2024年11月の米大統領選挙に向け、トランプ氏が共和党予備選を優位に進める中、「もしトラ」(もしトランプ氏が再選されたら)シナリオが関心を集めています。そこで本稿では、その場合に想定される政策や米国株式への影響を考えてみます。

政策は実体経済にとって好悪マチマチに
「もしトラ」シナリオでの政策を展望すると(左下表)、全ての外国製品に10%、中国製品にはより高率の関税を課すとの同氏の発言からうかがえるように、通商面で保護主義的な動きが強まるとみられます。また、防衛費負担を巡る同盟国への圧力強化や温暖化対策の国際的枠組みであるパリ協定からの離脱などに伴ない、外交・安全保障面や環境・エネルギー面での混乱も警戒されます。

他方で、2025年に失効予定の所得税減税(トランプ政権1期目に導入)の恒久化や、米中堅銀行の経営破綻を受けた銀行規制強化の動きの巻き戻しなどが予想されます。

こうしたことから、「もしトラ」シナリオでは、対外的には保護主義・米国第一主義、対内的には財政拡張・規制緩和となり、実体経済や株式市場への影響という点では、好悪マチマチの内容になりそうです。

リスク認識から来る株価調整は長引かない傾向
続いて「もしトラ」シナリオの米国株式への影響を考えてみます。株価の主な変動要因(上表)として、①企業業績見通し、②金利、③投資家のリスク認識に注目すると、足元で経済の軟着陸(成長維持とインフレ抑制の両立)の確度が高まる中、当面は①の改善と②の低下が株価にプラスに寄与すると見込まれます(右下グラフ【A】)。「もしトラ」で想定される政策が将来的に①に影響を及ぼす可能性はあるものの、前述のように好悪マチマチの内容であることなどから、政策展望を根拠に①が急速に見直される余地は限られそうです。

もっとも、共和党主流派の手を借りた1期目の当初と異なり、2期目はトランプ氏が周囲を忠臣で固めるとの見方がある点には注意を要します。なぜならば、米中対立が先鋭化したトランプ政権1期目の2018年のとき以上に(右下グラフ【B】)、政権内の歯止め役不在が意識され、③の強まりが株価を押し下げる可能性が考えられるからです。

しかし、長期的な傾向をみると(右下グラフ【C】)、株価への寄与の大半は①である一方、③の寄与は小さいことがわかります。

以上を踏まえると、「もしトラ」シナリオに対する投資家のリスク認識の強まりを受けた短期的な株価調整の可能性はあるものの、長期でみれば、経済の軟着陸を背景とする良好な企業業績見通しなどに市場の焦点が移るとみられます。

【図表】[上図]株価の主な変動要因、[左図]トランプ政権復活時に導入の可能性のある政策、[右図]米国株式(S&P500)のリターン寄与分解
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