金(現物)は今年の3月以降、価格水準を一段と切り上げており、4月中旬には史上初めて1トロイオンス=2,400米ドル台を記録しました。本稿では、堅調な推移が続く金相場について、世界銀行が4月下旬に公表した最新の商品価格見通しを参考にしつつ、その動向や展望をご紹介いたします。
新興国の中央銀行による買いなどが支えに
最近の金相場の動向について、世界銀行は、地政学的緊張が高まる中、新興国の中央銀行などを中心に、金への需要が高まっていると指摘しました(左下グラフ)。そうしたことから、米国での利下げ観測の後退や堅調な景気を背景とする金利上昇に伴ない、ETF(上場投資信託)を通じた金保有が減少しているにもかかわらず、金価格は堅調な推移が続いているとの認識を示しました。
25年にかけての見通しを大幅に上方修正
金価格の見通しについて、世界銀行は、24年に年平均2,100米ドル、25年には同2,050米ドルで推移すると予測しました(右下グラフ)。前回(23年10月)見通しにおける、24年:同1,900米ドル、25年:同1,700米ドルから、いずれも大幅に上方修正された格好です。
世界銀行は、地政学リスクの高まりや主要国での国政選挙を控えた政策不透明感により、24年は安全資産としての金の需要が一段と高まるとの見方を示しました。このほか、新興国の中央銀行による外貨準備の資産構成の多様化といった戦略的な動きも需要を押し上げるとしました。25年については、インフレの落ち着きによる実物資産としての需要後退などから、金価格は小幅に低下するとの予測ですが、それでも、15~19年の平均水準を6割程度上回る見込みです。
地政学リスクを背景に一段の上方修正の余地も
今回の世界銀行の見通しでも言及された最近の金相場の構図──即ち、①米国の利下げ観測後退などが逆風となるも、②地政学リスクを背景とする安全資産需要が追い風に──は引き続き、今後の金相場を見通す上で鍵を握ると考えられます。
そのうち米国の金融政策については、FRB(連邦準備制度理事会)高官から、最近、利下げに慎重な発言が相次いでいることが警戒されます。しかし、昨年からの金相場を振り返ると、金融引き締めの長期化が一時的に嫌気される場面はあったものの、それが本格的な調整を引き起こすには至りませんでした。
他方で、地政学リスクに目を向けると、中東紛争が全面的な地域戦争となることは回避されていますが、イラン・イスラエル間の初の直接攻撃にみられるように、激化リスクを常にはらんでおり、安全資産としての金の需要は引き続き旺盛とみられます。
こうしたことから、金価格が足元の水準である2,300米ドル台から世界銀行の見通しほどには低下せず、過去数回の同見通しがそうであったように、再び上方修正される可能性も考えられます。
- 世界銀行やWGC(ワールドゴールドカウンシル)などの信頼できると判断したデータをもとに日興アセットマネジメントが作成
- 上記は過去のものおよび予測であり、将来を約束するものではありません。