海外の株式相場が総じて軟化する中、急速な円高進行もあり、日本の株式相場は8月上旬、大幅に下落しました。その背景には、米雇用統計の予想を下回る内容を受けた景気の先行き不安とともに、円キャリートレードの巻き戻しがあったと指摘されています。そこで本稿では、同取引に焦点を当て、その仕組みや動向などをご紹介します。

低金利の円で調達した資金が海外へ
円キャリートレードは、相対的に低金利である円資金を調達後、それを外国為替市場で外貨に転換し、高リターンの外貨建て資産で運用する取引です(図1)。キャリートレードでの調達通貨は円に限りませんが、日本で長らく低金利が続いてきたことから、円は代表的な調達通貨とみられています。他方で、調達資金の外貨での運用においては、米ドル建て債券に加え、新興国通貨やハイテク株などのリスク資産が選択される例もあるようです。

歴史的な円キャリートレード・ブームが発生
円キャリートレードは、円金利が低水準で維持され、外貨建て資産のリターンが良好と期待される時に、活発になりやすい傾向があります。今年の3月中旬以降は、日銀(日本銀行)の利上げペースは緩慢との観測が拡がる一方、米国では金利の高止まりとともに株価は堅調、といった具合に同取引への好条件が整っていました。こうした中、同取引の規模を反映するとされる投機筋による為替先物等の円売り持ち高が7月上旬にかけて2007年来の水準まで増加するなど、歴史的な円キャリートレード・ブームが起きていた模様です(図2)。

また、円キャリートレードが活況を呈すると、円安が進み、それが調達資金の米ドル建て返済額を減少させ、さらに同取引の誘因を強めるという循環が生じます。その影響もあってか、今年の5月から7月にかけては、日米金利差では説明できない水準まで円安が進んでいました(図3)。

円キャリートレードの巻き戻しが招いた市場の混乱
円キャリートレードは、拡大すればするほど将来の調整リスクを高めるという性質があります。今回の場合は、米国の景気先行き不安による外貨建て資産のリターン低下や、日銀による予想外の利上げを受けた円調達コスト上昇への懸念から、一気に同取引の解消が進み、海外株安、円急騰、日本株の大幅下落につながったとみられます。

ただし足元で、投機筋による為替先物等の円売り持ち高が急減し、日米金利差と整合的とみられる水準まで円高が進行したことを踏まえると、円キャリートレードの規模は縮小し、同取引に絡んだ日本の株式相場の調整リスクは後退していると考えられます。

【図表】[図1]円キャリートレードの基本的な仕組み、[図2]投機筋による為替先物等の持ち高の推移、[図3]日米金利差と円相場(対米ドル)の推移
  • 信頼できると判断したデータや各種報道をもとに日興アセットマネジメントが作成
  • 上記は過去のものであり、将来を約束するものではありません。