年初、金融市場では、米FRB(連邦準備制度理事会)が年内に6回程度の利下げを行なうと予想されていました。しかし足元では、同国の景気の底堅さやインフレの根強さを受けて、年後半に1~2回との見方が中心的です。

利下げ観測の後退は、日々の株式の値動きにネガティブに作用するケースが多いように思われます。そこで本稿では、S&P500指数を対象に、過去の米国における利上げ局面終了後の株価パフォーマンスを振り返り、利下げ観測後退の株式への影響について考えてみます。

利上げ後の据え置き期間中、株価リターンは良好
1989年から2019年までに6回あった利上げ局面終了後の政策金利据え置き期間中、株式の平均リターンは約16%と良好でした。また、据え置き期間と株価リターンの関係をみると、同期間が長いほどリターンが高くなる傾向がありました(左下グラフ)。

IT(情報技術)バブル崩壊に足を踏み入れつつあった2000年5月~2001年1月にリターンがマイナスとなった例外(左下グラフ【4】)があるものの、利上げ局面終了後の政策金利据え置き期間では、その背景にある実体経済の力強さが企業業績や株価への追い風となるため、こうした傾向が現れると推察されます。

このように、やや長い目でみると、利下げ開始の遅れが必ずしも株価リターンの低迷につながるわけではないと思われます。

景気後退の有無で分かれる据え置き後の展開
1990年代以降の株価の大幅調整には、FRBによる高金利政策の継続というよりも、それに続く景気後退の有無が大きく影響しているとみられます。

大幅調整となった具体例としては、前述のITバブル崩壊や、2006年6月~2007年9月の政策金利据え置き期間後に発生した世界金融危機による景気後退局面が挙げられます(右下グラフ【A】)。

他方で、1990年代後半は、政策金利が平均的に現在と同様の高さで推移し、利下げと利上げが繰り返されましたが、景気後退に陥ることなく、IT産業の成長に支えられた好景気が続き、株価は長期的に上昇基調を辿りました(右下グラフ【B】)。

また、2018年12月~2019年7月の据え置き期間後も、コロナショックという不可抗力による一時的な大幅調整を迎えるまでは、景気拡大を背景に株価が堅調に推移しました(右下グラフ【C】)。

利下げ観測後退でも株価が堅調となる可能性
足元の米国経済は底堅く、この先ある程度鈍化するものの、景気後退を回避するとみられています。また、AI(人工知能)普及への期待などが、関連分野を中心に企業業績見通しや株価の押し上げ要因となっており、バブルというよりも1990年代のIT興隆期との類似性が想起されます。

こうしたことから、利下げ観測が後退し政策金利が高止まりとなっても、米国経済や企業業績の見通し次第で株式が堅調さを保つ可能性が考えられます。

【図表】[左図]過去の米国の政策金利据え置き期間と株価リターン、[右図]米国の政策金利と株価の推移(1988年1月4日~2024年5月23日、日次)
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  • 上記は過去のものであり、将来を約束するものではありません。