世界の株式市場は、昨年後半に大きく調整しました。この要因の一つに、世界経済の減速を背景とした企業業績の悪化懸念がありました。今年に入ってからの株式市場は、落ち着きを取り戻しつつあるように見えますが、依然として業績に対する懸念が燻ぶっている状況です。こうした中、日本で発表された10-12月期の企業決算の内容と、それを受けた株価の反応には、今後の株式市場を考える上で重要な傾向が見られました。

 10-12月期の業績を前年同期比でみると、全産業の合計では減益となり、事前の予想と比較しても厳しい内容となりました。ただし、セクターによって好不調が大きく分かれる傾向が見られ、例えば、ITサービス、人材サービス、物流など、一部の内需関連企業については業績が好調だった一方、自動車、素材、電気機器など海外経済の影響を受けやすい業種については、厳しい決算が確認されました。

 好業績企業の多くに共通するキーワードは、「人手不足」です。団塊世代が定年退職を迎えたことや新卒の採用が難しくなっていることに加え、働き方改革で残業時間が減っていることから、企業は生産性を高めるためのIT投資を積極化せざるを得ない状況にあります。このことが、システム開発やネットワーク構築などを手掛ける、ITサービス関連企業の業績を大きく押し上げる要因となっています。また、不足する人材を派遣社員で補充したり、外部に業務の一部を委託したりする動きが、人材サービスや業務受託の関連企業に追い風となりました。物流関連企業では、ドライバーの人件費上昇が大きな負担となっていましたが、人手不足に対する理解が広がり、値上げが受け入れられたことで、業績が改善しました。

 一方で、厳しい決算となった企業では、「中国」「スマートフォン(スマホ)」を理由に挙げる企業が多く見られました。米中貿易摩擦の影響を受けて、秋ごろから中国企業の生産や設備投資に変調が見られるようになり、素材関連や設備投資関連企業の業績に影響を与えました。また、これまで好調を持続してきた中国の自動車販売が失速し始めたことで、自動車、自動車部品の関連企業の中には、厳しい業績となる企業が目立ちました。さらに、「スマホ」については、市場が成熟化したことなどで、従来のような新製品効果が見られず、販売台数が事前の予想に届かなかったことから、電子部品や電子材料の関連企業の業績に大きな影響を与えました。

 全体としては厳しい業績の企業が多かった10-12月期の決算発表が続く中で、株式市場は堅調な推移を続けてきました。好業績企業の株価が決算発表後に大きく上昇するケースが多かったことに加えて、「中国」や「スマホ」の影響で業績が厳しかった企業についても、既に株価が大きく値下がりしていた銘柄が多かったために、決算発表で業績の悪化が懸念されたほどではないことが確認され、株価が上昇するケースが多かったと考えられます。

 今後の株式市場については、米中の通商問題や英国のEU(欧州連合)離脱など、海外の不透明要因が多いこと、そして、企業業績の本格的な回復にはもう少し時間がかかることなどを踏まえると、短期的には不安定な株価推移となる可能性もあると考えています。しかし、先行性の強い半導体の市況が既に1年以上の調整を経てボトムアウトの兆しを示し始めていることなどから、景気循環のボトム圏が近づいているとみられ、4月末~5月に発表される本決算で来期の慎重な業績見通しが示された後は、徐々に業績の回復を織り込んで株価が上昇基調に回帰すると想定しています。

 ジパングでは、従来から「働き方改革」や「人手不足」を注目カテゴリーと捉え、10-12月期において好業績を発表したITサービスや人材サービスの関連企業に注目して運用を行なってきました。今後も、人手不足が解消されることは期待しにくく、日本企業が生産性を高めるためのサポートを提供できる企業には、ビジネスチャンスが広がると考えていることから、関連銘柄に引き続き注目します。一方で、中国など海外の景気動向の影響を受けやすい企業については、やや慎重なスタンスとしていましたが、昨年末にかけての株価調整などで、投資魅力が高まった銘柄も増えていることから、徐々に組み入れを高めてきました。今後は、景気動向や個別企業の業績動向を慎重に見極めながら、株価の調整局面では、景気敏感セクターの中で競争力の高い企業の組み入れ比率を積極的に高める方針です。