中東情勢の緊迫化から、「有事の金」需要高まる
イスラム組織ハマスとイスラエルの衝突により中東情勢が緊迫化する中、金(スポット価格)が急騰しており、10月27日、節目とされる1トロイオンス=2,000米ドルを突破しました。
金は、その希少性などから、紛争などの有事でも価値が下がりにくい「安全資産」として認識されており、足元では、「有事の金」需要が金相場を押し上げているとみられます。
もっとも、過去1年程度を振り返ると、「有事の金」という、いわば伝統的な市場の反応だけでなく、①実質金利と金価格の逆相関関係の崩れ、②中央銀行による積極的な金購入、も堅調相場の背景にあると考えられます。
金利上昇にもかかわらず堅調な金相場
金は「実物資産」であるため、インフレ局面での価値の目減りを防ぐ効果が期待できる一方、代表的な「安全資産」である国債などとは異なり、金利がつきません。そのため、名目金利がインフレ率を超えて上昇する実質金利上昇局面で金価格は下落する傾向(逆相関関係)があります(左下グラフ)。
しかし、2022年3月に米FRB(連邦準備制度理事会)が利上げを開始して以降、実質金利の急速な上昇にも関わらず、金価格は高値圏を維持しています。つまり、過去の経験則が必ずしも当てはまらない相場展開となっています。
この実質金利上昇に対する金の価格耐性の強まりに関しては、①欧米を中心とするこれまでの利上げを受けた世界景気悪化への警戒感、②ロシアによるウクライナ侵攻や米中対立といった地政学リスクへの根強い懸念、③コロナ禍を契機とする、低インフレから高インフレ環境へのシフトに伴なう「実物資産」需要の高まり、などが要因として挙げられます。
中央銀行も積極的な金購入を継続
また、中央銀行の旺盛な金需要も目を引きます。世界の中央銀行による金の購入額は、2022年に過去最高水準となりました。この傾向は足元でも継続しており、2023年の4-6月期こそ、トルコによる国内需要充足に向けた一時的な金売却が世界全体の数値を押し下げたものの、中国の金準備積み上げなどにより、7-9月期の購入ペースは再加速しました(右下グラフ)。
中央銀行による金需要拡大については、米国が制裁行使などで米ドルの影響力を利用する中、中国やロシアなど新興国の中央銀行が脱米ドル依存を進めているためとの指摘もあります。すなわち、「有事の金」とは異なる性格の地政学的背景が金相場を後押ししているともいえます。
足元の金価格については高値警戒感もあるものの、実質金利と金価格の逆相関関係の崩れ、および、中央銀行による積極的な金購入は、リスク分散手段としての金の魅力がより高まっていることを意味しており、今後の金投資を考えるポイントになると思われます。
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- 上記は過去のものであり、将来を約束するものではありません。