足元の金融市場では、投資家のリスク回避の動きがみられていますが、この背景の一つに米国の景気後退懸念の高まりが挙げられます。米国では、8月2日に発表された7月の雇用統計で労働市場の軟化が示唆されたほか、足元の失業率の水準がサーム・ルール*1に抵触したことなどから、景気後退懸念が高まりました。
- 元米FRB(連邦準備制度理事会)エコノミストのクラウディア・サーム氏が提唱。「米国では、失業率の3ヵ月移動平均が過去12ヵ月の最低値を0.5%ポイント上回ると、景気後退入りすることが多い」という経験則。
米国の景気後退を正式に判断するのはNBER
8月以降、米国の景気後退懸念が高まる中でサーム・ルールが話題となっていますが、同国の景気後退を正式に判断しているのは、全米経済研究所(NBER)です。NBERは、景気後退を「経済全体に広がり、数ヵ月以上続く経済活動の著しい低下」と定義しており、景気後退を判断する際には、深さ、広がり、期間という3つの基準のほか、雇用などの経済指標も重視しています。
米国が景気後退入りしたと判断するのは早計
サーム・ルールは、景気後退の判断において精度が高いとされるものの、ルール提唱者のサーム氏本人が、過去の経験則が今回の場合にも同様に当てはまるとは限らないことや、米国が現時点で景気後退に陥っている可能性は極めて低いことを指摘しています。また、7月の米失業率の悪化はハリケーンの影響を受けたことなどから一時的との見方があるほか、米国経済の堅調さを示唆する指標なども発表されており、米国が景気後退入りしたと判断するのは早計と考えられます。
過去の景気後退局面で株価は底打ちする傾向も
今後、仮に米国が景気後退入りしたとしても、景気後退局面において株価が下落し続けるとは限らない点には注目する必要があります。過去の景気後退局面を振り返ると、株価は同局面の途中で底値を付け、その後、局面の終わりにかけて一定程度上昇したことが確認できます。これは、景気がいずれ後退から拡大に転じるとの期待などを背景に、景気の回復に先行して株価が上昇し始めたからだとみられます。投資を行なう上で景気後退には悪い印象を抱きがちですが、そこが投資の好機となる可能性もあり、景気後退に対して必ずしも悲観的になる必要はないと考えられます。
- 株価が景気後退期間中に底打ちし、上昇し始める傾向を示すために、各景気後退局面におけるS&P500指数(配当なし、米ドルベース、月末値)の底値と同局面の最終月の値を比較しています。
- FREDなどの信頼できると判断したデータをもとに日興アセットマネジメントが作成
- 上記は過去のものであり、将来を約束するものではありません。