日本企業の経営戦略において、M&A(合併・買収)の重要性が高まっています。特に、リーマン・ショック後に大きく落ち込んだ、日本企業による海外企業のM&A件数は3年連続で過去最多を更新するなど増加傾向が鮮明になっています。従来は、海外売上高比率の高いグローバル企業が、海外企業を買収することで、販路の拡大や商品ラインナップの拡充を図るケースが多く見られましたが、ここ数年は保険、食品、情報サービス、人材サービスなど、国内中心に展開していた内需関連企業による海外企業の買収が目立ってきました。この背景は、主に2点あると考えられます。
まずは、人口減少による国内市場の成熟化に対する危機感です。足元では、国内景気が底堅く推移しているため、内需関連企業の業績は好調ですが、利益が出ている今こそ、将来の成長に向けて需要の伸びが期待できる新たな市場を開拓する必要性を強く感じている企業が増えています。そして、もう一つは、日本企業がROE(株主資本利益率)を重視した効率的な経営に変化し始めていることです。これまで、日本企業は経営の安定性を重視し、稼いだ現金を内部に溜め込む傾向にありましたが、利益を生まない資産を保有することに対する株主からの圧力が強まっていることや政府の成長戦略の中で企業統治改革による効率的な経営が求められていることなどから、余剰資金を将来への投資や、株主還元に積極的に使うようになっています。特に、内需関連企業は、需要が伸び悩む国内での投資機会が少ないことなどから、余剰資金が積みあがる傾向にあり、ROEを高めるための手段の一つとして海外企業のM&Aを実施する企業が増えているものと考えられます。
日本企業による海外企業の大型M&Aが巨額の損失につながる例も多く、M&Aに対する投資家のイメージは必ずしもポジティブなものではありません。買収価格が高い案件などは、発表後に株価が下落することも多くあります。しかし一方で、過去に実施した海外企業のM&Aによって、グローバルなシェアを拡大し、成長を続けている企業も少なくありません。このような企業の中には、買収から数年後に業績が大きく伸び始めたケースもあり、長期的な視点で買収の効果を見極める必要があると感じています。そのため、当ファンドでは、買収価格が高いか安いかという視点だけではなく、買収後の相乗効果を最大化するマネジメント力を見極め、投資判断を行なっています。
ジパングでは、グローバルな競争力が高い企業をポートフォリオの軸として運用を行なっており、M&Aによって世界でのシェアを拡大してきた企業として、電子部品、FA(ファクトリー・オートメーション)機器、空調機器、医療機器、自動車部品などの関連企業を多く組み入れてきました。また、内需関連企業の海外進出についても、中期的なテーマとして注目しており、過去に実施したM&Aが業績に寄与し始めている、ITサービス、人材サービスなどの関連企業を中心に投資を行なっています。その他、後継者問題を抱える中小企業を中心に、国内企業間のM&Aについても活発化しており、その仲介ビジネスで高いシェアを持つ企業などにも注目しています。
M&Aの増加は、日本企業の経営が大きく変わり始めていることを象徴する動きのひとつです。今後も、M&Aだけではなく、設備投資や株主還元など、「日本企業が余剰資金をどのように使っていくのか」という視点を取り入れて、銘柄選別を行なっていきたいと考えています。
- グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果などを約束するものではありません。