今年に入ってからの株式市場は、為替が円高傾向となったことや、米国の通商政策に対する不透明感が強まったことなどから、相対的に外部要因の影響を受けにくい内需関連企業が物色される傾向にありました。特に小売セクターで、4月の初旬に発表された各社の3月の売上高が衣料品を中心に高い伸びとなったことなどを受けて株価が上昇する銘柄が多くみられました。気温が大幅に上昇したことで、春夏物の衣料品販売が大きく伸びるなど、短期的な要因もありましたが、パート、アルバイトを中心に、賃金の上昇傾向が続いている効果が、徐々に消費の底上げにつながり始めていると考えています。

 一方で、賃金の上昇は、小売業にとって大きなコスト増加要因となります。4月に発表された小売業各社の2月期決算を見ると、売上は堅調に伸びているものの、人件費を中心とした費用の増加で、利益の伸びが抑えられてしまった企業が多くみられました。人手不足の影響は、賃金の上昇だけにとどまりません。スタッフを募集するための求人広告費用の増加や、ドライバー不足による物流費の増加、省人化のためのセルフレジやITシステムなどに対する投資負担などの業績への影響に加えて、一部の企業ではスタッフ不足で出店が思うように進まず、既存の店舗ではサービスクオリティが低下し始めるなど、中期的な成長を阻害する要因にもなってきました。

 このような環境の中、小売セクターでは、人手不足への対応力によって、企業間の業績格差がさらに拡がる可能性が高く、銘柄選別の重要性が高まっています。ジパングでは、3つの投資視点で小売セクターの銘柄を選別しています。

①値上げが可能な商品力を持つ企業

 コストアップによる値上げが必要な環境では、低価格だけに頼った企業は厳しい状況に追い込まれます。商品の機能性やデザイン、サービスの質などで、顧客の囲い込みに成功し、値上げを行なっても顧客が離れない企業を選別しています。

②働きやすい職場づくりで先行している企業

 早い時期に従業員の待遇改善や、自動化による業務負担の軽減を進めてきた企業は、今後のコストアップが限定的とみられることから、店舗拡大に伴なう成長が見込まれます。従業員の定着率が高まることで生産性が高まり、収益性の改善も期待されます。

③海外で成長できる企業

 経済発展に伴なう所得水準の向上を背景に、アジアを中心に、日本と同じ商品を販売できる地域が拡大してきました。これによって、国内向けの商品だけをつくる場合と比較して、圧倒的に生産量を増やすことができることから、製造コストが大幅に低下し、海外での拡販効果に加えて、国内での価格競争力や収益性が高まるという好循環が期待されます。

 ジパングではこのような視点のもと、国内での寡占化と海外での成長が見込まれる衣料品、家具などの大手専門店、そして、先行して従業員の待遇改善に取り組んできたドラッグストアなどに注目しています。また、小売業の省力化設備への投資や、IT投資が増加することで恩恵享受が期待される設備関連企業やITサービス企業にも注目しています。業種を問わず、人手不足への対応は長期的なテーマとして調査を続け、ポートフォリオに反映させていきたいと考えています。