金価格(現物)は、昨年11月下旬以降、1トロイオンス=2,000米ドルを概ね上回るなど、歴史的高値圏で推移しており、3月4日には、昨年末頃につけたこれまでの最高値を約2ヵ月ぶりに更新しました。本稿では、堅調な金相場の背景と今後のポイントをご紹介します。

利上げによる実質金利の上昇に耐えた金相場
金は実物資産であるため、インフレ局面で需要を集めやすいものの、金利がつかないことから、名目金利がインフレ率を超えて上昇する実質金利の上昇局面で、価格が下落する傾向があります。しかし、2022年3月に米FRB(連邦準備制度理事会)が利上げを開始して以降、実質金利の急速な上昇にもかかわらず、金は大幅な価格調整を免れました(左下グラフ)。その背景としては、①国際情勢の緊迫化を受けた安全資産としての金需要拡大、②中央銀行による積極的な金購入の2つの要因が支えとなったことが考えられます。

そのため、これら2つの要因と米国の金融政策の行方が、金相場の先行きを見通す上でのポイントになると考えます。

世界的に重要な選挙を控え根強い安全資産需要
主要英字紙の記事分析に基づく地政学リスク指数が長期平均を上回る推移となっており(右下グラフ【B】)、近年の国際情勢が歴史的にみて緊迫した状況にあることがわかります。こうした中、今年は6月の欧州議会選挙や11月の米国大統領選挙など世界的に重要な選挙が相次ぐ予定です。欧州での右派台頭や米国での自国第一主義の先鋭化が警戒される中、一連の選挙結果が国際情勢を一層複雑化させるおそれがあるため、金は安全資産として根強い需要を集めそうです。

中央銀行による金購入量は引き続き高水準
2023年の世界の中央銀行による金購入量は1,037トンと、統計開始以来で最高を記録した2022年の1,082トンに次ぐ高水準となりました。(右下グラフ【C】)。中央銀行の金需要拡大については、米国が制裁行使などで米ドルの影響力を利用する中、新興国が脱米ドル依存を進めているためとの指摘があり、実際に中国などで外貨準備として金保有を積み増す動きがみられます。

米国などの民主主義陣営と中国などの権威主義陣営の対立という国際情勢の潮流は、簡単には変わらないとみられ、こうした中央銀行の金購入は継続すると見込まれます。

今後は実質金利低下も金相場への追い風に
米国の金融政策について、市場では今年半ばに利下げが開始されるとの見方が有力です。FRB高官からの早期利下げに慎重な発言などが目先、重荷となる可能性があるものの、今後、金融政策の方向転換を受け実質金利が低下することになれば、上述の国際情勢に絡んだ2つの要因とともに、金相場への追い風になると期待されます。

【図表】[左図]金価格と米実質金利の推移【A】、[右図上]地政学リスク指数の推移【B】、[右図下]世界の中央銀行による金の購入量【C】
  • 上記は過去のものであり、将来を約束するものではありません。