半導体への関心が世界中で高まっています。各国政府は自国の半導体産業に巨額の予算を計上しており、日本でも大規模な政策支援が進められています。こうした中、日本企業が半導体産業の主役になり得る、大きな成長機会が訪れていることをご存知でしょうか?

「後工程」で強みを発揮する日本の製造装置企業
半導体産業のうち、日本企業は製造装置や材料の分野で高い優位性を有しています。半導体の製造工程はシリコンウエハに回路を形成する「前工程」と、ウエハを半導体チップに切り分け、製品に仕上げる「後工程」に分けられます。製造装置の分野では、露光や成膜などの化学反応による加工が中心の前工程に比べ、切断や封止などの機械的な加工プロセスが多い後工程において強みを発揮する日本企業が多く存在します。ところが、市場がより大きいのは前工程であり、製造装置販売額の8割以上を前工程向けが占めていることからもわかるように、これまで後工程への注目度は高くありませんでした。

足元で「後工程」の技術が脚光を浴びつつある
過去50年以上、半導体は「ムーアの法則*」に沿って集積化が進んできました。これまでの技術進化は、回路の線幅を狭めることによって集積度を高める「微細化」が中心であり、その際に主戦場となったのが前工程です。しかし、今や回路の線幅はウイルスの10分の1以下にまで極小化しており、物理的・コスト的な限界が近付きつつあるとされます。 半導体技術の進歩についての経験則で、半導体回路の集積密度は1年半~2年で2倍になるという法則。

こうした中、半導体の構造を立体化させるなどして集積化を更に進める「モア・ムーア」や、微細化以外の方法で高性能化をめざす「モア・ザン・ムーア」といった取組みが活発化しています。中でも注目を集めているのが「チップレット」と呼ばれる、後工程の次世代技術です。これは複数の半導体チップを組み合わせて相互接続し、1つのパッケージに収める技術であり、微細化に頼らず、より低いコストで半導体の性能を向上させ得るとして高い期待が寄せられています。

日本が再び半導体技術開発の最前線に
チップレット技術の成功には、後工程技術の更なる進歩がカギとなります。チップレット技術の開発で先行する半導体製造企業の最大手、TSMC(台)は、21年に初の海外R&D(研究開発)拠点を後工程技術の分野に強い日本に設立し、日本の材料や装置メーカーなどと連携しながら最先端技術の開発を進めています。また、23年には、大手半導体製造企業のサムスン電子(韓)による、日本での後工程試作製造ラインの新設計画が報じられました。こうした動きは、後工程用の製造装置や材料などで高い優位性を持つ日本企業への期待がいかに高いかを示すものと考えられます。

こうした後工程の重要性の高まりに比例して市場の拡大も見込まれており、製造装置販売額に占める後工程向けの比率は10年で倍増するとの予測もあります。2000年代以降、日本企業が微細化技術で世界をリードすることは難しくなりましたが、進化を支える技術の力点が変化したことで、日本は再び半導体技術の最前線となりつつあります。新たな需要から商機を期待できる後工程市場の拡大は、日本の半導体産業全体の成長にもつながる大きな機会として、注目が高まっています。

【図表】[左図]半導体の製造工程、[右図]半導体の先端技術の例