私は、投資銘柄を選ぶ際に、決算数字の分析や、経営陣との対話だけでなく、現場を自分自身の目で見て、そこで働く社員の方から話を聞くことを重視しています。このため、小売業の店舗見学や、製造業の工場見学を積極的に行なうようにしています。今回は、最近訪れたいくつかの工場見学を通じて感じた、製造現場の状況についてお伝えします。

 最近、山梨県、静岡県、長野県にある3ヵ所の工場を訪問し、工作機械、板金加工機械、プリンター部品の製造現場を見学する機会がありました。各社ともそれぞれの分野で高い競争力を持っている企業ですが、競争力の源泉にはいくつかの共通する要素があることを感じました。

 ひとつは、自社製の生産設備を有効に活用していることです。各社とも、現場の社員の方が、最も時間を割いて説明してくださったのは、自社で作った製造設備についてです。難易度が高い、特殊な加工や組み立ての工程で自社製の設備を使うことで、他社に真似されにくい、差別化された製品を作ることが出来るということです。また、自社製の設備を作る過程で得られた技術を応用して、自社の製品開発に生かすことができるという、好循環も生まれています。自社製の生産設備の前で、「これだけは、世界のどこにも負けません!」という力強い説明をしていただきました。

 二つ目は、ITを活用することで、効率的に作業が行なわれているということです。各作業者の前には、モニターやタブレット端末が置かれ、必要な情報をリアルタイムで入手できるほか、画像や動画で手順を確認しながら作業することが出来るようになっていました。この結果、短い研修期間で現場に出られるようになり、ミスも減っているということです。仕事を始めてから3日目というパートさんが、タブレット端末の画像を見ながら、テキパキと作業をこなしていく様子が印象的でした。

 最後は、働きやすい環境づくりが進んでいることです。少し前までは、機械工場の現場はほとんどが男性でしたが、今回の見学では、現場で働く女性が増えていることを実感しました。ロボットなどの自動化装置の導入が進み、重いものを持つことが少なくなるなど、女性が活躍できる仕事が増えてきているようです。子育てをしながら働く人のために、勤務時間の工夫をするなどの取り組みも見られました。

 今回の工場見学を通じて、競争力が高い企業の現場では、自社製の生産設備で他社との差別化を図り、ITの活用や働き方の工夫で、日本の大きな問題である人手不足への対応も進んでいることが確認できました。しかし、日本の製造業を取り巻く環境は、必ずしも楽観できる状況ではありません。急速に技術力を高めている中国やアジア勢との競争は、年々厳しさを増しています。また、最近では大手自動車メーカーや、鉄鋼メーカーの現場で不正が行なわれていたという残念な事件が相次ぎ、一部では日本の製造現場に対する不信感も出始めています。製造業の中でも、現場の競争力や管理能力の差によって、二極化の傾向が強まる可能性が高いと考えています。このため、銘柄の選別にあたっては、足元の業績や経営力だけでなく、現場の対応力も十分に精査することが必要であると考えています。

 これからも、「現場」を見ることで、数字だけでは捉えきれない企業の競争力を見極めることに注力したいと考えています。