懸念されている世界の分断化がもたらす影響
米中対立の深まり、ロシアによるウクライナ侵攻など、近年、相次ぐ地政学イベントを受けて、世界の分断化が経済の先行きリスクとして意識されています。

こうした中、IMF(国際通貨基金)は、2023年9月、地政学的緊張の高まりによる国際貿易の分断が世界のGDP(国内総生産)を下押しする可能性に言及し、懸念を示しました。

世界で広まる供給網再構築の動き
世界の分断化により、国際貿易などを介して経済に与える悪影響が警戒される一方で、注目を集めているのが、リショアリング(設備投資の国内回帰)、フレンドショアリング(友好国での設備投資)、ニアショアリング(近隣国への設備投資)といった、供給網再構築の動きです。

例えば、多国籍企業を対象としたIMFの分析によると、過去数年間で地政学リスクが高まる中、決算報告での供給網再構築に関する言及頻度が急速に増加しています。

具体的なエピソードとしては、米アップルが進める、iPhoneのインドでの生産のほか、米玩具メーカーのインド、ベトナムでの投資実行など、生産拠点の分散化といった企業行動が挙げられます。

また、政策面では、2022年にバイデン政権の下、①CHIPSプラス法(米国で半導体関連の投資を行なう企業への資金援助など)、②インフレ抑制法(電気自動車の購入者や再生可能エネルギー製造企業を対象とする税額控除)など、経済安全保障を念頭に入れた国内投資の優遇策が、立て続けに打ち出されたことが挙げられます。

これらの背景の下、足元で米国における製造業関連建築投資が急増しています。

日本でも進む国内回帰、注目される政策支援
日本に目を転じると、製造業関連建築投資に回復がみられます。これは、政府が取りまとめた「2023年版ものづくり白書」にあるように、新型コロナウイルスや円安を受けた国内生産体制強化が主たる要因と考えられます。

ただし、①日本政府が、経済安全保障的観点から、半導体を中心とする供給網の再構築に向けて、国内及び同盟国企業への補助金を含む支援を強化していること、②民間調査で、地政学リスク増大などを国内回帰の理由とする企業が少なくないことなどから、世界の分断化も少なからず、国内設備投資の回復に影響していると推察されます。

地政学的分断がもたらすリスクには引き続き注意が必要ですが、供給網再構築の流れは、設備投資をはじめとして経済・産業に多大な影響を与え、関連需要を促進する可能性があります。今後の経済政策でも、経済安全保障や供給網強化は柱になるとみられており、動向が注目されます。

【図表】[左図]地政学リスクと多国籍企業の供給網再構築への関心、[右図]日米の製造業関連建築投資
  • 上記は過去のものであり、将来を約束するものではありません。