イスラエルとイランの初の直接交戦を受け、4月中旬に金融市場では地政学リスクが強く意識されました。その後、戦闘拡大が回避されたとの見方から安堵感が拡がったものの、中東情勢に関する報道が連日繰り広げられており、目が離せない展開となっています。そこで、本稿では、中東情勢を読み解く上で重要なイスラエルとイランの対立の構図、最近の地政学リスクの展開、および今後の展望などについてご紹介します。

中東紛争拡大を回避し、再び「影の戦争」へ
最近の中東情勢の背景には、イスラエルとイランが親イラン組織を介して衝突する「影の戦争」という構図があります(左下図)。この「影の戦争」は、昨年10月以降に始まったイスラエルとパレスチナのイスラム組織ハマスの衝突と並行して、イスラエルが、隣国レバノンの親イラン組織ヒズボラなどからの攻勢に対して反撃したり、イラン革命防衛隊の幹部を暗殺するかたちで激化してきました。こうした中、4月1日のイスラエルによる在シリア・イラン大使館の空爆をきっかけに、両国の領土を標的とする報復の応酬となったのが、今回の直接交戦までの流れです。

イスラエルとイランには、敵対しつつも直接交戦を避けるという「暗黙のルール」がこれまであったとされてきたため、「影の戦争」が「表の戦争」になるとの懸念が一気に高まりました。しかし、その後の両国の対応が抑制的であったことから、中東情勢は再び「影の戦争」に戻ったとみられています。

地政学リスクは直接交戦前の水準に
地政学リスクの展開をみる上では、米FRB(連邦準備制度理事会)のエコノミストが開発した地政学リスク指数が参考になります(右下グラフ)。同指数は、4月中旬に昨年10月のイスラエルとハマスの衝突直後に次ぐ水準まで上昇しましたが、その後、短期間で低下に転じました。足元では、イスラエルがパレスチナのガザ南部で攻撃を強めているものの、同指数はイスラエルとイランの直接交戦前の水準に戻っており、今回の直接交戦の危機はひとまず回避されたとみられます。

偶発的な衝突リスクの高まりに注意
ただし、今後を展望すると、①今回の直接交戦が前例となり、両国の領土攻撃が現実的な選択肢となったこと、②イスラエルが米国の自制要請に従わないケースが散見されること、などが懸念材料といえます。さらに、両国の国内情勢に関して、③イスラエルでは極右派の影響力増大、イランでは国民の不満が募る中での政権の正統性誇示など、ともに対外強硬路線に傾きやすい環境にある点も警戒され、両国の偶発的な衝突の可能性は従来よりも高まっていると考えられます。

上述のように、イスラエルとイランの関係は「影の戦争」へと戻り、目先、両国が本格衝突する可能性は低下したといえそうです。しかし、イスラエルとハマスの衝突が続く中、イランとの偶発的な衝突リスクが高まっている点などに引き続き注意が必要と思われます。

【図表】[左図]イスラエルとイランの対立の構図、[右図]地政学リスク指数の推移
  • 各種報道や信頼できると判断したデータをもとに日興アセットマネジメントが作成
  • 上記は過去のものであり、将来を約束するものではありません。