金(現物)は今年3月以降、価格水準を一段と切り上げており、10月中旬には史上初めて1トロイオンス=2,700米ドル台をつけました。本稿では、堅調な推移が続く金相場について、世界銀行(世銀)が10月下旬に公表した最新の商品価格見通しを参考にしつつ、その動向や展望をご紹介します。

中央銀行勢による買いなど複数の要因が支えに
最近の金相場の動向について、世銀は、地政学的緊張の高まりや、中央銀行勢による継続的な金の購入(左下グラフ上段)、米国での利下げ開始(金利がつかない金にとって好材料)、など複数の要因が価格の押し上げにつながっていると指摘しました。また世銀は、ETF(上場投資信託)経由の金需要の回復(左下グラフ下段)も、追い風になっている、との認識を示しました。

25年にかけての見通しが一段と上方修正された
金価格の見通しについて、世銀は、24年に年平均2,350米ドル、25年には2,325米ドルと予測しました(右下グラフ)。前回(24年4月)見通しにおける、24年:2,100米ドル、25年:2,050米ドルから、いずれも大幅に上方修正した格好です。なお世銀は、今回新たに提示した26年の見通しを、2,250米ドルとしました。

これら見通しの背景として世銀は、地政学リスクや主要国の政策を巡る不透明感を受け、安全資産としての金の需要が堅調さを保つとみられることを挙げました。一方で、金の総需要の約2/3を占める、中央銀行勢による買いおよび宝飾品としての需要については、金価格の高騰を受けて、減退する可能性があると言及しました。ただし、ロシアとウクライナの戦争や中東における紛争が激化すれば、安全資産としての需要が一層高まり、金価格が見通しから上振れする余地もあると指摘しました。

地政学リスクや主要国の政策不透明感が焦点に
今回の世銀の見通しでも言及された安全資産としての金の需要は、今後の金相場を展望する上で焦点になると考えられます。地政学リスクについては、中東におけるイスラエルと親イラン武装組織間の戦闘終結は見通しづらい状況です。また、主要国の政策を巡っては、今年に入り国政選挙後に政局が混乱する例が目立つ中、米大統領選挙後の国際政治経済体制に関する不確実性もあり、全般的に不透明感があります。そのため、安全資産としての需要は、引き続き根強いとみられます。

また、主要国の政策については、国民の不満への対処として、政治的に財政拡張が選択されがちな点も、金相場との関係で重要です。財政拡張を受けたインフレや財政悪化への懸念は、金の実物資産としての価値自体や、価値の相対的な安定性が、改めて注目を集めるきっかけにもなり得ます。

こうしたことから、金価格が足元の水準である2,700米ドル台から世銀の見通しほどには低下せず、過去数回の同見通しがそうであったように、再び上方修正される可能性も考えられます。

【図表】[左図]中央銀行とETFの金の購入量、[右図]金価格の推移と世銀による見通し
  • 世界銀行やWGC(ワールドゴールドカウンシル)などの信頼できると判断したデータをもとに日興アセットマネジメントが作成
  • 上記は過去のものおよび予測であり、将来を約束するものではありません。