一年の世相を表す「今年の漢字」に、「災」が選ばれました。北海道・大阪・島根での地震、西日本豪雨、大型台風などの自然災害により多くの方が被害を受けたほか、記録的な猛暑も生活に大きな影響を与えました。日々の企業調査活動の中でも、自然災害によって工場、店舗、物流施設などが被害を受けたことや、建設工事の遅延、物流の混乱などが、業績の未達要因となった例を多く見てきました。世界的に気候変動が大きな問題となる中で、日本は今後も自然災害と向き合っていかなければなりませんが、その被害を少しでも軽減するための解決策を提供できる企業にとっては、ビジネスチャンスにもなり得ます。

 最も直接的な好影響が期待されるのは、建設、建設資材関連企業です。政府は、2019年度予算案に、防災・減災対策を中心として公共事業に1兆円超を充てる方針で、土木関連の技術が高い建設会社や、橋梁、トンネルなどの補修に使われる建設資材の関連企業などが恩恵を受ける可能性があります。建設関連企業は、オリンピック関連工事が一巡した後に対する懸念が持たれていましたが、2025年に大阪での万博開催が決まったことや、カジノを含む統合型リゾートの開発、首都圏の再開発も控えていることから、中期的に好環境が続く可能性があると考えています。

 意外なところでは、農業の自然災害対策に取り組む種苗企業の例があります。先日、ある種苗企業の研究開発施設を訪問する機会がありましたが、そこで最も強く印象に残ったのが、台風でも倒れにくいトウモロコシや、猛暑でもきれいに咲く花など、自然災害や気候変動に対応できる種子の研究に注力していることでした。品種改良というと、野菜のおいしさや、花の美しさをより良くする研究のイメージを持っていましたが、それだけではなく、農家の経営を安定させるために、自然災害や気候変動にも強い種子の開発が重要であることを改めて認識することが出来ました。

 この他、地震に伴なう北海道全域での停電を受けて、分散型電源や、蓄電池が注目されたことや、猛暑対応で学校へのエアコン導入が進む見込みであることなど、今年の「災」を教訓に、自然災害や気候変動への対応が広がる中で、力を発揮できる企業は数多くありますので、今後も重点を置いて調査活動を行ないたいと考えています。

 また、足元の業績動向と株価の反応という観点からは、4~9月の上期業績が、自然災害の影響を受けて市場の期待値を下回り、株価が大きく下落した銘柄に注目しています。直接被災した企業だけでなく、悪天候による消費の不振や、訪日客数の鈍化、工事の遅れなどの一時的要因によって業績が下振れた企業は多くありますが、これらの要因は中期的な競争力に影響を及ばすものではなく、既に下期に入ってから回復基調に入り始めている企業も少なくありません。また、今上期の業績が実力値よりも抑えられており、来上期にかけても業績の回復基調が続くと見られることから、業績の回復を確認しながら、株価も戻り基調となる可能性が高いと考えています。短期的な業績動向だけでなく、中期的な成長性を確認しながら、株価の割安感が強まったと判断される銘柄を選別して投資を行なう方針です。