円相場は、2024年7月上旬に一時、1米ドル=161円90銭台まで下落し、1986年12月以来の安値をつけて以降、下値を切り上げ、足元では146円前後まで反発しています。一方、円について、通貨の総合的な価値を示す実質実効為替レート(上段グラフ参照)を見ると、2023年8月に1970年8月以来となる安値をつけた後も下落し、2024年7月に再安値を記録しました。その後、やや反発したものの、低水準で推移しています。

通貨の実力を表す、実質実効為替レート
実質実効為替レートは、特定の2通貨間の為替レートだけでは捉えられない、通貨の総合的な実力やその変動を見るための指標です。国際決済銀行(BIS)の実質実効為替レート(Broadベース)の場合、約65の国・地域の通貨を対象として、貿易額や物価水準などを基に算出されています。その特徴の1つとして、他の国より物価上昇率が高ければ上がり、低ければ下がる傾向があります。

円の実質実効為替レートは、1995年4月に最高値をつけて以降、振れを伴ないながらも、水準を切り下げてきました。その主な背景は、「失われた30年」とも呼ばれる、バブル崩壊後に続いた低成長やデフレです。また、日銀が2013年に異次元緩和を開始し、2016年にはマイナス金利政策や長短金利操作を導入するなど、デフレ脱却に向けて長期金利を抑え込む政策を採り、内外金利差が開いたこと、さらには、低金利の円で資金を借り、高金利通貨で運用する、「キャリー取引」が活発となったことなども影響しました。ただし、日銀は2024年3月に異次元緩和を終え、利上げを行ないました。

立場によって異なる、円安の功罪
円安は、訪日客による消費の拡大につながるほか、輸出産業にとっては、価格競争力や収益の改善に寄与するなどとして、プラスとされています。ただし、輸出から海外現地生産への移行が進んだことに伴ない、円安による輸出数量の押し上げ効果は低下しています。また、家計や、輸入品に依存する産業にとっては、円安は負担増となるため、生活や事業にとってマイナスと考えられます。

当面の経済・物価見通しなどに基づくと、今後、欧米などでは利下げが、日本では利上げが予想されており、内外金利差の面からは、円に押し上げ圧力がかかるとみられています。ただし、日本は世界的にみても急速な少子高齢化や、低い労働生産性などの構造問題を抱えており、これらに対して有効な対応がとられなければ、中長期的には円安基調が続く可能性も考えられます。

【図表】[上図]円の実質実効為替レートの推移、[下図]主要通貨の実質実効為替レートでの騰落率
  • BISや日銀などの信頼できると判断したデータをもとに日興アセットマネジメントが作成
  • 上記は過去のものであり、将来を約束するものではありません。