中国の脱炭素への取り組みは国策として進行中
世界最大のクリーンエネルギー大国、中国では、水力・風力・太陽光の発電設備容量が2023年末に全体の50%を超え、これまで主力であった火力を初めて上回りました。2020年の国連総会で習近平国家主席が「2030年までのカーボンピークアウトと2060年までのカーボンニュートラルの達成」を表明して以来、中国では脱炭素が重要な国策として進行しています。
太陽光発電産業の成長と他国からの規制強化
クリーンエネルギーの中でも、特に太陽光発電の分野で中国企業は支配的な地位を築いてきましたが、急速な発展は同時に過剰供給と価格低下という弊害をもたらしました。過剰供給の状態を解消すべく、中国企業は欧米を中心に輸出を増やしてきたものの、安価な中国製品の流入に危機感を募らせた欧米諸国は中国企業に対する圧力を次第に強めています。今年5月にはEU(欧州連合)加盟国がグリーンテクノロジー関連の域内生産率を引き上げるべく、「ネットゼロ産業法」を正式承認したほか、米国政府は中国製のEVやリチウムイオン電池、太陽光パネルなどの輸入関税を大幅に引き上げると発表しました。
太陽光発電製品の輸出先に変化がみられる
こうした状況を受けて中国の太陽光発電産業の成長は減速傾向にあるものの、一方で新たな変化も見られます。それは、欧米に代わり、中東地域が重要な輸出先となりつつあることです。中でもサウジアラビア向けの輸出額が急増しており、2023年の輸出額は前年の約4.6倍となりました。(左下グラフ)
石油資源の豊富な中東地域ではクリーンエネルギーへの取組みが遅れていましたが、石油や天然ガスは輸出に充てたほうが利益が大きく、加えて、豊富な日射量や、地権者との利害調整の少ない砂漠地帯の活用といった強みから発電コストを低く抑えることができるため、近年は大規模な太陽光発電計画が相次いで進行しています。また、足元ではサウジアラビアの政府系ファンドが複数の中国企業との合弁事業を立ち上げ、太陽光発電設備の建設に加えて、設備・部品などの現地生産を行なう計画を発表して注目を集めました。
このように、これまで先進国中心であった太陽光発電需要が今後は新興国にも拡がると予想されており、価格競争力に優れた中国企業が「一帯一路」エリアの中東や中央アジア、更には中南米などでも主導権を握っていくと考えられます。
政府の介入や支援などにも期待が高まる
このほか、過剰供給を巡る問題に関して中国政府が介入する姿勢を示している点も注目されます。7月上旬に政府当局が関連法案を発表した際には、主な太陽光発電銘柄が大きく反発しました。更には、同月中旬に開催された三中全会(中央委員会第3回全体会議)においてもクリーンエネルギーの発展を重視するとの方針が示され、政策支援が期待できる分野の一つとして市場の関心を集めつつあります。
極めて高い競争力があるにもかかわらず、様々な理由から長らく低迷してきた中国のクリーンエネルギー分野ですが、中国勢の強みが改めて発揮される局面が近付きつつあるかもしれません。
- 上記は過去のものであり、将来を約束するものではありません。