響
日本株は、2023年に入って以降、東証のPBR(株価純資産倍率)改革や円安の進行による企業業績の上振れ期待、インバウンド需要の拡大、海外資金の流入などを背景に、上昇基調となっています。

こうした中、今後、賃上げに向けた機運が高まれば、日本株の買い圧力がより強まることが期待されます。なぜなら、賃金の上昇が消費拡大に波及し企業業績が向上すれば、株価の上昇が期待されるほか、企業の株主還元余力の増加などにより、日本株の投資魅力が増すと考えられるからです。また、賃金の上昇により、家計の投資余力の増加も見込まれます。

なお、過去30年間における賃上げ率と日本株の相関係数は0.44と、両者には一定の相関がみられており、賃上げの動向は、日本株に一定程度影響していると考えられます。

連合は2024年春闘の賃上げ目標を5%以上に
連合は、2024年の春闘で「5%以上」の賃上げを求める方針を示しました。2023年の「5%程度」よりも強い表現となったことを踏まえ、今後、目標とする賃上げにつながるのか、注目されます。

【図表】[左図]実質賃金は17ヵ月連続で減少、[右図]賃上げ率と日本株には一定の相関がある
  • 上記は過去のものであり、将来を約束するものではありません。