野党の有力者が拘束され、政治リスクが高まる
トルコでは3月19日、検察が最大都市イスタンブールのイマモール市長を汚職などの容疑で拘束したことを受け、政治リスクへの警戒感が高まり、株式、国債、通貨リラが揃って大きく下落しました。20日には、中央銀行が通貨の下支えに向け、翌日物貸出金利を急遽、引き上げたほか、裁判所が同氏の逮捕を命じた23日の夜には、株式の空売り禁止および自社株買い規制の緩和が当局から発表されました。また、25日には、金融市場の安定を図るため、必要なことは何でもすると、財務相が述べたと報じられています。
イマモール氏は、最大野党CHP(共和人民党)の有力者で、2028年までに実施される次期大統領選挙での有力候補と目されています。同氏は容疑を否認し、逮捕の不当性を主張しています。
同国の憲法では、大統領選挙への出馬要件に大学の学位取得が掲げられていますが、3月18日には、同氏の出身校であるイスタンブール大学が、不正があったとの理由で同氏の学位を取り消しました。一連の出来事が、CHPが大統領候補を選出する3月23日の矢先に起きたこともあり、野党有力者の排除を狙ったものだとして、野党勢力を中心とした大規模な抗議デモが各地で起きています。一方、政府は、捜査・逮捕の政治性を否定し、裁判所の判断は独立性が担保されているとしたほか、エルドアン大統領は抗議デモは暴力運動だとして、CHPを非難しています。こうした中、連日の抗議デモで既に約1,900人が拘束されるなど、混乱が続いています。
与党AKP(公正発展党)のエルドアン氏は、大統領の任期を2期10年までとする憲法の規定で、次期大統領選挙には出られません。なお、国会が5分の3以上の賛成を得て解散される場合、大統領選挙が前倒しされるため、任期を全うしていないことになる同氏の再出馬も可能となりますが、与党連合のみでは議席は5分の3に足りません。
通貨安が強まれば、金融政策に影響も
トルコでは昨年6月以降、厳格な金融政策と歳出削減などにより、インフレ率の低下や経常赤字の縮小が見られます。こうした中、同国の国債の格付は依然、非投資適格級ながら、主要格付会社による引き上げが相次ぐなど、政策対応や経済ファンダメンタルズの改善が評価されていました。また、インフレ率の鈍化に伴ない、中央銀行は昨年12月以降、利下げを繰り返してきました。しかし、トルコの政治リスクへの強い警戒が今後も続き、通貨リラの下落が進む場合、インフレ率の押し上げ圧力となる可能性もあり、当局には慎重な政策運営が求められます。
なお、報道によると、CHPの党首は26日、早期に大統領選挙が実施されるか、イマモール氏が釈放されるまで、抗議デモが続くと述べたとのことです。29日にはイスタンブールで大規模集会を予定しており、事態収拾の目途がつくまでには時間を要する模様です。
![【図表】[左図]トルコ・リラの推移、[右図]トルコの物価および政策金利の推移](/files/market/rakuyomi/images/rakuyomi_vol-2081.jpg)
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